36話 たくさんお金を稼ぎたい!
「粉砕機にこうしてカフェ豆を入れて……砕きます」
ベイカー氏は、粉砕機の上部の口からカフェ豆を入れました。
そして粉砕機についている金属のハンドルをゆっくりと回しました。
――ゴリゴリゴリ……。
(豆が砕けているのね)
ベイカー氏が粉砕機のハンドルを回す動きに合わせて、粉砕機の中でゴリゴリ音がしました。
「出来ましたよ」
ベイカー氏は粉砕機のハンドルから手を放すと、粉砕機の箱部分の下部にある引き出しを開けました。
「粉になってる!」
引き出しの中には茶色い粉が入っていました。
煎ったカフェ豆と同じ茶色です。
「それじゃ、この粉でカフェを煎れますよ」
ベイカー氏は布製の小袋を出すと、引き出しの中のカフェの粉を入れました。
(あれ?)
小袋にカフェ豆を入れることを疑問に思い、私は質問しました。
「私が見たカフェは水差しの中にそのまま粉が入っていました」
「そういう飲み方もありますね」
ベイカー氏はうんうんと頷きながら説明しました。
「ですが粉をそのまま入れると、飲むときに粉が混ざってざらざらするでしょう。カフェの豆茶に粉が混ざらないように、こうして麻の布袋に入れてからお湯を注ぐんです」
「お湯で飲むのですか?」
「はい」
「私が飲んだのは水でした。カフェ水だと聞きました」
「それは多分、水出ししたのでしょうね。水出しには時間がかかりますので、今回はお湯で作らせていただきます。お湯なら、すぐに飲めます」
説明をしながらベイカー氏は、カフェ豆の粉を入れた麻の小袋を、ポットにポンと入れて、熱湯を注ぎました。
ふわりと、湯気とともにカフェの香りが立ち上りました。
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
ベイカー氏は、ポットの中のカフェ湯をカップに注いで、私とニーナの前に差し出しました。
「ありがとうございます」
「いただきます」
私とニーナは、ベイカー氏が煎れてくれたカフェを飲みました。
(これだわ……!)
それは私が求めていた味でした。
熱いので、ごくごくは飲めませんが、求めていたカフェ水の味でした。
お湯で作ったもののせいか、ジルさんのところで飲んだカフェ水より香り高いです。
「美味しいです!」
私は満足感に浸りながら感想を言いました。
「美味しいのかい?」
ベイカー氏は不思議そうな顔をして私に質問しました。
「苦くないかい?」
「苦いですけど、それがクセになる美味しさです!」
「お嬢ちゃん……まだ小さいのに、随分と渋い趣味だね」
ベイカー氏は複雑な表情を浮かべて唸りました。
「カフェの味が解るとは……」
「すごく美味しいです! この苦いのが美味しいです!」
「大人顔負けの渋い趣味だな」
私がほくほく顔でカフェを飲んでいる隣で、ニーナは慎重に吟味するようにしてカフェに口をつけていました。
「香りは良いのよね。苦いけれど……」
ニーナの呟きを拾ったベイカー氏は、提案をしてくれました。
「砂糖やミルクを入れると飲みやすいですよ。ただそれをすると、カフェが砂糖とミルクの味になってしまうので、うちのネヴィル坊ちゃんが言うには邪道な飲み方らしいですが。よろしければ、砂糖とミルクをお出しします」
「お願いできますか?」
「はい。では少々お待ちください」
ベイカー氏は、厨房にいるメイドに指示を出しました。
メイドはすぐに、洒落た容器に入った砂糖と、小さなピッチャーに入れたミルクを持って来ました。
「どうぞお使いください」
「ありがとうございます」
ニーナはカフェのカップに、砂糖とミルクを入れました。
「美味しくなったわ!」
ミルク色に濁ったカフェを飲んだニーナは、笑顔で言いました。
「お砂糖とミルクを入れたほうが美味しいわ!」
「私もやってみても良いですか?」
ニーナがあまりにも美味しそうにするので、私も興味が湧きました。
ベイカー氏はにこにこして答えました。
「どうぞどうぞ。よろしければ、カフェのおかわりは如何ですか?」
「いただきます!」
◆
「知っているかもしれませんが、カフェには注意点があります」
カフェ豆の粉砕機を持っていない私のために、ベイカー氏は私が買った分のカフェ豆も焙煎して粉砕してくれました。
そして「あまり長く置くと味が落ちてしまうから」と言って、私たちに作り方を教えるために使ったカフェ豆の残りも粉砕して、私たちにプレゼントしてくれました。
そして彼は、私たちに忠告をしました。
「カフェは、目が覚める効果があります。だから夜に飲むと眠れなくなってしまうかもしれません。夜には飲まないように気を付けてください」
◆
「美味しかったね!」
「うん、とっても美味しかったね!」
マゼラン邸の料理人ベイカー氏に、カフェの豆茶の作り方を教わり、ついでにカフェの豆茶をご馳走になった私とニーナは上機嫌で帰途につきました。
「良い人だったね!」
「うん、とっても親切な人だった!」
私たちはとても楽しい気分でご機嫌でした。
「カフェを飲むと、やっぱり調子が良くなるわ。前もそうだったの」
私がそう言うとニーナも高揚気味に言いました。
「私も調子が良くなった気がするわ!」
「カフェの実を食べて踊り出したヤギの気持ちが解っちゃったかも!」
「え?! それ何?!」
私とニーナは楽しくおしゃべりしながら家路を急ぎました。
◆
その日の夜。
夕食を終えて、その夕食の片づけも終えると。
いつものようにニーナが煎れてくれた香草茶を飲みながら一息入れて、二人でおしゃべりをしました。
本当はカフェが飲みたかったのですが、夜に飲むと眠れなくなるからとベイカー氏に注意をされたので、いつもの香草茶です。
カフェは明日のお楽しみです。
「ねえ、ニーナ、私がたくさん回復薬を作ったらお金がたくさん稼げるかな?」
「そりゃあ稼げるわよ。アリーの作るポーションは最高級品ですもの」
「ニーナ、私はたくさんお金を稼ぎたい」
私はぐっと拳を握りしめて、望みをニーナに伝えました。
「たくさん稼いで、カフェ豆も、カフェ豆の粉砕機も買いたい!」




