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剣の守人  作者: なめなめ
剣の章
62/85

一五〇年前……(守人の場合)

「げぇ、うぇ、え……な、何を!?」


 苦痛の表情でこちらを見上げる侵入者の彼女へ、私は心からの感謝の意を伝える。


「礼を言うわ。魔王である私を一五〇年ぶりに目覚めさせてくれたことを!!」


 そうだ……私は魔王。地上を思うがままに蹂躙(じゅうりん)し尽くさんとするむべき存在。一五〇年前のあの日までは……


 ――――あの日、私は我が居城内(きょじょうない)にて“勇者”なる女との死闘に興じていたが……


「人間ごときが()()()()()を使ってくるとは……」


 不覚にも左肩を剣で貫かれたにより壁に串刺しにされ、無様な醜態(しゅうたい)を晒す羽目になる。そして……


「負けを認めなさい! そうすれば命までは取らないわ!!」


 自らの勝ちを確信する勇者からは、(いさぎよ)降服(こうふく)を勧められる始末。しかし、それに対して私の答えは?


「はぁ、はぁ、はぁ……な、舐めるな勇者よ……こ、この魔王が……そう簡単に屈すると思うか!?」


 拒否の姿勢を示し、左肩の状態にかまわずに右手のみで槍を振り回して抵抗する!


「アナタ、まだやる気!?」

「と、当然だ……この命が続く限り、私の闘志が消えることはないわ!!」


 勇者は降伏を受け入れられないと悟ると、剣を引き抜いて言う。


「……後悔しても知らないわよ?」


 一方の私は串刺しの状態から解放され、右腕一本だけで槍を構えて返す。


「望むところだ!」


 対峙する二人だが、次の瞬間!?


「いくぞ!勇者よ!!」

「来い!魔王!!」


 互いが全てを込めて放つ最大の一撃が激しくぶつかり、結果……


「ぐはぁ!」


 血反吐(ちへど)を吐いて(ひざ)を着く私。


「み、見事だ……勇者よ。よ、よもや……本当に魔王である私を敗北させるとは……な……」


 その後はダメージで身体が支えられなくなり、とうとう前のめりへ倒れてしまう。


「ああ……このまま死ぬのか……」


 視界が暗くなるなか、この期に及んでふと疑問が湧いた。


「そういえば、勇者が使っていたあの剣……あれは一体? 通常の剣とは違い、どこか異様なパワーを感じていたが……


『へぇ、わかるんだ』


 どこからかともなく声が聞こえる!?


「な、何者だ!?」

『ボクのことかい? ボクは神によって人類はもたらされた希望の剣だよ♪』

「剣だと? バカな!?」


 私は無機質の塊である剣が話すという事実に驚く!


『フフフ、別に納得してくれなくても言わないよ。キミは、もうすぐここで死ぬんだしね……』

「なに?」

『ああそうだ! せっかくだから何か言い残すことはあるかい?』

「言い残すこと……だと?」


 もしかして、バカにされてるのかと考えていたら……


『あ、やっぱりいいや。どうせあとで再会するだろうからね』

「再会? 貴様、何を言って……!?」

『う~ん、その内わかるよ。では勇者よ……魔王に止めを刺すんだ』


 剣が冷徹(れいてつ)に命じると、勇者は何かに操られる様に倒れている私へ剣を向ける。


「こ、これは……勇者の意思ではないな?」

『御名答♪』

「くっ、貴様! この魔王を傀儡(かいらい)の手によって仕留めようというのか!?」

『ハハハ、別にいいじゃないか。人類に忌み嫌われるキミにとっては、お似合いの末路だろ?』

「貴様!!」


 憤怒(ふんど)する私は、動かない身体を無理矢理に起こして言い放つ!


「こ、この理不尽な屈辱(くつじょく)……決して忘れぬぞ……必ずや、必ずや貴様を……」


 ――――残念ながらここから先の記憶はない。ただ再び気がづいた時、私は何故か剣の守人をやっていたのだ。


 何の疑問も持たぬままに……

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