同化(魔王の場合)
「うっ……な、何のつもりだ、お前……?」
「…………」
喉笛へ剣を突きつける侵入者の彼女へ訊ねるが返事はない。
「くそっ、一体何がコイツを……ん?」
彼女の目を覗くと、明らかに正気を保っていない様子。
「……なるほど。そういうことだったか」
私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「さては、お前……乗っ取ったな?」
この問に彼女は……いや、彼女以外の者が答える。
『ギャギャ。そこは少し捻って“同化”とでも言ってもらいたいものだね魔王?』
この頭に直接響かせる声は、やはり!
『ああ、その通りさ。話しているのは彼女が手にしている剣だよ。まぁ今となっては、ボクが彼女を手にしていると言った方が正解かな?』
ボクが手にしている……ってことは、一五〇年前の勇者の時と同じっになったということか。
『ご名答♪』
こいつ……また心を読んだな。
相手の姑息なやり口に憤って、思わず前へ出ようとするが……!
『おや? これをお忘れかい?』
そう言った剣は我が身を私の喉へ押し込む……直後、私は回避するために左足を軸に回転した勢いを利用して相手の胴体へ後ろ回し蹴りを放つ!
「せやぁ!」
しかしその攻撃は察知され、寸前のところで後ろに飛び退かれて躱されてしまう。
『危ない危ない……まだ慣れない内は、気をつけた方がいいみたいだね』
慣れない? 侵入者の女の身体に、まだ慣れていないという意味か?
「……だったら。慣れる前に仕留めるのみだ!!」
身体を奪われた彼女には不憫だが、こうなった以上は遠慮なくやらせてもらうつもりだ。
「ふぅ~」
私は深く息を吐いて低い体勢に構えると、強く踏み込んで得意の三段突きを繰り出す!
「せりゃあーーーー!!」
加減なしでの喉、胸、腹を狙った連続突き……だったが、その一突き一突きは相手の華麗な剣捌きによって難なく受け流される!
「これくらいは造作もないか……ならば、焼き尽くせ!業火!!」
意表を突き、至近距離からの炎の火球を撃ち込む!
ズバッッッ!!
しかし、これはあっさりと一刀両断されてかき消される!!
『ギャギャ! 悪いけど、そんなちゃちな魔法は通じないよ♪ 何せボクは、キミの心を読めるんだからね』
心を読めると魔法が通じない?
『あれ? 魔王のくせにそんなこともわからないのかい?』
いちいち考えたことに反応されると、少しムカつくな。
『いいかい? そもそも魔法というものは、どうしても魔力を集中させるための“溜め”が必要になるんだ。
つまり、その溜めのタイミングさえ上手く察知できてれば、自ずと相手が使う魔法に対処が可能になるんだよ♪』
「フン……聞かれてもないくせに、ずいぶんと丁寧に説明するんだな?」
『いわゆる、サービスってヤツさ』
サービスか……だが、タイミングの話が事実なら、さっきの氷魔法も使おうとした際に邪魔されたのも納得できる。
「……仕方ない。ここは一旦、戦法を切り替えてみるのも手か」
考え方を変える私は、槍を中段に構え直して剣と対峙する。
『ギャギャ、どうやら吹っ切れたみたいだね?』
「ああ。ここから先は物理的にやらせてもらう」
『フフフ、それは楽しみだ』
余裕ぶった剣もまた、同じ様に中段の構えを見せる。
「フン、軽口を言う割には慎重なんだな?」
『まあね。キミの今の顔を見てたら自然とこうなったよ』
なるほど、一丁前に警戒くらいはするか。
『さぁ、これで互いに準備が完了だ。いつでも戦いを始め……の前にいいかな?』
「……どうした、改まって?」
肩透かしする剣は、一瞬の間を置いて話す。
『今さらだけど、またキミに出会えて嬉しかったよ魔王♪』
この不愉快で見え透いた挨拶に対し、私は感情の代わりに皮肉を込めて言い返す。
「寝言は寝て言え」っと……




