第5話 友達
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朝だ。窓から差し込む光に目を細める。ゲーミングチェアに座ったまま寝ていたようだった。体の節々が痛みを訴えている。
デスクの上に目を向けると、作業の痕跡が残っていた。
「かたづけないと……」
昨日は気分が高揚して、暴走をしてしまった。
「くあぁ」
夜更かしの代償で襲ってきた眠気に勝てず、あくびを漏らす。疲れた目を擦ると、柔らかい瞼が不快な痛みを感じる。
「っ」
気がそがれた。
片付けるのは後にして、学校へ行く準備をすることにした。
「おはよーいいんちょ」
「おはよう」
教室に入って一番。途中半端な不良みたいなやつが挨拶をしてくる。顔はわかる。覚えている。
「なあ、放課後の文化祭準備って、いつから始んの?」
「確か11月に入ってからだった気がするけど、なんで?」
「いや、まあ楽しみだから」
「見た目のくせに青春したがり」
「……」
多分名前が魚系の青春したがりくんは、俺を見て奥歯に物が挟まったような顔をした。
「いいんちょー、おっはよ!」
「おはよう」
キーンコーンカーンコーン
「ホームルーム始めるぞー」
昨日に非日常のような出来事があったとして、今日もあるとは限らない。けれど、あると信じて生きてゆくのが楽しい人生って思ってた。でも、この頃、不思議とどこかで、歯車が回り始めた音がする。
今日も今日とて人の多い教室で弁当を広げると、男二人が群がってくる。
机を三人くっつけようとして、力加減が合わずにガシャンと大きな音が鳴った。
一番初めに座ったのは佐山。デカ目の男だ。先日の黒髪の男のように巨漢なわけではなければ、俺よりも背が高くはある。
二番目は名前が思い出せない不良もどき。ピアスが合わないのか、しきりに耳を触っていた。
俺が座ると、二人は問題集を取り出して俺の目の前に差し出す。これ目当てで、二人は昼休みのたびにやってくる。
「なー、いいんちょってモテんの?」
「えっ!いいんちょ、俺初耳なんだけど!」
「佐山くん、そこ間違ってるよ。別にそんなことないけど」
疑問の意を込めて佐山の目を見つめると、彼はバツが悪そうに目を逸らす。
「俺、見たんだ……」
「ゴクリ」
「うん」
「いいんちょのロッカーから、すげえ大量に手紙が出てくるところ!」
「ええーー!」
「?」
なんのコントだろう。
「俺は、手紙は一通しか貰ってないよ」
「え、どゆコト?」
「まじ?じゃあ入ってたの何?」
「CD」
「CD」
「しーでぃ?」
三連続。
「なんで?」
とは佐山。それを見て畳み掛けるように
「なんで?」
とはなんか魚系の名前のやつ。
「熱烈なラブレター」
「やっぱラブレター」
「まぢか」
「重かった」
「それは重そうだな」
「え?え?どっちが?」
「バカ、それは無粋だろ」
「え、いいんちょごめん」
まゆを下げて、いややっぱり不可思議な顔をする魚みたいな名前のやつ。
「あっはははは」
寝不足で情緒がおかしいみたいだ。腹が捩じ切れて、そういうパンみたいな形になりそう。
「いいんちょ!そんなに笑ったら、コイツが、可哀想だろ!?」
「佐山が一番バカにしてるぢゃん」
「あっはははっはは」
◇◆◇◆
昼休みの最後、いいんちょは過呼吸になりながら、横から現れた蛹さんに攫われていった。
「ねえ、蛹さんめっちゃこっち睨んでたくね?」
「俺見てねえ」
「なんかめっちゃ見てた」
「魚田は周り見過ぎじゃね?」
思い出すのは、白い肌に、肩より長い黒髪の綺麗な人。瞳がどこまでも見透かすようで、初見に印象的だった女の子のクラスメイト。
「俺なんか悪いことした?」
「いや、やっぱアレだろ?」
佐山はニヤリと笑って、ねっとりとした言い方でアレと言う。気持ち悪い。
「お前がいいんちょと一番距離が近いからだろ」
「ハッ、バレちまったか、俺といいんちょが、ソウルフレンドだってことが」
「物理的な方だよ。気持ち悪いな」
「知ってますー」
「まあ、心の距離はクラスの中ではちけえんじゃねえの?ス、ズ、キ、くん?」
「キッショ」
「おいこらてめ」
「はぁーー」
ため息と共に、体重を自分の支配下から手放すと、古びたイスはギシリと悲鳴をあげた。
「ま、でも聞いてただろ?」
「まあ、そこまでちゃんと聞いてねえけど。言われてみればだな」
「多分、いいんちょがあだ名で呼ぶのが俺だけなのは、めんどくさいからだろーな」
いいんちょには、俺を鈴木と呼ぶ日と、そうじゃない日がある。今日は呼ばない日。
「まあ、人のこと覚えるの苦手だって言ってたし。しゃーねーだろ」
「がー、俺の特権がっっ」
「はんっ」
「鼻で笑うなっ」
薄々気づいてだけど、結構ショック。多分あの人は、個人という人に興味がないんだろう。
なんだろう、歴史の教科書に出てくるみたいな、役割がある、その人が果たしたことがある。というような、果たしたことの後に名前がある、みたいなのはわかるけど、言い方は悪いが、有象無象には興味がなくて覚えられない?
「あああ、わっかんね」
「発狂し出した」
「……はぁ、いいんちょって、どんな人なら興味があるんだろうと思って」
「………、興味を、っもたれたいのか?」
「そーゆー意味じゃねえ!」
まあでも、あの人に興味を持って欲しく無いやつなんて、このクラスにいないだろう。
なんたって
「まあ、ヒーローの私生活は、市民には覗けねえってことなんじゃねえの」
「……、お前、国語何点だった?」
「42」
いいんちょは、このクラスのヒーローだから。
日常回ってなんですかね。ゲシュタルト崩壊。
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