17話 食堂でのトラブル
「こちらのお部屋です」
女将さんに案内を言いつけられた従業員らしき若い女性が、私を部屋まで案内してくれました。
階段を二つ上ったので三階の部屋です。
(素敵なお部屋!)
案内された部屋は、私が今まで住んでいた神殿の寮の部屋よりも良い部屋でした。
家具も新しく、清潔感のある明るい雰囲気の部屋です。
「夕食は六時からです。食堂は一階にあります」
「どこで時間が解りますか?」
「一階のカウンターと食堂に時計があります。大体日暮れの頃にいらしていただければ夕食の時間です」
「ありがとうございます」
「では、ごゆっくりどうぞ」
従業員の女性が退室して、ドアを閉めると、私は手持ち鞄を置きました。
そして窓辺に歩み寄り、窓から外を見ました。
(建物がいっぱい。人もいっぱい)
三階の部屋の窓から通りを見下ろすと、何人もの人が歩いていて、馬車も走っていました。
通りの両側には、三階建てや四階建ての建物が軒を並べています。
どの建物も一階の入口に看板を掲げていて、宿屋が多いようですが、商店もあるようです。
今までずっと神殿で暮らしていた私には物珍しい風景でした。
外に出て見物したい気持ちが起こりましたが、思い直しました。
すでに日暮れ時が近付いているので、斜めの日差しが、人々や馬車の影を長く伸ばしています。
(もうすぐ夕食だもの。慌てることないわ。明日からは仕事探しでどうせ外に出るんだから、いくらでも見物できるわ)
◆
(六時だわ)
日が暮れたので、私は部屋を出ると階段を下りて、一階のカウンターにあるという時計を確認しに行きました。
時計の針は、六時を少し回っていました。
(宿屋の夕食ってどんなかしら)
私はわくわくしながら食堂へと行きました。
そして給仕係らしき男性に、部屋の鍵を見せました。
「三十三号室のお客様ですね。こちらのお席へどうぞ」
給仕係は部屋の鍵についている数字の木札を確認すると、私を席に案内してくれました。
世間知らずの私はそのときまだ知らなかったのですが、安い宿ではこうではないらしいです。
そもそも食堂がある宿は良い宿の部類で、素泊まりしかできない安宿のほうが数が多いそうです。
私が席につくと、給仕係がすぐに料理を運んで来てくれました。
(うわあ、美味しそう!)
良い宿なので当たり前なのかもしれませんが、神殿のメニューよりも豪華な食事でした。
(女神様に感謝を!)
私は祈りを捧げると、さっそく夕食をいただきました。
パンとスープと主菜とデザートの四品でしたが。
スープは具が多くて味が濃厚で、主菜は肉ステーキでした。
(美味しい! お肉美味しい!)
私は幸福の中で美味しい夕食を堪能していました。
しかし……。
「ここは食事処だろうが!」
食堂の入口付近で怒声が上がりました。
その怒声に他の客たちも気付いたのか、雑談の波がぴたりと静まりました。
「料理が旨いと評判だから、わざわざ来てやったのだぞ。客を拒否するとはどういうことだ!」
派手な貴族風の服を着た偉そうな青年が、給仕に向かって怒鳴っています。
偉そうな青年の後ろには、体格が良くて強そうで悪そうな顔をした大男が二人、ニヤニヤ笑いをしながら付き従っていました。
二人の大男は、青年の護衛でしょうか?
「食事処は三時まででございます。夕方からは当宿にお泊りのお客様専用の食堂となっておりまして……」
「私を誰だと思っている!」
偉そうな青年は、偉そうに名乗りを上げました。
「私はバーナム子爵が息子ローガンだ。我が妹メレディスは黄金世代の巫女、未来のスタイン公爵夫人だぞ!」
(バーナム子爵令息……。あれがメレディス様のお兄様……)
私の畑を枯らした貴族巫女の一人、メレディス様は、バーナム子爵家のご令嬢です。
彼女はスタイン公爵家のご令息とご婚約なさっています。
バーナム子爵令嬢メレディス様には、バーナム子爵家の跡継ぎであるお兄様がいるというお話は聞いております。
「……」
メレディス様のことを思い出した私の心に、ゆらりと、怒りの炎が再燃しました。
私は美味しいお肉のステーキを食べる手を止めて、偉そうな青年を見ました。
「私に逆らうことは、公爵家に逆らうことと同じことだ」
メレディス様のお兄様、バーナム子爵令息は居丈高に給仕係に言いました。
「すぐに一番良い席を用意しろ」
「お泊りいただければ、お席をご用意できます……」
「こんな安宿に泊まれるか!」
バーナム子爵令息は吐き捨てるようにそう言うと、奥の席を指して、付き従っている二人の大男に命令しました。
「あの席にしよう。邪魔な下民を退かせ」
バーナム子爵令息に命令された二人の大男は、奥の席で食事をしていた夫婦らしき男女の腕をつかみ、強引に引っ張って立たせました。
「きゃあ!」
「な、何をする!」
二人の大男に腕を掴まれ引っ張られた夫婦は、悲鳴と抗議の声を上げました。
「乱暴はおやめください!」
勇敢な給仕係たちが、二人の大男の暴挙を止めようと挑みましたが。
「邪魔をするな!」
「ぎゃっ!」
体格の差も、力の差も歴然で。
給仕係たちは暴力により弾き飛ばされました。
「何をするんです!」
騒ぎを聞きつけて、女将さんや他の従業員も食堂に集まって来ました。
「騎士団を呼びますよ! やめてください!」
「お前も痛い目を見たいか?」
「大人しく引っ込んでたほうが身のためだぜ?」
悲鳴や怒号が飛び交い騒然としている中、私は静かに席を立ちました。
「……」
そして、二人の大男たちの背後に回りました。
(暴力は悪いことだもの。あれは悪い人たちなんだから、試してみても良いよね?)
私はここへ来る前に、人攫いに出会い窮地に陥りました。
私は自分の光魔法でその窮地を切り抜けましたが、今一つ、自分の力というものが把握できていません。
だから、また悪い人がいたら、もう一度試してみようと思っていたのです。
(女神様、ご加護を)




