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13.救出

王国の一室(ミリアル王国 客室)



ラルクは、ユリアンナの残虐な行い、そしてフィーア(マリア)が他の侍女を庇い、今地下室で拷問を受けている可能性を、すべてファブレムに報告した。


ガンッ

ファブレムは目の前のテーブルを、竜人の怪力で殴りつけた。上質な木材のテーブルは、音を立てて大きくへこむ。


「人の番に何してくれてるんだ…!」




怒りで、彼の血のような赤い瞳が一層強く輝く。番は竜人族にとって唯一無二の存在。あまりにも悲惨な状況が彼女に降りかかっていると思うと、彼は冷静ではいられなかった。


「会いに行く」

「なっ、陛下!?!?」


ラルクは引き留めようとしたが、ファブレムの顔を見て言葉を失った。竜人の王がこれほどまでに感情を露わにするのは、彼にとっても初めてのことだった。

バンッと勢いよく扉をあけ、ファブレムはその場を飛び出した。


ラルクも「待ってくださいよ!」と慌てて彼を追いかけた。彼は王の行動が外交問題になることを恐れたが、同時に、その侍女が本当にフィーアなら、一刻の猶予もないことを理解していたため、強く引き留めはしなかった。



ファブレムは王宮の廊下を、並みの衛兵では追いつけない速度で歩いている。いかにも侍女長らしい年上の女性、リルムに声をかける。


「マリアという王女様付きの侍女はどこにいますか?」


リルムは戸惑う。なぜバルザード王国の使者である彼らがマリアの様子を?ここで言ってしまえば、自分は王女の秘密を漏らした罰を受けるだろう。しかし、マリアが毒を飲んだことを知りながら、王女の行動を止められない自分への苛立ちもあった。マリアの命を救うには、この王族しかいないかもしれない。そう葛藤する。



「マリアは…地下室の牢です」



一言、言うのが限界だった。彼女は王女への恐怖と、マリアへの罪悪感に顔を歪ませた。


「あなた方は、、、案内します」


リルムは彼らに希望を託した。


地下室




地下室の奥、薄暗い牢の前で、ファブレムとタイルは立ち止まった。

言葉を失った。


目の前の光景は、あまりにも凄惨だった。


「マリア!?しっかりしなさい、マリア!!」


一緒に地下室に来ていた侍女長リルムが、牢の隙間から声をかけるが、フィーアはピクリとも動かない。

ファブレムの視線が、フィーアの体へと向かう。

足は不自然に曲がり、地面には血溜まりができている。拷問を受けたことが明らかだった。

顔は長い茶髪で見えないが、意識があるようには見えない。

手足はあちこち傷つき、所々皮膚が剥げている。

ファブレムは無言だった。怒りを超えた、静かな殺意が空間を支配する。

ラルクも、その惨状に言葉を失っていた。


「酷すぎる。これが…人間がすることか…?」



ガシャン!!!

ファブレムは、牢の厚い鉄製の扉に手をかけ、素手で錠前ごと引きちぎり、扉を大きく歪ませた。


リルムは「他国の方にそんな…」と、扉を壊したことよりも、王女の秘密が露見したことを心配する。

ファブレムはフィーアを優しく抱き上げ、その小ささと軽さに息を呑んだ。



「すまない、彼女を借りる」



そういうと、彼はタイルと共に、一瞬でその場から姿を消した。

リルムはその現実が受け入れられなかった。


何が起こったの…と。牢にはただ、フィーアがいた場所を示す黒い血溜まりの跡だけが残ったままだった。



ミリアル王国内 使節団の宿舎


バン!と勢いよく宿の扉を開けた。

あらかじめ取っておいた、バルザード使節団専用の宿だ。


「息が弱い、このままでは…」


ファブレムは彼女を寝台に寝かせ、状態を見る。

彼は念話で、バルザード王直属の最高位の治癒魔術師を呼び寄せる。

医師が駆けつけ、フィーアの状態を見る。


「これは…」

医者は絶句した。

「どうなんだ!」


ファブレムが詰め寄る。


「王よ…。彼女は何者です?頭の傷、四肢の打撲、そしてこの尋常ではない毒。これほどの傷と毒に侵されて、本来生きてることがありえません。これは…まるで毒と痛みを感じない体質を持つ者が、さらに生命力を削り取る猛毒を受けた状態です。何とか一命は取り留めましたが、予断を許しません」


ファブレムは安堵よりも、怒りを覚えた。彼女が受けた苦痛と、彼女自身の特異体質。そして、その極限状態でも微かに感じられる甘い番の気配。


(必ず、助ける。そして、二度と誰にも傷つけさせない)


ファブレムは、小さく横たわる番の手を、そっと握りしめた。

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