15話 ルネの実力
(……引き返したほうが良いかな……)
意気揚々と神殿を出奔した私ですが。
大通りから外れて、小路に入ってしばらく歩くと、不安を覚えて足を止めました。
そこは日当たりが悪くて薄暗い道でした。
いつのまにか人通りが無くなっています。
空気がじめじめしていて、すえた臭いが漂っていました。
道の両側には建物がぎっしりと並んでいますが、どれも古ぼけていて汚れています。
商店なのでしょうか、看板を掲げている入口もありますが、どれも扉は閉ざされていて人の気配がありません。
――人気のない場所に行くんじゃないよ。
――女の子はすぐ攫われちまうからね。
ジルさんに言われたことを思い出しながら、ジルさんが書いてくれた地図をもう一度見直しました。
(ジルさんは人気のないところへ行くなって言っていたんだから、人気のない道を教えるわけないよね……。私が道を間違えた?)
立ち止まって、戻るべきか進むべきか私が思案していると。
「お嬢ちゃん、何処へ行くのかな?」
ふいに、声を掛けられました。
(え?!)
いつの間に来たのか、悪そうな顔をした男が三人、私の後ろにいました。
(どこかの建物から出て来た?)
男たちはニヤニヤ笑いをしながら私に言いました。
「迷子かな?」
「俺たちが案内してやるよ」
そう言い、男の一人が私の腕を強引につかみました。
「……っ!」
(人攫い?!)
ジルさんから、女の子を攫う悪い男たちがいると教えられていたので。
もしやと思いました。
「は、離してください!」
私は男の手を振り払おうとしました。
ですが男はがっちりと私の腕をつかんでいて離してくれません。
「痛い目をみたくなかったら、大人しくしな」
男は素早く私の両腕を拘束しました。
「ひ、ひ、人攫いなんですか?!!」
私が動転しながらそう尋ねると、男たちは面白そうに笑いました。
「だったらどうする?」
「大人しくしたほうが身のためだぜ?」
(人攫いだわ!)
いきなり窮地に陥ってしまった私は、ジルさんの教えを思い出しました。
――もし悪い奴に出会ったら、大声で助けを呼びな。
「誰かああ! 助けてええええ!」
私は大声で助けを呼びました。
ですが、誰も来ません。
男たちはゲラゲラ笑っています。
「誰も来ねえよ」
「諦めて大人しくしな」
男たちは強引に私の腕を引っ張り、引きずりました。
すぐ近くにある建物のドアが開いています。
男たちはそこに私を引きずり込もうとしているようでした。
――誰も助けてくれなかったら、そのときは……。
――奥の手だ。
不敵な笑顔を浮かべたジルさんの声が、私の頭の中に響きました。
――光魔法を食らわせてやりな。
(女神様、ご加護を!)
私は女神様に加護を祈り、全力の光魔法で魔術を展開しました。
そしてジルさんのアドバイス通りに光魔法を男たちにぶつけました。
「何人も健やかに眠れええええ!!」
魔術の初心者のように、私は聖句を大声で唱えながら。
声とともに、全力の安眠の術を男たちに向けて放ちました。
「なっ……!」
「……!」
男たちは短く叫ぶと、ピタリと動きを止めました。
「眠れっ! 眠れえええっ!! 健やかにいいっ!」
私が次々と放出した光魔術の輝きが、静止している男たちの影を濃く閃かせました。
――聖女の手伝いをしてたなら知っているよね?
――光魔法は魔獣退治に使われているってこと。
――神器に注いでる魔術を、悪い奴に直接ぶつけてやりな。
「眠れえええっ!」
――魔獣を倒せるんだ。人間だって倒せるんだよ?
(やった! 安眠の術で動きを鈍らせた! この隙に!)
私の両腕を拘束していた男の力がゆるんだので、私は男の腕を振り払いました。
(逃げるのよ!)
――ドサリ……。
私が腕をふりはらうと、男が倒れました。
――ドサッ!
――バタン!
残りの二人の男も倒れました。
「え?!」
安眠の術は、眠気により魔物の動きを鈍らせる術です。
ですが男たちは倒れてしまいました。
白目を剥いて……。
「え?! え?! 嘘?!」
私は思わず声を上げました。
重い罪悪感が、ずしりと石のように私を圧迫しました。
(こ、殺してしまった……?! い、癒しの術を使えば……!)
私は動転して、倒れた男たちの状態を確認しました。
癒しの術を使えば助けられるかも、などと思いながら。
――スヤスヤスヤ……。
男たちは健やかな寝息を立てていました。
(寝てる……)
眠ってしまっている男たちをこのまま放置しておいて良いのか、一瞬だけ迷いましたが。
「……」
放っておくことにしました。
道端で寝ていたら危ないんじゃないかとか、体に悪いんじゃないかとか、私が心配する必要なんてないですよね。
人攫いの悪い人たちですから、助ける必要なんてないですよね。
(私だって自分のことで大変なんだから。仕方ないよね)
私は倒れている男たちを無視して、すたすたと歩き始めました。
しかし……。
「おい! 何があった!」
「……!」
後ろから、三人の若い男性がこちらに向かって走って来ました。
皆、かっちりした同じデザインの服を着ていて、帯剣しています。
(騎士?!)
悪いことをした現場を見られたような気がして、私は危機的状況を直感しました。
(み、見られた?! ど、どうしよう……!)




