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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第2章 天才薬師

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22話 ローナの薬屋

「あれが私の家です」


 ニーナがそう言って指差した先を、私は見ました。


(あれが薬屋さん!)


 それは石造りの三階建ての建物で、一階の入口に『薬屋』という看板が掲げられていました。


 ニーナは気安い調子で、薬屋の扉を開けました。


 ――チリン。


 ドアについている鈴が鳴りました。


(何も無い?)


 ニーナに続いて薬屋に入った私は、少し拍子抜けしました。

 薬屋には、薬がずらりと並んでいるものと思っていましたが、違いました。

 そこには薬らしきものはありませんでした。


 そこは狭い部屋で、木製の長椅子が二つ置かれているだけです。

 長椅子の向こうには、カウンターがあります。

 カウンターで、長椅子がある空間と、店の奥とが仕切られていました。


 カウンターのあちら側には、一人の老婆が椅子に座っています。

 老婆の後ろには、さらに奥に入る扉が一つあり、その扉以外の部分には戸棚が並んでいました。

 戸棚は、扉付きの小さな棚や、引き出しがたくさんある、大きな戸棚です。

 壁のほとんどが小物入れになっているような様相です。


(あの戸棚の中に薬があるのかしら?)


「お婆ちゃん!」


 ニーナはカウンターにいる老婆に向かって言いました。


「こちらは冒険者のアレキサンドライト様よ。危ないところを、このお方に助けていただいたの!」


 ニーナが私を紹介しました。


「おや、まあ……」


 老婆は私を見ると、椅子から立ち上がって感謝を述べました。


「ニーナがお世話になりました。助けていただき、ありがとうございます。ところで……」


 老婆は小首を傾げ、ニーナをちらりと見てから私に問い掛けました。


「危ないところとは……? 何があったのですか?」

「悪い人がニーナさんを攫おうとしていたのです。ですが悪者には、女神様が天罰を下されました。私は何もしていません」


 私がそう答えると老婆はさらに不思議そうにして首を傾げました。

 戸惑っている老婆に、ニーナが言いました。


「ねえ、お婆ちゃん、アレキサンドライト様にお礼がしたいの。回復薬(ポーション)をプレゼントして良い? 代金は私の給金から引いて」

「ニーナが自分で払うなら、好きにおし……」


「待ってください!」


 私は声を上げました。


「私に回復薬は不用です」

「いいえ、ぜひお持ちください」


 義理堅いニーナはそう言いましたが、私は説明しました。


「回復薬なら、私は自分で作れるんです」

「さすがはアレキサンドライト様! でも何かお礼をさせてください!」


「実は私は薬師の仕事を探しているのです。薬師ギルドで薬師募集の張り紙を見て、このお店を探していたんです」


 私は事情を説明しました、


「私を薬師としてここで雇っていただけないでしょうか。製薬ならできます」


「アレキサンドライト様がうちの店に! す、すごい! お婆ちゃん、良いよね! アレキサンドライト様はすごい魔力を持っているのよ! 絶対すごいよ!」


 ニーナが私を推薦してくれました。

 ニーナの言葉の中に少し気になる部分もありますが、推薦してもらえることはありがたいです。


「……」


 老婆は静かな眼差しで私を上から下まで見て、そして言いました。


「……アレキサンドライトさん? うちが募集しているのは薬師で、見習いは雇えないんです」


(子供だと思われてる?!)


「わ、私、子供じゃありません。十六歳です!」


 私が年齢を言うと。


「……」

「えっ?! 十六歳?!」


 老婆は半目になり、ニーナは目を丸くしました。


(信じてもらえてない? やっぱり子供に見られてる?)


「成長が遅れていますが、私は十六歳です。製薬ならできます。薬草を育てた経験もあります」


「……たしかに……子供にしては、しっかりした物言いだね……」


 老婆は考えるような顔をして言いました。


「じゃあ、本当に製薬ができるか試験をしよう」



 ◆



 老婆は店番をニーナに任せると、私を薬屋の奥へと招き入れました。

 薬屋の奥には、薬を作る工房がありました。

 その工房で、私は回復薬の精製をする試験を受けることになりました。


(あれ?)


 薬草だと言われて渡された草に、私は首を傾げました。


 その草にはたしかに光魔法の気配がありましたが。

 葉っぱがギザギザで先が尖っていました。

 神殿の薬草園の薬草たちは、葉っぱにギザギザはなく丸みをおびています。


「……これが薬草ですか?」


 私はつい、うっかりと質問をしてしまいました。


「そうだよ。見たことがないのかい?」


 老婆が鋭い視線でそう言ったので、私は慌てて取り繕いました。


「い、いいえ、知っています……!」


 私は竈と鍋を貸してもらい、薬草から回復薬の精製をする作業を始めました。


(色がなかなか出ない……。薄い……)


 薬草だというトゲトゲの葉っぱの草を、いつものように水と一緒に鍋に入れて、それを火にかけて煮ました。

 そして魔力を注ぎながら、鍋の中をかき混ぜました。


 神殿の薬草なら、鍋で煮ながら魔力を注げば、すぐに鍋の中の湯が緑色に色づきます。

 その緑色の濃さが、回復魔法の強さに比例します。


(最初からあまり魔力を見せるなと、ジルさんには言われたけれど)


 ――最初から全力を出すんじゃないよ。

 ――ルネが全力を出したら、すぐに厄介な奴らが集まってくるからね。


 ――使うのは、貴族巫女たちくらいの魔力で良い。

 ――彼女たちもね、あれで、市井じゃ使える部類なんだよ。

 ――貴族巫女たちくらいの魔力で、薬師は充分やっていける。


 ――全力を出すのは社会勉強をしてからにしなさい。

 ――次は、優しくする相手を間違えないようにね。


 ジルさんに言われたとおり。

 私は貴族巫女たちくらいの魔力の量で、今この回復薬の精製をしています。

 ですが鍋の中で煮えているお湯は、ほとんど色づいていません。

 少し緑がかってはいますが、ほぼ透明です。


(もう少し魔力を注ごう……)


 私は鍋に注ぐ魔力を強めました。


(試験に落ちたら雇ってもらえないもの。回復薬を作れるところを見せなくちゃ)


 鍋に注ぐ魔力を増やしたら、やっと緑色が濃くなってきました。


(魔力を増やせば色が出せる! 出来る!)


 私は手ごたえを感じ、魔力をさらに注ぎました。

 そしてようやく、神殿でいつも作っていた濃さの回復薬を作ることが出来ました。


「出来ました!」


 私は顔を上げて、老婆を振り向きました。


「……」


 老婆は目を丸くして沈黙していました。


「……なんてこったい……」


 やがて老婆は、呻くように言葉を漏らしました。


「まるで……神殿の回復薬の色だ……」


 老婆のその言葉を聞いて、私の心の中に不安の霧が立ち込めました。


(回復薬って、神殿と同じじゃないの……?)

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― 新着の感想 ―
アレキサンドライト様は、舌噛みそうになるので、愛称はアレクサ辺りかな?
これ、お婆さんじゃなかったら完全アウトだわw 今の時点で2日目? 全力出さなくてもこれって事は聖女チームヤバくないかと期待。薬草が枯れて婚約破棄祭りなるのかと思ってたけど製薬も関わってくる? 婚約した…
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