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第2話 慧眼

この作品を選んでいただきありがとうございます。是非最後までよろしくお願いします。

「じゃ、このクラスが文化祭でやること決めまーす」


 ざわついていた教室は、俺の一言で落ち着いた。愛想の良さげな笑みを浮かべて、話を進める。


「決める時間はもうこの一時間しかないらしいので、頑張って決めましょう」

「それって休み時間とかもダメってこと?」


 短髪の活発そうな女子が手を挙げる。


「今日中に提出でーす、俺は部活があるからみんな頑張って早く決めてくださーい」

「いいんちょ部活入ってないじゃん」

「いや、帰宅部」


 ツッコミを入れてきたやつは、いくつも付けているピアスを揺らして苦笑いをした。

 そのうちの一つのピアスが反射した光を目の当たりにしてしまって、じくりと痛んだ感覚がした。




 頭で響く、絶えず流れる穏やかな話し声。チョークの削れる音。物が落ちる音。服が擦れる音。自分の話し声。


キィーン


 放課後の静かな教室とかけ離れていて、耳鳴りがした。胃の中で、重くドロドロとした物が溜まり続けている感覚がする。


「きもちわる」


 口を見られないよう俯いたまま呟く。止まっていたシャーペンをまた走らせる。『文化祭企画書』と書かれた書類へ、必要事項が記述されていった。


「大輝?」


 この教室で音を発する二人目に声をかけられて、書類を完成させてから顔を上げた。


「何かいった?」

「なにも?」

「そう」

「そういえば、俺に用事があるって言ってたね。何?」

「っ、ああ……もういいよ」


 彼女は睫毛に縁取られた目を一瞬だけ見開いて、すぐになんでもないような顔をした。


「待たせてごめん藍華、もう終わった。行こう」


 席を立って彼女の隣へいくと、彼女の心臓の音がよく聞こえる。俺しか知らないリズムで脈打つ鼓動は、とても心地がいい。歩いているうちに肩が触れて、熱い体温がよく伝わった。


「どこに提出?」

「生徒会だって」

「じゃ私入れないじゃん」

「そうだけど」

「ジュース買いたいから校門行って待ってる」


 彼女の肩よりも長い黒髪が、歩くのに沿って揺れる。白い肌によく映えるのに、なんてことを後ろ姿を見ながら思った。


 まだ九月の中旬なのに、体温が恋しい。彼女は、藍華は、俺の幼馴染で、俺の好きな人。


 ずっと一緒にいたい人。


カツ、カツ、カツ


 一人分の足跡は、よく響いた。


ガラガラガラ


「一年一組学級委員の有栖川大輝です。文化祭企画書を提出しに来ました」

「はーい、俺のとこ置いて」


 生徒会室内は随分と慌ただしかった。二十人よりは少ないぐらいの人数がいて、声をかけてきた先輩はこちらの顔をチラリと見ただけだった。


「ありがとう。うん?」


 二度見された。

 

 先輩はだいぶイケメンだった。髪の色素が薄くてキラキラしている。顔の造形がすごく整っていて芸能人っぽい。


「あ、へぇー」


 そのキラキラ先輩はパソコンから手を離して俺をまじまじと見た。


 俺には見覚えがない。生徒会室には行事の度に出入りしているから、そこで何かしでかしたんだろうか。今、人の名前や顔を覚えるのが苦手なことを後悔している。


「俺ちょっと休憩するからー!」


 そう言って先輩は俺を連れて生徒会室から出た。


ガコン


 近くの自動販売機からホットのココアが出てくる。キラキラ先輩はそれを俺に投げて、もう一つ同じ物のボタンを押した。

 

「君、俺が誰かわかってないでしょ」

「え、俺先輩と話したことありましたっけ。生徒会関係?」

「違うよ。ほんとにわかんない?キラキラ先輩って呼んでたかな」


 先輩が自分の髪を指さして、それで思い出した。


「ああ、あの路上ライブの!」

「あ、思い出した?君のせいで俺、文化祭出ることになったから」

「なんかしましたっけ」

「自覚ないんだ、天然かな」


 先輩は、何故か探るような目でこちらを見た。


 数ヶ月前だったか。最寄駅の近くで弾き語り路上ライブをしている人がいた。都会とも田舎ともいえない中途半端なこの箱庭で歌を歌っているのがなんとなく気に入ったから、最後まで見ていた。


 その人は上半分だけのお面をしていて、顔を見られたくないのか、コンセプトのどちらかだろうかと思った。


 片付けに入ったところでその場をさろうとした。ら、そのお面がカタリと地面に落ちて、その人と、バチリと目があってしまった。幸い演奏が終わった後で、人もそんなにいなかったけど、先輩は同じ学校の制服の男が見ているのに気づいて、青ざめた。


 俺は知らなかったけど、先輩は有名らしい。その後話をして、誰にも言わないことを約束した、だけだった気がする。


 先輩は視線をココア缶の蓋に移した。


「ほんとに誰にも言ってなかったんだね」

「まあ」

「なんか、この前のことといい、君はずいぶん浮世離れしてる」

「自分では普通のつもりですけど」

「ま、言ったほうがいいかなって思ったから言っただけだから」

「なんですか、それ」

「……でも、前よりは普通っぽいかな」


 意図して"普通"に近づけているんだろう?そう言われた気がした。


「音楽、してないって言ってたけど。多分君はこっち側の人間で、尚且つなんかやばい匂いするから、早いとこ諦めたほうがいいよ」

「……」

「そうそう、そういうとこ」


 じゃあね、よかったらライブ見にきてねと言って、先輩は戻っていった。


 諦めたほうがいい、か。そういえば、キラキラ先輩が路上ライブで歌ってたのもそんな感じの歌詞だったななんて思い出して、鼻歌をしたのが運の尽き。


「………………ギャラクシー?」


 後ろから、声が聞こえた。


 

 

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