必要とする身体(ある姫様の場合)
『ギャギャ……そう警戒しなくても大丈夫だよ。さぁ、もう一度“ボク”を手に取って魔王を倒すんだ!』
「魔王を……倒す……そうだ……アタシはそのため剣を欲していて……」
そんな甘美な謳い文句みたいな言葉に引き寄せられて剣へ手を伸ばすと……
「唸れ!竜巻!!」
「ハッ!!」
突如、視界には巨大な風の柱が現れ、アタシと剣は無理矢理に引き離される!
『ギギギ……魔王め! もう少しで、この人間の身体がモノにできたというのに余計な邪魔をしてくれるね!』
未だに聞こえ続ける不可解な声。状況から察するに、これが剣から発せられているのは何となく理解できる。しかし……
「“もう少しで、この人間の身体が……”という件は一体?」
訳のわからない状況に当惑してると……
『ギャギャ、ボクがキミの身体を必要とするは、ボク自身がただの“剣”だからさ!』
剣がアタシの心を読んで、直接に脳裏へ会話しかけてきた。
「剣だからって……どういう意味なの?」
『言葉通りの意味さ。ボクは、あくまでも剣でしかないからね』
「…………」
『だってそうだろ? 剣である以上、ボクがその力を最大限に発揮するにはどうしても“支え”となる人の身体が必要になる……だからこそ、キミみたいな強者の身体を欲するのさ!』
「必要……つまり武器の身でしかないアナタは、誰かに振り回されないと何もできない訳ね?」
『き、気に触る言い方だけど、そういうことになるね……』
なるほど。要は人の身体を利用して、自分が好き勝手にやりたいってことか。でもそれは……
「悪いけど、この身体は愛する両親からもらった大切なものなの。とてもじゃないけど、己の力を誇示したいだけの愚か者には絶対に委ねたりはしないわ!!」
到底受け入れられない要求だったので、ハッキリとこちらの意思を伝えて跳ね退ける……がっ?
「オイ! 何をボーっとしているんだ!?」
「え?」
魔王からの突然の呼びかけに反応するアタシ。気がつけば、目の前には数匹の黒い蛇が迫っていた!
「なっ! いつの間にこんなところにまで!?」
寸前で躱したアタシは、ギリギリでその場から飛び退いて難を逃れる!
「はぁ、はぁ……今のは……また油断してた?」
『ギャギャ、残念残念。意識外から攻めてみたんだけどダメだったか♪』
意識外から? よくわからないけど、この剣が本気でアタシの身体を手に入れようとしているのは確かのようだ。
『ああ、手に入れたいね! 一五〇年前の再現をするためにも……』
くっ、また心を読んだか? いや、それよりも……
「一五〇年前?」
『ギャ、それはキミに関係ない話さ。さぁ、早くその身体をボクに……よこせぇぇぇーーーーーー!!』
狂気染みた叫びと同時に剣から伸びる数匹、数十、数百の蛇達。その全てがアタシの身体を奪おうとして全方向角度から襲いかかる!!
「な、何て数!」
多勢に無勢な窮地に陥るも、アタシは魔王の槍を構えて怯ますに立ち向か……ブルッ!
「な、何!? この急な寒気は……あっ!」
周囲を見渡せば、広間中を埋め尽くさんとするおびただしい数の巨大な氷柱の大軍が出現していた!
「凍てつけ、冷気!!」
魔王の声により、全ての氷柱が蛇の群れを一斉に迎え撃つ!!
「す、すごい!!」
氷柱の圧倒的な冷気に蛇の群れは次々と凍り、砕け、朽ちていくのを見て、もはや剣の戦う手段は失われたも同然。
「今だ! 槍に雷の効果が残っている内に攻撃するんだ!!」
「ええ、任せてちょうだい!」
魔王の命令に従うのは癪だけど、この千載一遇のチャンスを逃したくないアタシは……
「これでも、くらえぇぇぇぇーーーーーー!!!」
この戦いに終止符を打たんがため、最後の一撃を叩きつける!!




