34話 カフェと商人
「カフェの実を買って、カフェ水を作りたいの」
私がそう言うと、ニーナはカフェの実について推理してくれました。
「カフェの実なんて聞いたことがないから、外国からの輸入品かもしれない。お茶にして飲む実なら、外国から茶葉を輸入している商会に行けばあるかも。でもね、アリー……」
ニーナはひどく難しい顔をして言いました。
「輸入品ってとってもお高いのよ。遠くの国から船で運ばれてくるような品だったりしたら、すごくお高いわよ」
「そうなの?」
「遠くから運ばれてくる品ほど輸送費がたくさんかかってるから。輸送費の分だけお高くなるのよ。近くの国からの輸入でも、関税がかけられてお高くなるの。だから外国製の品を買う人たちは貴族やお金持ちが多いのよ」
「そうなんだ……」
ニーナの話に相槌を打ちながら、私はジルさんの部屋で見た金貨がざらざら入っている小箱を思い出しました。
(ジルさんは金貨をたくさん持っていたから、お高くても買えたのかな)
「とりあえず、そうね……」
ニーナは考えるような顔をして言いました。
「マゼラン商会に行ってみようか?」
◆
「マゼラン商会は、外国からの輸入品で有名な商会だよ」
女性に人気の茶房で素敵な時間を過ごした後。
私はニーナに、外国製品を扱っている大商会に連れて行ってもらいました。
「大きな船を何隻も持っているんだって」
「大金持ちなの?」
「そうそう、大金持ちよ。……ほら、あそこよ。看板が出てる」
輸入品を扱っているマゼラン商会は、人が大勢で馬車もせわしなく通り過ぎる大通りの広場に面した場所にありました。
おそらく王都の一等地です。
「すごいお店……!」
マゼラン商会の店舗は、見上げるような堂々とした大建築で、その辺で小売業をしている商人とは格が全く違うことが一目で解りました。
商人の王様のような風格のある大きなお店でした。
「……!」
マゼラン商会の入口には、かっちりした服装で帯剣している警備員らしき男性が立っていて、私たちをチラリと見やりました。
(大金持ちの大商人のお店には用心棒がいるのね)
◆
「カフェの実はありますか?」
私とニーナはマゼラン商会に入ると、店員にカフェの実について尋ねました。
「詳しい者を連れてまいりますので、少々お待ちください」
一瞬首を傾げた店員はそう言うと、別の店員を連れてきました。
「カフェの実の種なら扱っております」
カフェに詳しいという店員が来て、私たちに言いました。
眼鏡を掛けている若い男性の店員でした。
「種だけですか? 実はないのですか?」
私がそう尋ねると、眼鏡の店員は子供に向けるにこやかな笑顔で答えました。
「お嬢ちゃん、カフェの実を売っている店はこの国にはないと思いますよ。カフェは海の向こうの熱帯地方の植物ですから、実を運んだら途中で腐ってしまうんです。カフェの実はこの国まで運べないんです」
「でも私はカフェの実の飲み物を王都で飲んだことがあります」
「それは実ではなく種だと思います。カフェの木の実の種は、豆茶にして飲めるんです。飲んでいる人は少ないですが……」
「私が飲んだのはカフェの種の水だったんですか?!」
「そうだと思います。黒くて苦かったですか?」
「はい。泥水みたいな色で、苦かったです」
私がそう説明すると、私の横でニーナが「ど、泥水……」と呻いて顔を顰めました。
「それは多分カフェの豆茶です」
眼鏡の店員は得たりと頷きました。
「カフェの木は遠い国の植物ですから、この国にはカフェの木を見たことがある人は少ないです。種を実だと思っている人もいるでしょう。この国で売られている『カフェ』は、正確には、カフェの木の実の種を乾燥したものです」
眼鏡の店員の話から、ジルさんの部屋で私が飲んだカフェ水は、カフェの木の実の種から作った豆茶だったことが判明しました。
「カフェの木の実の種をください」
私がそう言うと、眼鏡の店員は困ったような顔で微笑みました。
「カフェは一貫で一袋。一袋の値段は金貨二枚です」
「……!」
(私のお給金の二カ月分だわ!)
カフェの種の値段に私が軽く驚いていると、ニーナも驚いたのか呻くように言葉を漏らしました。
「やっぱり……輸入品はお高いのね……」
(でも二カ月働けば金貨二枚を稼げるんだから……)
どうしても、もう一度カフェ水が飲みたくなっていた私は、思い切って決断をしました。
「買います! カフェ一袋ください!」
私がそう言うと、眼鏡の店員はぎこちない笑顔を浮かべました。
「……お嬢ちゃん、ご両親に了解はとっていますか?」
眼鏡の店員は柔和な笑顔を浮かべながらも、疑惑の眼差しで、私とニーナを交互に見ました。
(疑われている。こういうときは……あの手しかない!)
私は奥の手を出しました。
「私、冒険者です! お金は払うので売ってください!」
私は冒険者を名乗り、銭袋から金貨を二枚取り出すと。
――タン!
カウンターに金貨二枚を積み上げて置き、それを眼鏡の店員の前にずいと差し出しました。
不審に思われたら、冒険者だと名乗って前払いすれば良いと。
これはジルさんに教えてもらった奥の手です。
金貨二枚のうち一枚はジルさんから借りている金貨ですが、二カ月働いて取り戻すつもりです。
「……」
眼鏡の店員は呆気にとられたような顔で私を見ました。
「さ、さすがはアレキサンドライト様……! 気っ風が良い!」
ニーナが感嘆の声を漏らしました。
「……それでは、こうしましょう」
眼鏡の店員は、しばし難問に挑むような難しい顔をしましたが、再び笑顔を浮かべて言いました。
「冒険者ちゃんに、銀貨一枚分のカフェを小分けにして売りましょう。それで冒険者ちゃんがカフェが気に入ったら、また買いに来てください。次に買いに来てくださるときには一袋お売りいたします」




