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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇


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02話 幸福の呪縛

「あなた、すごいわ!」


 私が聖女セラフィナ様と出会ったのは九年前です。


 バンクス公爵領の孤児院で育った私は、七歳の洗礼式のときに光魔法の才能が発見されました。

 私は巫女として取り立てられて神殿へ送られました。


 回復薬(ポーション)の原料となる薬草は光魔法を注がなければ育ちません。

 そのため神殿は、光魔法の才能のある娘たちを集め、巫女として登用して薬草の栽培をさせていました。


「私より小さいのに、魔力が強いのね」


 七歳で薬草園の巫女となった私は、ある日、セラフィナ様に声を掛けられました。

 私が担当する薬草畑が青々と茂っていたせいでしょう。

 大人の巫女たちの畑に負けないくらい、私の畑では薬草たちが元気良く葉を広げ、すくすくと育っていましたから。


「あなた名前は?」

「ルネです」

「ねえ、ルネ、手伝って欲しいことがあるの」


 セラフィナ様はバンクス公爵のご令嬢で、私より一歳年上の八歳でした。

 光魔法の素質があり、聖女見習いとして神殿に通っていた少女でした。


 光魔法の才能がある貴族のご令嬢は、聖女あるいは聖女見習いとなりました。

 神殿が管理する神器に光魔法を注ぐことが彼女たちの仕事でした。

 貴族のご令嬢は、土にまみれる薬草園の巫女にはならないのです。


「この神器に光魔法を注いでほしいの。やってみて」

「はい!」


 私はセラフィナ様に頼まれて、小さな香炉のような形の神器に光魔法を注ぎました。

 聖女の仕事のお手伝いです。


「ルネ、すごいわ! ありがとう!」


 私はセラフィナ様に見出されました。


 客観的には、目を付けられたと言うべきなのでしょうけれど。

 そのときの私は、特別に選ばれたような喜びを感じていました。


「ルネ、お願い。この神器に光魔法を注げば皆が助かるの。手伝って」

「はい、セラフィナ様」


 それから度々、何度も、私は神器に光魔法を注ぐというセラフィナ様のお仕事のお手伝いをしました。


「ルネのおかげで助かったわ」


 私がお手伝いをするとセラフィナ様は喜び、私に感謝してくれました。


「ルネ、これはお手伝いのお礼よ」

「わあ! 美味しそう!」

「遠慮なく食べてね」


 お手伝いのお礼だといって、セラフィナ様は私によくお菓子をプレゼントをしてくれました。

 それは高級食材である砂糖や蜜が使われているお菓子たちで、貧しい孤児だった私がそれまで食べたことがない、吃驚するほど美味しいお菓子たちでした。


 当時の私は、セラフィナ様のお手伝いをすることは嫌ではありませんでした。

 むしろ進んでやっていました。


 お礼として綺麗で美味しいお菓子が貰えたことは、私がセラフィナ様のお手伝いを進んでやっていた理由の一つでした。


 しかしそれよりも……。


「ルネ、あなたが頼りよ」

「はい! 頑張ります!」


 セラフィナ様は、私を気に掛けてくれて。

 私を頼ってくれて。

 私をすごいと褒めてくれて。

 私のおかげだと感謝してくれました。


 セラフィナ様に頼られたり感謝されたりするたびに、私の心は幸福に満たされました。

 私はその幸福感にのめり込んだのです。


 私が、親の愛情を知らない孤児だったせいでしょうか。

 私は神殿の巫女になる以前は、誰からも振り向かれないちっぽけな存在でした。

 ですがセラフィナ様は、私を見てくれて、私を認めてくれて、私を頼ってくれました。

 そんなセラフィナ様に私は心酔しました。


「ルネがお手伝いしてくれたこの神器が、民たちを魔獣から救うのよ」

「これが……?!」


 神器に光魔法を込める仕事は、民たちを守るためで、国を守る尊い仕事なのだとセラフィナ様は言いました。

 それも私の気分を良くしました。

 皆のために働いていて、皆の役に立っていると思えることは、とても誇らしい気分になれることでした。


 ちっぽけでみすぼらしい孤児だった私は、国を守っているという誇りを持つことができたのです。

 私はセラフィナ様のお手伝いをすることにより、自分は役に立つ存在なのだと実感することができました。


 そうして、私がセラフィナ様のお手伝いをするようになると。

 セラフィナ様は光魔法の天才としてその名を轟かせるようになりました。

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