第一話 退屈
この作品を選んでいただきありがとうございます。是非最後までよろしくお願いします。
これはきっと、誰もが思い描く青春の1ページ。
今日は晴天。真っ青な空に、誰かが開けた窓から吹き込む穏やかな風。教室で絶えず奏でられる笑い声。
高校一年1組は大きな問題が一切ない、平和なクラスだ。大人が夢見る、みんななかよし。みたいな。
そこの数人の人塊にそれぞれの塊でいるカップルは入学以来一度も喧嘩をしたことがないとか。よく怒る先生はこのクラスで一度も声を張り上げたことがないとか。このクラスではクラスメイトが一人も欠けていないとか。
まあ、聞いただけだけど。
「いいんちょー」
「なーに? 、鈴木くん」
「見てよ、いいんちょの好きそうなやつ見つけた」
染めた茶髪でちょっとチャラそうなくせにピアスは開けていない不良かぶれみたいな男子生徒が、俺の座っている机に身を乗り出して話しかけてくる。
鈴木くん(多分名前あってた)のスマホを覗き込むと、再生数100万越え。アニメのセリフかなんかと音楽と共に、1年前に活動を休止している歌い手のイラストが流れている。
1枚目のイラストは、無邪気な笑顔。2枚目のイラストは、意味ありげな瞳が印象的なイラスト。3枚目は傲慢で自信に満ち溢れたようなポーズと表情のイラスト。
「……」
「やばくね?こういうのめっちゃあついわー。伝説ここにあり、天才は、凡人とは動く理由からして違うんだ。きっと彼らには、自分の才能が見えない呪いにかかってるから。って、ここまでこのセリフが似合う人間が実在するとか」
「なんで、そう思うの?」
「この人、ギャラクシーって活動休止してるんだけどさ、その理由が」
───好きな女の子のタイプは将来が安定している人だそうなので。だってさ。
「へえ、それはまた」
「このセリフ、スポーツモノのアニメで主人公の才能に嫉妬した主人公の親友のセリフなんだけど、そこを多分歌い手の同業者とファンの代弁というふうにしてるんだと思うんだよ」
「くわしいね」
「わりとファンだったんだよ、まじで活動休止したときショックだった。こう、頭をビリっとやられた感じ?」
鈴木はそう言って頭を撃ち抜く動作をした。
「それはショックな時のリアクションなの?」
「まあ、こんな人が実在するんだと思って、嬉しくなっちゃったんだと思う。だから、この動画見つけて震えたよ」
「………へー」
「いいんちょ、こういう考察とかすぐに言い当てるのに、今日は珍しいね」
「そんな毎回すぐやってないけど」
「いいや、いいんちょってなーんかこう言うの鋭いから!」
「えー、鈍い方だと思うけど」
「まあ、確かにそんな時もある」
鈴木が苦笑して軽く頷くから、俺がニッコリ笑って
「楽しそうだね」
と言うと鈴木は多分笑った。窓から差し込んだ光で表情が見えなかったけど
「まあな」
と、まあ嬉しそうな声で言ったからだ。それを聞いて俺は頬杖をつくようにして口元が鈴木くんに見えないようにした。そしてああ、今日も平和だなと思って
「はきそう」
ボソリと呟いた。
「あ、いいんちょー。次移動教室だよー、鈴木も準備しねえとやべえぞ」
「あ、まず!」
「私らのいいんちょー巻き込まないでよー?」
「私らのなってなんだよ」
「大輝、いや委員長。あとで話あるから」
クラスメイトとの何気ない会話。問題のないクラス。問題のない日常。
これはきっと、誰かが憧れた青春の1ページ。
───退屈で退屈で、頭が腐りそうだ。きもちわる。
なんか主人公クズっぽくなっちゃった。鈴木くんのくんがあったりなかったりするのはわざとです。