欺き(魔王の場合)
「さぁ、遊びの時間はもう終わりよ」
勝ち誇る侵入者の彼女が、今にも剣に止めを刺そうとしていたその時。
「すまないが、とどめを刺すのは少し待ってくれないか?」
「え? ここまできて?」
「すまんな。最後に確認しておきたいことがあるんだ」
「……まぁいいわ。手短にね」
不愉快そうな顔の彼女に悪いと思いつつ、私は地面に突き刺さった剣を強く踏みつけて尋ねる。
「オイ、お前がそこの彼女へ取った行為……あれは彼女の身体を乗っ取る目的でやったことで間違いないな?」
『やぁ、懐かしいな魔王。こうして話すのは一五〇年ぶりかな?』
「親しげに挨拶を交わす気はない。質問にだけ答えろ」
『……ああ、そうさ。ボクが剣である以上、その力を十分に発揮するにはどうしても支えとなる生身の存在が必要になるからね』
「そうか……では質問を続ける。一五〇年前の勇者もそうだったのか?」
『ギャギャ! お察しの通りさ。アイツはボクが動かしていたで正解さ♪』
悪びれない語り口にムカつき、踏みつける足に体重をかける。
『イタタ……そんなに憤らないでくれよ。ボクにだって、それなりの事情があったんだからさ』
「事情? どうせ下らないものじゃないのか?」
『ギャギャひどいなぁ。充分過ぎるくらいにちゃんとした事情だよ』
ちゃんとした事情? 一応は聞いておくか。
「……話してみろ」
『うん、あのね……』
私が慎重に耳を傾けてると……
「きゃあああぁぁぁぁぁーーーー!!」
突如として、背後から悲鳴が上がった!
「オイ! 何があった……なっ、あれは!?」
見ると、侵入者の彼女の全身には幾つもの黒い蛇が複雑に絡みついている!
「待ってろ! 今助けてやるから……うっ!?」
救出に向かうおうとした時、広間の壁、地面、天井の至る所を突き破って蛇達が一斉に現れる!!
『ギャギャ、油断したね魔王! ソイツの身体はボクがいただくよ!』
「ぐぬぬぬ……!」
まんまと騙されて歯軋りをするも、彼女に絡みつく蛇を払い落とすために魔法を放とうとする……
「凍てつけ、冷き……なっ!?」
『そうはさせないよ!』
しかしその瞬間、いつの間にか腕に巻きついていた数匹の蛇によって邪魔されてしまう!
『ギャギャ、踏まれたお返しさ!』
「くっ……つまらん真似をしてくれる!」
あざとい仕返しに、腹を立てていたらそこに……
「魔王!これを!!」
「……!」
全身の自由を奪われつつある侵入者の彼女が、まだ無事だった右手を使って槍をこちらへ投げ渡す!
「で、でかした!」
だが受け取った直後。彼女の全身は蛇達によって幾重にも覆われ、ついには繭みたいな形なってに閉じ込められてしまう。
「ア、アイツ。これを私にやるために……」
感慨深くなる気持ちになるが、取り敢えずは受け取った槍で腕に巻きついてる蛇を切り払って繭へ駆け寄る。
「私の声が聞こえるか! 今助けてやるからな!」
そう言って繭を破るために手を触れようとした途端、逆に繭の方からひとりでに破れ始め、中からは今しがた閉じ込められたばかりの侵入者の彼女が姿を表した。
「お、おお……無事だったか」
一応は心配して声をかけてやるが、当の本人はこちらへ見向きもしない。それどころか一切興味を示すことなく無表情で素通りする。
「オ、オイ……」
「…………」
そして、反応のないまま何かに導かれるように地面に刺さりっぱなしになっている剣の側にまで移動すると?
「…………」
おもむろに剣の柄を両手で握って引き抜いてしまった!
「なっ! あのバカ、何をやってるんだ!?」
せっかく捕らえた敵を解放するという、信じられない暴挙を犯した理由を問い詰めよう近づく……しかし!
「うっ……な、何のつもりだ、お前……?」
彼女はその行為を拒絶するが如く、私の喉笛へ剣を突きつけたのであった!!




