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アンナ ~アンデスの元少女〜

作者: うえさか

わたしは罪を犯した。

2018年7月5日、わたしはアンデスにあるとある少女のミイラを蘇生させてしまった。口を開いた彼女は「なぜ...」と言った。”なぜ生き返らせたのか” という意味なのだろう。わたしは「わたしには反魂の術というスキルが備わっている。死人を生き返らせるのは容易い」と少しぶっきらぼうに返してしまった。

しかし彼女の ”なぜ” は止まらなかった。事ある毎に「なぜ?」は増えていき、まるでなににでも反応する幼児のようだった。

推定年齢15歳、彼女は自身の年齢を覚えていないのだ。名前や出生地も覚えていないらしい。私は彼女に ”アンナ” と名付けしばらく面倒を見た。

当然のことながら蘇生したミイラは世界中に知れ渡った。彼女をひと目見ようと世界中から見物客が訪れたが、彼女は姿をあらわさなかった。当然である。ヤツらには金儲けしか考えていない。口では饒舌になるが本心は金儲けなのだ。

そんな輩にアンナを見せるわけにはいかない。


わたしは、アンナを守るためにあらゆる手を尽くした。彼女を世間の目から遠ざけ、静かな場所で生活させることが最善だと考えた。アンデスの山岳地帯はそのための理想の場所だった。人々の目から隠れたこの場所で、わたしは彼女とともに新たな生活を始める決意を固めた。


わたしは、アンナにさまざまなことを教えた。現代の言葉や文化、科学の基礎知識、人間関係の築き方。彼女は驚くほどの速さで学び、吸収していった。だが、彼女の中には常に「なぜ」が残っていた。なぜ自分は蘇らされたのか、なぜここにいるのか、なぜ自分はこのような存在なのか。


ある夜、アンナは月明かりの下で静かに語りかけてきた。「わたしは、誰なの?」彼女の声には、深い悲しみと戸惑いが含まれていた。わたしは彼女の問いに真摯に答えるべきだと感じた。


「アンナ、君は何百年も前に生きた少女だ。君の命は一度終わったが、わたしの力で蘇った。わたしが君を蘇らせた理由は、自分でも完全にはわかっていない。ただ、君の存在に何か特別なものを感じたんだ。」


アンナはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「わたしは何をするべきなの?」


その問いに対する答えは、わたし自身も模索していた。彼女を蘇らせたことが正しいのか、それとも大きな過ちだったのか。わたしは自分の行動に対する責任を感じつつも、彼女とともに進むべき道を探ることにした。


日々が過ぎる中で、アンナは少しずつ自分を取り戻していった。彼女の「なぜ」は次第に減り、代わりに意欲的な質問が増えた。彼女は新しい知識と経験を楽しみ、時には笑顔を見せることもあった。


しかし、わたしたちの平穏は長くは続かなかった。ある日、山中に不審な動きがあることに気づいた。外部からの侵入者がいたのだ。わたしの心は緊張で満たされた。アンナを守るために、わたしはすぐに行動を起こした。


侵入者たちは、アンナの存在を知り、彼女を手に入れようとしていた。彼らはわたしの力をも狙っていたのだ。わたしはアンナを連れて山を下り、新たな隠れ家を求めて旅立った。


旅の途中、わたしたちはさまざまな困難に直面した。追手から逃れるために隠れ、時には戦い、助けを求める人々にも遭遇した。アンナはその中で成長し、自分の力と意味を見つけていった。


最終的に、わたしたちは日本の静かな田舎町にたどり着いた。ここで新しい生活を始めることにした。わたしは彼女に、日本の文化や風習を教え、彼女はそれを受け入れた。


アンナは次第に町の人々と打ち解け、友人を作り、新しい人生を歩み始めた。わたしは彼女の成長を見守りながら、自分の罪と向き合い続けた。


そして、ある日、アンナはわたしに言った。「わたしは今、生きていることが幸せだ。ありがとう。」


その言葉は、わたしの心に深く響いた。わたしの罪は消えることはないが、彼女の幸福がわたしの贖罪となるのかもしれない。わたしは彼女とともに、新しい未来を築いていくことを決意した。

