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60.ミーラの話

「なぁ、おまえ聞いたか?」


「ん? またか? ミーラ隊長と騎士団長の話だろ?」


「そうそう! 今朝の訓練場だ。ミーラ隊長、また団長に決闘挑んだらしいぜ!」


「懲りねぇなぁ、あの人……もう何回目だ?」


「十八回目だ。」


「……真面目に数えてんのかよ」


笑い声が弾ける。

彼らの話題の中心――赤髪の竜人ミーラと、人間の騎士団長タイル・アルセリア。


最初は誰もが信じられなかった。

竜人の中に、人間の団長を置くなど前代未聞。

ミーラはその筆頭で、最も強く反発していた。


「人の身で竜を率いるなど、笑わせるな!」

そう言い放ち、タイルに剣を向けた日を、古参の竜兵は今も覚えている。


けれど――結果は惨敗だった。


タイルの剣は風のように速く、無駄がなかった。

そして、勝利してなお、彼はこう言った。


「強さは、血で決まるものではない。

俺はただ、この国と仲間を守りたいだけだ。」


あの言葉を聞いた時のミーラの顔――

悔しさと、何か得体の知れぬ“熱”が混じっていたという。


それからというもの、彼女は事あるごとにタイルに食ってかかる。

訓練でも、会議でも、視線が合えば言い合い。

……だが誰の目にも、それは“喧嘩”というより“惹かれ合い”に見えた。


ある日の夕刻、騎士団詰所。


「なぁ見たか? ミーラ隊長、団長のマントを直してたぞ。」


「またまた。ミーラが裁縫なんかするわけ――」


「本当だって! “ほつれてると戦場で危ないだろ”って……頬、赤かったんだぞ。」


「うそだろ……あの“紅竜の牙”が……恋してんのか?」


「恋っていうか……番、なんだろ?」


その一言に、空気が変わった。

竜人にとって“番”とは魂の半身。

選ばれた者は、どんな種でも運命で結ばれる。


「でもさ、人間だぜ? 本気で……?」


「関係ねぇよ。」

年長の竜兵が、静かに呟いた。


「ミーラ隊長、昔言ってたんだ。

 “番なんてくだらない”ってな。

 でも今は違う。団長を見つめる目が……柔らかいんだよ。」


夜、城の塔の上。

二人の影が月明かりに浮かんでいた。


「今日もまた、私を負かすつもりか?」

「いや。今日は戦う気はない。」


「珍しいな。竜に勝てる人間がそんなことを言うとは。」


「勝ちたいんじゃない。……お前と、生きたい。」


ミーラが目を見開く。

頬にかかる赤髪を風が揺らす。


「おまえ……何を言って……」


タイルは静かに彼女の手を取った。


「ミーラ。

 俺にとってお前は、敵でも、部下でもない。

 ずっと――隣にいてほしい。」


沈黙のあと、ミーラはふっと笑う。

「まったく……お前という男は、本当にずるい。」


「ずるい?」


「こんなにも、好きにさせるなんて。」


その夜、城の上空を一筋の流星が走った。

竜人たちはそれを見上げて言ったという。


「あの星は、人と竜を結んだ“魂の証”だ」と。


今でも、騎士団ではこう語られている。





「タイル団長とミーラ隊長の言い合いが聞こえたら安心する。

あの二人がいる限り、この国は平和だ」と。

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