42.告白
夜が明け、フィーアはファブレムの腕の中で目を覚ました。
フィーアは、その日の午前中、騎士団の執務室でタイルとガゼルが公務を終えるのを待ち、ガゼルだけを王宮の静かな中庭に呼び出した。ガゼルは、フィーアの銀色の髪と、どこか緊張した表情を見て、胸が締め付けられるのを感じた。
「ガゼル。話があります」
フィーアは、昨日ファブレムから聞かされた「番」の真実と、ファブレムがガゼルとの関係を許したことを、正直に伝えた。
「ファブレム様は、あなたが、私の二番目の『番』である可能性があると知っているの。そして、あなたは私の大切な仲間だからと、私の意志を尊重し、ここに留まることを許してくださった」
ガゼルの顔は、驚愕と、そして深い絶望で覆われた。彼は、自分の隠し続けた真実が、ファブレムの強大な力によって暴かれたことに、激しい衝撃を受けた。
「陛下は……気づいていたのか……」
フィーアは、ガゼルの苦悩に満ちた表情を見て、心が痛んだ。
「ガゼル。彼は、私に誰を選ぶのか、誰を愛するのか、最終的には私が決めると……」
「馬鹿げている!」
ガゼルは、フィーアの言葉を遮った。彼の瞳は、強い狼族の本能の光を放っていた。
その日の夜。フィーアは、ガゼルから「今夜、王宮の裏門近くの古い東屋に来てほしい。どうしても話したいことがある」
という、短い呼び出しの伝言を受け取った。
フィーアは、ファブレムには何も告げず、ガゼルとの待ち合わせ場所へ向かった。彼女の心は、一つの運命の愛を選んだばかりなのに、もう一つの運命の愛に呼ばれていることに、激しく戸惑っていた。
裏門近くの東屋に、ガゼルは立っていた。彼の表情は、昼間よりも遥かに切実で、悲痛だった。
「フィーア。来てくれて、ありがとう」
ガゼルは、フィーアを深く見つめ、切り出した。
「陛下は、俺が『二番目の番』である可能性があると言ったそうだな。だが、それは違う」
ガゼルは、フィーアの肩を掴み、獣人族の魂の誓いを込めて言った。
「フィーア。俺の魂は、お前を『二番目』だとは認めていない。俺の獣人の本能は、お前こそ、俺の『唯一の番』だと、初めてお前を見た瞬間から叫び続けている」
「俺の魔力は、陛下の魔力と拮抗している。それは、俺とお前の繋がりが、陛下と対等か、それ以上に深いからだ。あの嵐の夜、お前の悲しみが世界を破壊しようとした時、お前の魔力に唯一反応し、共鳴できたのは、俺の愛だけだった!」
ガゼルの言葉は、王の権威に屈することなく、フィーアへの純粋な愛情と魂の真実を訴えかけていた。
「そんな……」
フィーアの心は、激しく揺さぶられた。彼女の魂は、ファブレムの愛の強さを知っている。だが、ガゼルの切実な言葉は、彼女の心の奥底に響く、もう一つの真実を突きつけていた。
(ファブレム様の愛は、私に安寧をくれた。でも、ガゼルがくれたのは、生きるための衝動だった……)
フィーアは、ガゼルが『唯一の番』だと主張するなら、ファブレムとガゼルの、どちらの愛が真実なのか、どちらの運命が正しいのか、全てを自分で決めなければならなくなった。
フィーアは、その場で立ち尽くした。
「ガゼル。ごめんなさい……私は、今すぐには、答えられない」
「分かっている」
ガゼルは、静かにフィーアを抱きしめた。その抱擁は、獣人の切ない愛と、王への対抗心が入り混じったものだった。
「俺は、お前の仲間として、お前が答えを出すまで、待つ。だが、フィーア。俺の魂の真実を忘れないでほしい。お前は、このガゼルの『唯一の番』なんだ」
フィーアは、二人の番の、二つの愛の真実の間に立たされ、極度の戸惑いと葛藤の淵に立たされることとなった。彼女の世界の調和を司る力は、二つの運命の愛の間で、激しく揺らぎ始めていた。