しかし、わたしの心の奥底には、常に一抹の不安が残っていた。アンナの存在が、再び外部の目に触れることのないようにと願いつつも、現実は予測不可能なものであった。わたしたちの新しい生活が、どこまで続くのか、それは誰にもわからなかった。


**新たな生活**


日本の田舎町での生活は、想像していた以上に穏やかなものであった。田園風景と山々に囲まれたこの場所は、現代の喧騒から遠く離れており、わたしたちの心を癒してくれた。アンナは毎日新しい発見に満ち、彼女の笑顔は一層輝きを増していった。


町の人々は、わたしたちを温かく迎えてくれた。彼らはわたしたちの過去について詮索することなく、ただ仲間として接してくれた。アンナは地元の学校に通い始め、友人たちと楽しい日々を過ごしていた。彼女の日本語も徐々に流暢になり、その適応力にわたしは驚かされるばかりだった。


わたしは地元の図書館で働き始めた。静かな環境の中で、本に囲まれて過ごす時間は、わたしにとっても安らぎを与えてくれた。アンナが学校に通う間、わたしは図書館での仕事に集中し、町の人々と交流を深めていった。


ある日、図書館で一冊の古い書物に目が留まった。それは、この地域に伝わる古い伝承や神話について書かれたものであった。わたしはその本に強く引き寄せられ、読み進めていった。


その中に、ある一つの伝説が記されていた。古い時代、この地域には「生き返りの術」を持つ者が存在したという。その者は、死者を蘇らせる力を持ち、その結果として多くの人々に崇められたが、最終的にはその力が災いを呼び、村全体を滅ぼしてしまったという話であった。


この伝説は、わたしの胸に重くのしかかった。わたし自身の行為が、この地域の歴史とどこかで交差しているのではないかという不安が、再び頭をもたげたのだ。アンナを蘇らせたことが、ただの偶然ではなく、何か大きな運命の一部であるように感じられた。


**過去の影**


わたしはアンナとの生活を続けながらも、心の中でその不安を消し去ることはできなかった。彼女の笑顔を見るたびに、その背後に潜む運命の影がちらつくように感じた。


ある晩、わたしはアンナと共に夕食を取っていた。外は寒く、暖炉の火が部屋を温かく包んでいた。アンナは学校での出来事を楽しそうに話していたが、わたしはその話を聞きながらも、心ここにあらずの状態であった。


「どうしたの?」アンナが心配そうに尋ねた。


「いや、何でもないよ。ただ、少し考え事をしていただけだ。」わたしは微笑みながら答えたが、アンナの目はわたしの心の奥を見透かしているようだった。


「わたし、あなたが何かを隠しているのはわかるよ。ずっと一緒にいるんだから。」彼女の言葉には、鋭い洞察力が感じられた。


「実は、最近ある本を読んでいて、その内容が少し気になっているんだ。」わたしは彼女に真実を告げることにした。「その本には、この地域に伝わる古い伝説が書かれていて、その中に『生き返りの術』を持つ者の話があったんだ。」


アンナは静かに聞いていたが、その目には深い興味と不安が交錯しているようだった。「それって、わたしたちに関係があるの?」


「わからない。でも、わたしが君を蘇らせたことと、この伝説がどこかで繋がっているのではないかと思ってしまうんだ。」わたしは正直な気持ちを彼女に伝えた。


アンナはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「わたしは、あなたがわたしを蘇らせたことに感謝している。でも、もしその力が災いを呼ぶものなら、どうすればいいの?」


その問いに対する答えは、わたし自身も見つけられずにいた。わたしはただ、彼女を守り続けることしかできなかった。



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