16話 騎士団との邂逅
(ど、ど、どうすれば……!)
三人の騎士たちはあっという間に私のところへ駆け付けました。
騎士たちは、道端に倒れている人攫いの男たちと私とを交互に見ました。
「先程の悲鳴は君か?」
三人の騎士のうち、一人だけマントに金の飾りを付けている銀髪碧眼の騎士が私に問い掛けました。
「……!」
銀髪碧眼の騎士はキラキラした美貌の騎士でした。
学者風の者が多い神殿にはいなかったタイプの男性です。
私が今まで見た男性の中で、彼に一番近いのはフィリップ王子でしょうか。
私とは住む世界が違っていそうな煌びやかな男性でした。
「何があった?」
「ひ、ひ、人攫いが、出ました……!」
私は動転していました。
人攫いの男たちを倒してしまったことは、悪い事に思えていましたので、悪事の決定的な現場を見られたかもという大きな後ろめたさがありました。
しかも今まで見たこともない美貌の男性が私に話しかけています。
私にとって天変地異のような二つの大事件が、二つ同時に私に襲いかかっていました。
心臓がバクバクと跳ねています。
「人攫い?」
「は、はい……」
頭の中が真っ白で考える余裕がなく、私は問われるままに答えました。
「あいつらか?」
「はい」
私が答えると、銀髪の美貌の騎士は倒れている男たちに視線を向けました。
「エリオット様、こいつら寝ているようです」
倒れている男たちを検分していた騎士が言いました。
エリオット様と呼ばれた銀髪碧眼の美貌の騎士は、訝し気に眉を寄せて、再び私に質問をしました。
「何があった?」
「急に腕を掴まれて、あの建物に連れ込まれそうになって……」
「彼らが君をあの建物に連れ込もうとしたのか?」
「はい」
「それで、彼らはどうして寝ているんだ?」
「……」
(光魔法を見られて……ない?)
光魔法が使えることは、やたら人に言うものではないとジルさんに忠告されていました。
光魔法を見せびらかすことは、大金を見せびらかすことと同じだからと。
私が光魔法が使えると知れたら、それを狙って悪い人たちが私を騙そうとして寄って来るから、信頼できる人にしか見せてはいけないと。
「わ、解りません……」
咄嗟に私はしらを切りました。
「……」
銀髪の騎士エリオット様は私の顔を覗き込みました。
彼はその碧眼で観察するように私をじいっと見つめて、もう一度質問をしました。
「君を攫おうとした彼らは、どうして今、眠っている?」
「……きゅ、急に、眠ってしまいました……」
彼らが急に眠ってしまったのは本当のことなので、嘘ではありません。
(嘘じゃないわ……)
エリオット様の碧眼に直視されて、隠し事を見透かされそうで怖くなり、私は目を逸らしました。
嘘は吐いていませんが隠し事があるので居心地が悪いです。
「君はこんな危険な場所で何をしていた?」
「道に迷ってしまいました……」
「迷子か?」
「はい」
エリオット様は私から視線を外すと、二人の騎士のうち一人に命じました。
「ダレス、この子を送ってやれ」
「はい」
ダレスと呼ばれた騎士はにこにこの笑顔を私に向けて、子供に言うように私に言いました。
「さあ、お嬢ちゃん、行こうか。ここは危ないところだからね。家まで送ってあげるよ」
(やっぱり私って、子供に見えるのかしら?)
私は十六歳でしたが、小柄なので子供に見られます。
(でもここは……子供だと思われていたほうが良いよね)
私が子供に見えたから、エリオット様も他の騎士たちも私をそれほど疑わなかったのだろうと思いました。
ならば子供だと誤解されたままでいたほうが良いでしょう。
(成長が遅れていて助かったわ。子供扱いされるのは嫌だったけれど、たまには良いこともあるのね)
これが私と第二騎士団の団長エリオット様との最初の出会いでした。
一年後の私が、エリオット様とお付き合いしているなんて、このときは夢にも思いませんでした。
(疑われなくて良かった。女神様に感謝を!)
そのときは、ただその場を早く離れて、逃げたい一心でした。
◆
「この地図の、この宿屋へ行きたくて……」
私がジルさんに書いてもらった地図を見せると、騎士ダレスは「ああ」と合点が行ったように頷きました。
「田舎から来た子には王都の道は難しいだろうな。入り組んでいるからね」
「そ、そうなんですね」
私は田舎から出て来たと騎士ダレスに説明しました。
嘘ではありません。
三年前ですが、地方のバンクス領から王都に来たのは本当のことです。
「次は一人で出歩くんじゃないぞ」
騎士ダレスは私を宿屋の前まで送ってくれました。
そして別れ際に私に注意をしました。
「子供が一人で歩くには危ない場所もあるんだからな」
(私は一人だから、一人で歩くしかないのだけれど……。私が子供に見えているみたいだから、騎士様は私が親と一緒だと思っているのかしら)
「はい、騎士様。ありがとうございました」
誤解されているらしい部分がありましたが、あえて訂正はせずに、私は騎士ダレスにお礼を言いました。
「次からは気を付けます」
◆
「お嬢ちゃんが一人で泊まるのかい?」
私は宿屋に入ると、カウンターにいる女将さんらしき恰幅の良い女性に話しかけました。
ここに泊まりたいと。
「親は?」
私が子供に見えたのでしょう。
女将さんは不審そうな目を私に向けました。
私はジルさんの教えを思い出しました。
――不審に思われたら、冒険者だって言っておきな。
――冒険者は奇人変人ばかりで、たまに特殊能力を持った子供もいるから。
――冒険者だって言って、宿代を前払いすれば納得するよ。
「わ、私、冒険者です。宿代は前払いします」
私は懐に入れている銭袋から、金貨を一枚取り出すとカウンターに置きました。
銭袋には、ジルさんから借りた金貨十枚のうち、二枚だけ入れています。
残りの八枚は、用心のために別の袋に入れて長靴の中に隠しています。
これもジルさんの入れ知恵です。
「……何日泊まるんだい?」
女将さんは微妙な表情をしていましたが、納得したのか、私に尋ねました。
「とりあえず二日。もしかしたら延長するかもしれません。そのときはまた前払いします」
「まいどあり」
女将さんは、私が出した金貨を取ると、カウンターの中にある箱に入れました。
そして箱から銀貨を八枚取り出して、私に差し出しました。
「はい、お釣り。じゃあ部屋に案内するよ」
(やった! 宿がとれたわ!)
神殿を出てから、いきなり人攫いに攫われそうになるトラブルはありましたが。
まずは宿をとるという最初の課題をクリアできて、私はほっと息を吐きました。




