一五〇年前……(守人の場合)
「げぇ、うぇ、え……な、何を!?」
苦痛の表情でこちらを見上げる侵入者の彼女へ、私は心からの感謝の意を伝える。
「礼を言うわ。魔王である私を一五〇年ぶりに目覚めさせてくれたことを!!」
そうだ……私は魔王。地上を思うがままに蹂躙し尽くさんとする忌むべき存在。一五〇年前のあの日までは……
――――あの日、私は我が居城内にて“勇者”なる女との死闘に興じていたが……
「人間ごときがこんなものを使ってくるとは……」
不覚にも左肩を剣で貫かれたにより壁に串刺しにされ、無様な醜態を晒す羽目になる。そして……
「負けを認めなさい! そうすれば命までは取らないわ!!」
自らの勝ちを確信する勇者からは、潔い降服を勧められる始末。しかし、それに対して私の答えは?
「はぁ、はぁ、はぁ……な、舐めるな勇者よ……こ、この魔王が……そう簡単に屈すると思うか!?」
拒否の姿勢を示し、左肩の状態にかまわずに右手のみで槍を振り回して抵抗する!
「アナタ、まだやる気!?」
「と、当然だ……この命が続く限り、私の闘志が消えることはないわ!!」
勇者は降伏を受け入れられないと悟ると、剣を引き抜いて言う。
「……後悔しても知らないわよ?」
一方の私は串刺しの状態から解放され、右腕一本だけで槍を構えて返す。
「望むところだ!」
対峙する二人だが、次の瞬間!?
「いくぞ!勇者よ!!」
「来い!魔王!!」
互いが全てを込めて放つ最大の一撃が激しくぶつかり、結果……
「ぐはぁ!」
血反吐を吐いて膝を着く私。
「み、見事だ……勇者よ。よ、よもや……本当に魔王である私を敗北させるとは……な……」
その後はダメージで身体が支えられなくなり、とうとう前のめりへ倒れてしまう。
「ああ……このまま死ぬのか……」
視界が暗くなるなか、この期に及んでふと疑問が湧いた。
「そういえば、勇者が使っていたあの剣……あれは一体? 通常の剣とは違い、どこか異様なパワーを感じていたが……
『へぇ、わかるんだ』
どこからかともなく声が聞こえる!?
「な、何者だ!?」
『ボクのことかい? ボクは神によって人類はもたらされた希望の剣だよ♪』
「剣だと? バカな!?」
私は無機質の塊である剣が話すという事実に驚く!
『フフフ、別に納得してくれなくても言わないよ。キミは、もうすぐここで死ぬんだしね……』
「なに?」
『ああそうだ! せっかくだから何か言い残すことはあるかい?』
「言い残すこと……だと?」
もしかして、バカにされてるのかと考えていたら……
『あ、やっぱりいいや。どうせあとで再会するだろうからね』
「再会? 貴様、何を言って……!?」
『う~ん、その内わかるよ。では勇者よ……魔王に止めを刺すんだ』
剣が冷徹に命じると、勇者は何かに操られる様に倒れている私へ剣を向ける。
「こ、これは……勇者の意思ではないな?」
『御名答♪』
「くっ、貴様! この魔王を傀儡の手によって仕留めようというのか!?」
『ハハハ、別にいいじゃないか。人類に忌み嫌われるキミにとっては、お似合いの末路だろ?』
「貴様!!」
憤怒する私は、動かない身体を無理矢理に起こして言い放つ!
「こ、この理不尽な屈辱……決して忘れぬぞ……必ずや、必ずや貴様を……」
――――残念ながらここから先の記憶はない。ただ再び気がづいた時、私は何故か剣の守人をやっていたのだ。
何の疑問も持たぬままに……




