21話 出会ってしまった二人
(居た!)
裏通りを走り、十字路を見回すと、私は悲鳴の主を発見しました。
男二人に、女性が拉致されようとしています。
「誰か助けてぇっ!」
女性が悲鳴を上げています。
(急がなきゃ!)
強化された健脚で、私は思い切り地を蹴りました。
私の健脚の速度に振り切られた風が、びゅうっと耳元で鳴りました。
「健やかに眠れっ!」
私は一足飛びに現場に急行しました。
そして男たちに向けて安眠の術を放ちました。
「眠れぇっ!」
――ドサッ!
――バタン!
女性を拉致しようとしていた男二人は、白目を剥いて倒れました。
(ふう……。間に合って良かった)
悲鳴を上げていた女性は、男たちが急に倒れたことに驚いたのか、キョトンとした顔で沈黙しました。
「……」
少女と女性の中間くらいの年齢の、若い女性でした。
私と同い年くらいでしょうか。
「大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、彼女はキョトン顔のままで私を見ました。
「あ、あ、た、助けていただき、ありがとうございます……!」
彼女は私にそうお礼を言い、頭を下げました。
(私がやったことがバレている? 誤魔化さなきゃ)
「私は何もしていません」
光魔法が使えることは無暗やたらと知られてはいけませんので。
私は堂々と、しらを切りました。
「これは天罰です」
昨夜、宿屋の食堂で、光魔法のことを天罰だと説明したらみんなが納得してくれました。
その成功体験が、私に自信を持たせていました。
「女神様が悪人に天罰を下したのです」
「あの、危ない所を助けていだたいて……」
「女神様がなさったことです」
「……はい……」
彼女はキョトン顔のままで頷き、おずおずと言いました。
「解りました。誰にも言いません。秘密にします」
(ん?)
彼女の反応に違和感があったので、私はもう一度言いました。
「あれは天罰ですよ?」
「はい、解りました。天罰でした。それで、あ、あの、天罰のおかげで助かりました。何かお礼をさせてください……」
「お礼は女神様にどうぞ」
「あなた様は、冒険者様でしょうか?」
彼女の指摘に私はぎょっとしました。
「……っ!」
(どうして私の偽りの身分を知っているの?! 宿屋でしか言っていないのに!)
「ど、どうしてそれを知っているんですか?!」
やや動転して私が質問すると、彼女は答えました。
「とてもお強いので、冒険者をなさっているお方ではないかと思ったんです」
「わ、私は何もしていません。天罰は、女神様のなさったことです」
「はい。すごい天罰でした」
(天罰だって、解ってくれてるよね?)
私は不安になって心臓がドキドキしましたが、彼女は続けました。
「うちは薬屋をやっているんです。冒険者様のお役に立てる品があると思います。お礼に薬をプレゼントさせてください。回復薬も扱っています」
「薬屋さんなんですか?」
「はい」
(回復薬がある薬屋さんか。見学してみたいかも?)
薬屋と聞いて、私は好奇心を持ちました。
私は薬師として、薬屋で働くつもりですが。
孤児院と神殿しか知らない私は、街の薬屋というものを、生まれてから一度も見たことがないのです。
「薬屋さんを見学させてもらっても良いですか?」
私がそう言うと、彼女はぱあっと笑顔を浮かべました。
「はい! ぜひ、いらしてください!」
◆
「私はニーナと言います」
私が助けた薬屋の娘さんは、ニーナという名で、私と同じ十六歳でした。
「冒険者様のお名前をお聞きしてもいいでしょうか?」
ニーナが私の名を尋ねました。
「私の名は……」
偽名を名乗って、しばらくはあまり外に出ないようにと、私はジルさんに忠告されていました。
神殿や公爵家が、私を連れ戻そうとするかもしれないからという理由です。
私は用意していた偽名を名乗りました。
「アレキサンドライト・カルメンシータです」
こういう昔のお姫様みたいな長い名前に憧れていたのです。
アレキサンドライトは宝石の名前で、カルメンシータは昔のお姫様の名前です。
「すごい名前ですね! かっこいい! さすが冒険者様!」
ニーナが目を輝かせて、私の名に感心してくれました。
やっぱり昔のお姫様みたいな長い名前って、格好良いですよね!
◆
ニーナの後について大通りに出て、少し歩くと、お揃いのデザインの外套を着た三人の男たちがいました。
「あ、警ら隊がいます。あの男たちのこと通報しておきましょう」
警ら隊は、私が昨日見た騎士様たちよりは簡素な飾り気のない出で立ちでした。
警ら隊のことは聞いたことがあります。
王都の治安を守っている第二騎士団の下にある組織で、王都の見回りをしている人たちです。
騎士たちは騎士爵という爵位を持っていますが、警ら隊は平民です。
「あの人たちが警ら隊ですか?」
「そうです。王都の警ら隊です。冒険者様は王都は初めてですか?」
「え、あ……、はい、まあ……」
私は口ごもりましたが、ニーナは私のことを疑ってはいないようでした。
ニーナは警ら隊の男たちの方へとすたすた歩いて行くと、彼らに言いました。
「変な男たちに襲われて、裏小路に連れ込まれたので逃げて来ました」
「何?!」
「どこでだ?!」
「あっちの裏小路です。まだいると思います」
「一緒に来てもらえるかね?」
「あの、今、急いでいるので……」
「ふむ……」
警ら隊の男は、一瞬考えるようにして言いました。
「事件の状況を聞くことになるかもしれない。君の名前と住んでいる場所を教えてもらえるかね?」
「ロビニア横丁の薬屋のニーナです」
(ロビニア横丁!)
ニーナが語った住所は、私が探しているローナの薬屋がある横丁でした。
(ロビニア横丁の薬屋ってローナの薬屋?! でもこの子はローナじゃなくてニーナだわ。親戚かしら?!)
警ら隊と別れて歩き出すと、私はニーナに尋ねました。
「ニーナさん、ロビニア横丁のローナの薬屋って知ってますか?」
「それ、うちのことです。ローナは私のお婆ちゃんです」
(なんて幸運なの!)
偶然にも、目的地までのたのもしい道案内を得てしまいました。
これでもう私が道に迷うことはないでしょう。
(女神様に感謝を!)




