04話 ジルさんの忠告
「他人のやることに口出しするのは趣味じゃないんだけど。あなたはまだ未熟な子供だから。大人として忠告するわ」
ジルさんは何の感慨もなさそうな顔で私に言いました。
「他人の手伝いなんて、やらなくても良いことなんだから。頼まれても断って良いのよ。人間は体が資本なんだから、もっと自分の体を大切になさい。他人のご機嫌取りなんて、自分の体をボロボロに壊してまでやることじゃないわ」
私が、体をボロボロに壊している?
「あの、私、疲れが溜まっているだけで。体は壊れていないので大丈夫です」
たしかに私は不調が続いています。
ですが、疲れが溜まっているだけで、体を壊しているというほど大げさな事ではないと思っていました。
「あなた十五歳なんでしょう?」
ジルさんは唐突に私の年齢について言いました。
「いえ、十六歳です」
「十六歳なんて、もっと悪いよ」
ジルさんは不味そうな表情を浮かべました。
「あなたの体、十六歳の体じゃない。十二歳かそこらの年齢に見える。目の下のクマも酷い。魔力の使いすぎで成長が止まっているでしょう」
「え……?!」
成長が止まっている?!
最近、一晩寝ても目の下のクマが消えなくなって、ずっと目の下にクマがあるままなのは自覚しています。
でも、成長が止まっているなんて、考えてもみなかったことです。
「魔力を使いすぎると成長が止まるのですか?!」
初めて聞く意外な話に、私は驚きましたが。
ジルさんは当たり前のことのように説明しました。
「だから子供のうちは魔力を使いすぎちゃいけない。魔力欠乏が続くと体の成長が止まってしまうから。神殿で教えてもらったでしょ?」
「いいえ……。知りませんでした……」
「は?」
ジルさんは訝し気に眉を寄せて、私に問いました。
「神殿の洗礼式で魔力が発見されたとき、説明されなかった?」
「光魔法の才能があるから神殿に行くようにと言われただけです」
「親があなたを神殿に行かせたの?」
「孤児なので親はいません」
「孤児……?!」
「はい。私に光魔法の才能があるからと、神殿が私を薬草園の巫女として取り立ててくれて、それで巫女になりました」
「どこの神殿?」
「バンクス領の神殿です」
私は今までの経緯をジルさんに話しました。
するとジルさんは渋いものを噛みしめたかのように眉を歪めて、乾いた笑いを浮かべました。
「光魔法の才能がある孤児を幼いうちから囲って、神殿を出たら生きていけないと教え込んで働かせている神殿があるって、噂には聞いていたけれど……。バンクス領の神殿のことだったのね……」
ジルさんはそう独り言のように呟くと、私に向き直って言いました。
「あなたねぇ、騙されているわよ」
「……」
「このままじゃ使い潰されるだけよ。あなたは成長も止まってしまって、体はボロボロ。そんなになるまで必死に働いても、地位も名誉ももらえない」
「わ、私は、地位や名誉なんて……求めていません。皆様のお役に立てれば、それで充分で……」
そう言いながら、私の中にはモヤモヤした気持ちがありました。
「本当に? よぉく考えて?」
私の顔を覗き込むようにしてジルさんは言いました。
「あなたは身を削って働いているけれど、功績はすべて聖女様と貴族の巫女たちのもの。彼女たちは『黄金世代』なんて呼ばれて、名声を得て、良い縁談も得ているわ」
「……」
「彼女たちは、あなたの仕事の成果をかすめ取って得をしている。あなたは仕事の成果をすべてかすめ取られて、大損してるのに、何故か喜んでいる」
「困っている人を助けるのは、当然のことです」
私がそう反論すると、ジルさんは疲れたような笑いを浮かべました。
「人に優しくするのはたしかに美徳よ。でもね、優しくする相手は選ばなきゃいけない。優しさを与える相手を間違えちゃいけない」
「選ぶなんて、そんな……」
「……そうねぇ、子供にも解りやすく言うには……」
ジルさんは少し考えるようにして目を伏せましたが、はたと思いついたように顔を上げて言いました。
「あなたがやっていることは、盗みに来た泥棒に優しくして、泥棒にホイホイお金を差し出しているようなものよ。泥棒はお金を取って逃げるだけ。あなたは泥棒されて喜んでいる」
「そんな……泥棒だなんて……」
「黄金世代として大切にされているのは聖女様や貴族令嬢の巫女たち。彼女たちはあなたから奪った功績を使って、名声を得て、良い縁談を得ているわ」
聖女セラフィナ様や、貴族令嬢の巫女たちが婚約したことは知っています。
でも、私から奪った功績を使って縁談を得たなんて……。
そんなふうに考えたことはありませんでした。
「あなたがお手伝いした聖女様も巫女たちも、あなたの功績だけ美味しくいただいて、そのうちみんな結婚してここからいなくなるわ。使い潰されて成長が止まったあなたをポイ捨てしてね」
「ポイ捨てなんて……。セラフィナ様はそんなことしません……」
「そうかしら? あなた、聖女セラフィナ様のお手伝いを断わったことあるの?」
「……!」
私はセラフィナ様に初めて出会った七歳のころから十六歳の今まで、一度として、セラフィナ様のお願いを断わったことはありません。
「試しに、お手伝いを断ってごらん。仕事を断わったあなたに聖女様がどういう態度をとるか見てみたら良いよ」
「……」
言葉を失った私の顔を覗き込んで、ジルさんは言いました。
「目を覚ましなさい。自分の体を大切にして、無理なお手伝いは断りなさい」




