心臓のノバ(1)
息抜きに書きました。時々書きたくなったら更新します
八月一日、剥笑野刃は狂っていた。熱帯夜のうだる熱さ、オリオン通りのクソみたいなドブの臭い、そして歌う心臓の喧しさに。
「Drrrrrrrrrrr♪ 野刃ァ!! 早くソイツの脳みそチューチューさせろォ!!」
比喩ではない、本当に心臓が歌っているのだ。
「うっせーぞ!! 今殺ってる!!」
八月一日、剥笑野刃は狂っていた。振るうバールの重さと、アロハシャツに掛かる返り血と、そして心臓と化した自身の頭部の重さに。
「Drrrrrrrrrrr♪ 血が美味ェ!! ギア上げるぞ!!」
頭に直接響く爆音の笑い声。歯を食いしばり、野刃は備える。宣言通り、ソレは来た。
――ドクン!!
鼓膜を劈く爆発音。脳漿が飛び散る様な錯覚さえ感じさせる超極大の心拍音に、野刃の思考は鈍麻し、まるでコーヒーに落としたミルクのように、この血反吐とゲロが散乱したクソみたいな宇都宮の旧奥州通りに意識が融けていく。
甘ささえ感じる頭蓋の破裂感に、野刃は疲労も何もかも消し飛び、右手で振り上げたバールを、眼前の”サラリーマンだったモノ”の頭へと突き刺した。
「あああああああイイーーーーーッ!!!!」
バールを両手で握り、突き刺さったままのバールを振り回し、サラリーマンを路上に転げ回した。すると即座に走り寄り、
「オルァ!! 死ねコラ!!」
サッカーボールのように頭を蹴り飛ばす。肉のついた骨片が吹き飛び、焼肉屋の看板に当たり、高い音が響いた。
「オァラ!! オラッ!!」
何度も何度も蹴りを入れ、最初は硬い音がしていたが、そのうち柔らかい音になり、飛び散るものが骨片から濡れた脳漿になり、地面に飛び散ったソレは、それはまるで生理中に使われたコンドームのようにも見えた。
「ハァ、ハァ、ハァーーーーッ」
肩で荒い息を吐き、バールをカランと手放すと、犬のように四つん這いになって半分ほどになってしまった頭へと野刃は顔を近づける。
「お花ちゃんはあるかよ~~?」
心臓が問う。野刃は熱い息を吐きながら答えた。
「あるじゃんねぇー、ここに、白く光ってんよ」