45話 騎士ダレスの独り言
「回復薬はツベルギア草で作っています」
疑惑をかけられた私は、エリオット様に言いました。
「ロゼラス草は使っていません」
「それをこちらで調べたいので上級ポーションを提出して欲しい。もちろん代金は支払う」
エリオット様は、私とローナさんを交互に見てそう言いました。
「そういうことでしたら……ご用立ていたします」
ローナさんはそう言い、カウンターの後ろの戸棚を開けて上級ポーションが入った薬瓶を取り出しました。
「こちらでございます」
「ありがたい」
エリオット様がダレス様に目配せをすると、ダレス様が代金を支払いました。
「ところで……」
ダレス様にローナさんとのやり取りを任せたエリオット様は、ホバート青年に視線を向けました。
「スタイン公爵令息、少し伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「何だ?」
「スタイン公爵令息は、どうしてバンクス公爵がこの件に関係していると思われたのですか?」
(……!)
バンクス公爵は関係ないと、先程エリオット様は言っていました。
でも、ホバート青年はどうして、バンクス公爵が関係していると思ったのでしょう。
(そういえば、どうして?)
「それは秘密だ」
堂々としらを切ったホバート青年に、エリオット様は疑惑の視線を向けましたが、それ以上尋ねることは憚られたのか押し黙りました。
ですが、上級ポーションの支払いを終えたダレス様が顔を上げ、ホバート青年に問い掛けました。
「スタイン公爵令息は、黄金世代の巫女と婚約していらっしゃいましたよね?」
(……!)
ダレス様のその言葉で、私は神殿にいたころに耳にした婚約話を思い出しました。
――実はね、スタイン公爵令息との婚約が内定したの。
――スタイン公爵は、黄金世代の巫女だからと評価してくださったのよ。
(スタイン公爵令息って……! メレディス様の婚約者だわ! この人が?!)
私が驚いた次の瞬間、スタイン公爵令息ホバート様はさらに吃驚することを言いました。
「ああ、巫女メレディスとの婚約なら破棄した」
「ええっ?!」
私はつい驚きの声を上げてしまいました。
「ど、どうして婚約破棄したのですか?!」
思わずそう質問した私に、スタイン公爵令息ホバート様は愚痴を吐くようにして語り始めました。
「メレディスは恐れ知らずなことに天才巫女にポーションを作らせ、それを自分が作ったと偽っていたのだ。私はポーションのラベルにずっと騙されていたっ!」
(あれ? メレディス様は製薬はご自分でなさっていたと思うけれど?)
私は少し疑問を感じましたが、ホバート様はさらに続けました。
「しかもメレディスは天才巫女をいじめていたのだ! メレディスたちのいじめに耐えかねた天才巫女が神殿から逃げ出したら、メレディスの作るポーションは急に品質が落ちた。それこそメレディスがポーションの作成者を偽っていた何よりの証拠だっ!」
(製薬をしていた天才巫女ってメレディス様についてる巫女見習いかしら。いじめられて逃げ出したの?)
ホバート様は大げさな身振りで語りました。
「ポーションは嘘を吐かない。作成者が変わればポーションの味も質も別物に変わる。私にはすぐに真相が解った!」
「ポーションの味で作成者が解るのですか?」
私がそう質問すると、ホバート様は堂々と答えました。
「当然だ。魔力の質は人それぞれだからな。ポーションの味や風味に、魔力の質の違いは表れる!」
「……」
ポーションの味で作成者が解るなんて、聞いたことがありません。
光魔法ならみんな同じ光魔法だと思うのですが、違うのでしょうか。
ローナさんも騎士様たちも私と同じ疑問を抱いたのか、珍味を噛んだような微妙な表情をしています。
ホバート様の従者は誇らしげですけれど。
「メレディスはポーションを偽り冒涜した。よって婚約破棄したのだ」
「それで、スタイン公爵令息は……」
ダレス様は探るような眼差しでホバート様に質問しました。
「この店には、薬師をスカウトしに来たのですか?」
「私は上級ポーションの出来栄えを称賛に来たのだ。そして薬師殿が憂いなく仕事ができるように、何か困っていることがあったら力になりたいと思い、申し出ている最中だ」
「薬師をスカウトに来たのではないのですか?」
「ポーションを予約しに来たのだ。もちろん薬師殿が私の元で働いてくれるなら喜んで受け入れる。全ては至高のポーションを生み出す薬師殿の思うがままだ。世界が至高のポーションを待っている! 私は至高のポーション作りを全力で援助したいのだ!」
ホバート様が上級ポーションを気に入ってくださったことは解りましたが、後半の言葉の意味は良く解りませんでした。
「ふむ……」
ダレス様は考えるような顔をして唸ると、傍らにいるエリオット様を振り向きました。
「エリオット様、私はこれから独り言を言います」
「ん?」
首を傾げたエリオット様に、ダレス様は意味深に微笑むと、大きな声で独り言を言い始めました。
「独り言ですが、バンクス公爵はルネという少女を探しています」
「……!」
やはりセラフィナ様は私を探しているのですね。
「……」
ホバート様の視線が鋭くなりました。
「お、おい……ダレス……」
エリオット様が戸惑いの表情を浮かべましたが、ダレス様は朗らかな笑顔で言いました。
「尋ね人の件は、秘密と言うわけではありませんから、独り言を言っても問題ないですよね。行方不明の使用人の捜索願いですから、むしろ聞き回ったほうが良いかと」
「それは、そうかもしれない、が……」
言葉を濁したエリオット様を無視して、ダレス様はさらに独り言を続けました。
「それから、巫女メレディスの実家バーナム子爵家も、ルネという少女を探しています」
「何だと!」
ホバート様が表情を険しくして声を上げました。
「他にもルネという少女を探している貴族がいます。キルマー子爵にセンブル男爵に……」
ダレス様はいくつかの貴族の名を挙げて言いました。
(……どうして……?)
ダレス様があげた貴族の家名に、私は覚えがありました。
薬草園の貴族の巫女たちの家名です。
「これらの貴族たちは全て黄金世代の巫女の実家です。皆が同じルネという少女を探しているのです」
ダレス様は独り言を言い終わると、私のほうを向いてにっこり微笑みました。
「……」
もしやダレス様は、私がルネだと気付いているのでしょうか……?
「……そ、その貴族たちは、どうして、ルネという少女を探しているのですか?」
私が素知らぬふりでそう質問すると、ダレス様は爽やかな笑顔で答えました。
「行方不明の使用人だそうで捜索願いが出ています。不思議なことに、この貴族たちがそれぞれ探している使用人の少女は、皆同じルネという名なのです。救貧院にも問い合わせがあったとか」
「……」
思っていた以上に、私を探す貴族が多くて驚きました。
「ロゼラス草が混ぜられていると言いがかりをつけたのは、どこのどいつだ?」
険しい表情でホバート様がそう質問すると、ダレス様はぼかして答えました。
「それは市井の商会です。密告ですのでそれ以上はちょっと……」
「なるほど。……至高のポーションにケチをつけるとは良い度胸だ」
ホバート様は不敵に微笑みました。
「私が至高のポーションのために支援できることがありそうだな」




