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第4話 愛

この作品を選んでいただきありがとうございます。是非最後までよろしくお願いします。

「あは」

「…………、なに」


 堪えきれずに笑うと、()()は普段通りを保とうとした顔をさらに青くする。


「好きだよ」

「知ってるし」


 じゃあなんで答えてくんないのとは言わない、いえない。好きな人が溺れて窒息するのはすごくすごく悲しいことだから。


「俺さぁ、人が悲しんでるのも苦しんでるのも苦手なの。嫌い」


 あいが唇を噛む。


「でも、大好きな人が俺のことで苦しんでるのは、嬉しくて、ムズムズすることだったんだって、あいがいなかったら絶対知らなかったと思うんだよ」


 苦しそうな顔。笑顔になってほしいのに、嬉しくて胸が熱い。


「だから、離れたくない。ずっと一緒にいたいよ」


 目がキラキラしてる。ブワって効果音がつきそうな感じであいの目から涙が溢れる。


 綺麗だな。


「あいを一番にして、ずっとそばにいるって言ったけど、ごめん。いくらでも待ちたいけど、俺って我慢強くないみたい」

「っ、そうだよ。知らなかったでしょ」

「うん」


 地面に落ちる雫が勿体無くて、指で涙を拭う。地面に落ちたら、蒸発して、誰も彼女がここで涙をこぼしたことを知らないままその上を歩いていく。それがなんだか気に入らない気がしたから。


「今日、てかさっき。バレちった」


 いたずらを告げるように耳元で小さく言うと、あいが綺麗な目を大きく見開く。


「あっ!俺がやらかしたんじゃないから!」


 大慌てで必死に取り繕うと、彼女はおかしそうにわらう。


 それを聞くと、一拍遅れてあいが白い肌を真っ赤にして、心臓がまたムズムズする。


「やっぱりさ、笑ってるのが好きかも」


 お腹が減ってるのでも、美味しそうでもないのに、ガブリと噛みついてやりたい。


「でも、俺ってばお利口だから、もうちょっとだけまったげる」


 何かを口にしそうなその唇を人差し指の外側で止める。


「今はいい返事が聞けそうにないからだめ」


 指を離して、手を握って指を絡めさせる。彼女の方からゆっくりと握り返しくる。小さなその口に力が込められる。


「ほら、家に帰ろう」

「うん」




 いつもより帰るのが遅くなったから、人の気配がしない、足音がよく響くマンション内の白いエントランス。


 あいと俺は同じマンションだ。だから俺たちは物心ついた時から一緒にいた幼馴染と呼ばれるものだ。


 幼馴染って言葉は、あまり咲来感じがしなくて好きじゃないけど。


 ずっと繋いでいたてを離そうとすると、ふいにぎゅっと力が込められる。


 心臓がぐぅっと縮まって、衝動的にあいを抱きしめる。


「っ、ちょ、なに」

「すきだーーーー!!」

「叫ばないで!」

「ご、ごめん……」

「………」


 一瞬本気で怒ったかと思ったが、顔がまた真っ赤だ。おいしそう。


 体を離して、今度こそするりと手を抜く。


「ばいばい、また明日」

「うん、ばいばい」

「やっぱり家に行ってもいい?」

「用ないでしょ、だめ」


 小さく頭を振って拒否をする彼女。

 

 俺は残念だと肩をすくめて、くるりと後ろを向いて自分の家へ向かいだした。


「はあ、……」

「やっぱり行ってもいい?」

「ダメ」


 去っていく音がしないことに疑問を感じて振り向くと、彼女は俺の方を疲れたような寂しいような顔で見ていた。抑えきれずに再び聞くけど、答えは同じだった。


「もう」


 そういうと彼女は、自分の家の方へと向かっていってしまって、今度は俺がななんだか名残惜しくなって背中を見ていた。




 帰ってきて始めに入ったのは自分の部屋。


 空っぽの水が入っていたはずのペットボトルが散乱している。ナマモノはゴミ袋に入れているけれど、ところどころに放置している食べかけのお菓子。


 放置された服を、とりあえずベッドの上に置いておく。


 ふん、とひとつ鼻息をして、気苦しい制服を脱いだあとそれもベッドの上に投げ捨ててからスウェットを着る。


「だぁーあ」


 ゲームチェアにどしっと座ってパソコン電源をつける。青白い光が目に刺さって、部屋の電気がついていなかったことに気づく。


パチッ


 イスから最大限に手を伸ばしたら届く位置にある電気のスイッチは少し気に入らない。


 頭の隅でそんなことを喚いている自分を感知しながら、カチ、カチとマウスを操作して動画投稿サイトを開く。


 チャンネル名はギャラクシー。俺と、あいが全力で音楽を楽しんだ証。普通の人間の擬態が外れた日は、こうやってリセットする。


 頭の中から、さぁぁっと不純物が抜けてをいくのを待つ。


 白紙のノートと楽譜を前に、ペンを取る。


 誰にも聞いてもらえない、感情の捌け口を目的に作られる虚しい音が、今日も量産されていく。


「絶対バレたら泣かれる……」


 感じるスリルに心臓が熱を持って、血流が速くなる。冴えた耳に聞こえた自分の声は、楽しげに響いた。

 






 次回は多分日常回かなー、と思います。投稿した後に気づいたんですけど、あらすじと矛盾があったんで直しときました。多分最後になれば意味がわかるはず。


 ありがとうございました。いいね、感想、評価、レビュー、いただけると励みになります!


 



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