第3話 輝き
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「え……、と。」
「あ、あれ?でも……、悪いね、なんでも、ない」
明らかに戸惑ったような態度を見せれば、声をかけてきた男は自分でもよくわかっていないような顔をして謝ってきた。
高い背丈に、黒髪短髪。両耳に一ずつピアスが付いていて、面相が悪い男。
油断していたのかもしれないが、こんなに目ざとく、いや、耳ざとく気づかれるとは思っていなかった。
「ギャラクシーって言ってましたっけ。なんです?それ」
「ああ、やっぱり、違うな。ごめんな、ネットで活動してて、今はもう活動休止してる歌い手っていうか、歌がえぐくて、作曲ができる天才。もういなくなって一年ぐらい経つから、ちょっと幻覚見始めてたのかも」
俺が質問すると、男はがっかりしたような、悲しいような、苦しいような複雑な感情をごったにしたような感じで顔をこわばらせて、その後は疲れたような口調で質問に答える。
時たま呆れたような声色にするのが耳についた。
目の前の男がしている、迷子のまま泣き腫らしているみたいな目をしているのが、どうにも頭から離れない。
「諦めたほうがいい、ねえ」
「ん、え?」
普通の人をやってみて気づいたが、俺にはどうにも刺激がない日々への耐性が欠如している。
まあ、まだ辞めるわけにはいかないから、ちょっとだけ。
「ギャラクシーについて」
「は」
「まだなんかないんです?」
「そ、れは、好きなこととか、ってこと」
「じゃそれ」
「ギャラクシーは、声質がいいんだ。聞いてると頭がビリビリする。多分そこまで低い声じゃないんだけど、周波数が特殊なのかな、病みつきになる」
「ふうん」
「……、あんまり、ライブ配信とかしてても喋んなくて、ずっと歌ってる。ファンサービスはすごく頼んだらたまにしてくれるんだけど、そこが一貫してる感じがしていい。でも雑談する時はちゃんとしてくれる」
────あと、褒めた後に催促する時、ふうん、っていうんだ。
「そうなんですね」
「うん」
男の息のリズムが不規則になって、心臓の音が速くなっている。
この様子だとまあ言わないだろうし大丈夫そうかな。
「ああ、俺人待たせてるんで、これで」
「え、あの、まって!」
「辞めた本当の理由って、なに?」
久しぶりに機嫌が良いから、軽く笑って答える。
「まんま」
◇◆◇◆
「はぁーーーーー」
深いため息が出る。そうでなくちゃやってらんない。
「マジで本物……?」
ギャラクシーだ。生涯不動一位の推し。ギャラクシーがいたから音楽始めたし、友達もできた。何より
「イメージ通りじゃん………」
初めに声かけた時はザ一般生徒みたいな感じだったのに、なんか途中から雰囲気変わったし。やば。
ギャラクシーは人に興味があんまりないことで有名だ。(ファン界隈)自分が話したことも人が話したこともそんなに覚えてないし、結構やらかしてたからマジなんだなって思ってた。
けど、ギャラクシーは擬態ができる!!新情報なんですけど。才能溢れすぎか?
人のいない肌寒い廊下で一人悶えていると、肩にポンッと衝撃を感じる。
「やっぱこっちの人間じゃん。マジもんのヤバいやつ」
よくわからないことを言っているが、この人は自分がいいと判断した人には結構雑だから多分これがデフォルト。最近わかった。
光が反射してキラキラ光る色素薄めの髪がふわりと揺れる。汚れ一つ見つからない綺麗な肌にすっと通った鼻筋。綺麗な二重のパッチリとした目。
「観夢さん」
「あいつのこと知ってるっぽいじゃん」
「ぇ、あ、ままあ?」
「ちょっと教えて」
「え」
やばい、吸い込まれる。
「それで、ギャラクシーはまだニ年しか活動してないんすけど登録者があっという間に十万二十万三十万と超えていって、歌ってみたとか今は千万回再生超えてるものあるんですけどそれよりファンの熱がすごいんすよ。作曲もできてめっちゃ界隈で歌みた出されてたのとかあるし。コメント欄は毎回阿鼻叫喚の嵐でなんていうかこの数字の分だけこの熱量が注ぎ込まれてるんだなって思って、才能とカリスマ性?とにかく人を寄せ付ける力がありすぎる。ずっとやってたらもっともっと俺らのギャラクシーが世界にばれちまうはずだったのに」
「逢賀くんもうちょっと短くまとめられる?」
「界隈で熱狂的なファンがいる天才歌い手兼作曲家」
「なるほど」
◇◆◇◆
「はあ、はあ、ごめん!藍華!」
もう肌寒い時期た。中に入るほどではなかったのだろうが、彼女の指先は寒さでかじかんでいた。
小走りに近づいて一緒に歩き始める。
二人分の足音が心地いい。若干頭がスッキリしているからか、音が鮮明に聞こえる。
藍華の心臓の音も。
「うん、まあいいけど。なんかあった?」
「いや、ちょっと知ってる先輩に捕まってた?」
「なんで疑問形だし」
ドッ、ドッ、ドッ、ド
大きくなる音。
くすりと藍華が笑った。なんだかそれが眩しくて、触れたくなって、手を伸ばした。
「っ」
藍華は黙ったまま耳を赤くした。顔を覗こうかとも思ったけど、かわいそうかなと思って辞める。
ドッドッドッド
速くなる。
代わりに、その冷たそうな手を握った。小さくて、柔らかかった。
ドドドドドドド
「ねえ」
おそらく反射的に振り向いてしまった藍華の顔は、戸惑いと、恐怖で満ちていた。
今日は特に書くことないんで前に作っといたテンプレート載せときます。
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