試し(四天の場合)
羽人の頭上。しかも指一本のみで逆立ちをして笑顔を見せる黒髪の少女を見た私は、彼女の力を少しだけ確かめてみたくなっていた。
「フム、一つ試してみるぞえか……」
誰にも気づかれぬ様、静かに魔力を練る。そして……
「アイスアロー!」
適度な大きさの氷の矢を作り出すと、それを羽人の頭上にいる彼女へ向けて撃ち込む!
「きゃ!」
「うわっ!」
二人は飛んで来た矢の存在にいち早く気づくと、戸惑いながらもこれを躱す。まぁ、元より当てるつもりはないのでそれも当然だが。
「オイ、四天! いきなり何しやがるんだ!?」
喚く羽人は敢えて無視し、私は少女を視界に捉えて対峙。
「四天! オイ! オイってばよーーーー!!」
……喚く羽人を徹底的に無視し、私は少女と対峙したまま話しかける。
「悪いけど、あんたの力を見せてもらうぞえ」
「えっ? アタシの力って……」
「問答無用! |ウインドアロー!!」
左手から放たれる真空の矢は、凄まじいスピードで少女を切り裂きにかかる!
「バ、バカ! また、そんな魔法を!?」
軌道上にいた羽人は困惑するが、別に彼を狙ってる訳ではないので勝手に避けてくれるはずだ!
ズバババッッ!!
鋭い音と共に空気だけを貫く音が場内に響く!
「うぉ、危ねぇ!」
案の定、羽人は難を逃れるが、問題の少女はというと?
「ハハハ、やってくれるぞえ……」
何と、少女は両の掌で私の魔法を受け止めていた!!
「あの……いくらなんでも冗談が過ぎませんか四天?」
少女は涼しい顔でそう言うと、す受け止めていた魔法を強引に跳ね退ける!
「へ、へぇ……まさか、物理の力で私の魔法をどうこうするとは……ならば、こういのはどうぞえか!!」
魔力を再度集中させてからの……
「サンダーアロー!!」
幾多の雷の矢を上空に出現させると、その全てを少女一点に向けて降り注がせる!!
「わあああああーーー!!」
「逃げろーーーー!!」
「退却ーーーー!! 退却ーーーー!!」
あまりの凄まじさにこの場の全員が逃げ散らかすが、狙いはあくまでも少女なので気にはしない。ただ、それを知らない他人は当然混乱するもので……
騎士は右往左往し、王は玉座の裏へ緊急避難。羽人に至っては天井に張りついて高みの見物としてやり過ごしていた。
「――――さて、周りの被害も大丈夫そうなことだし、次はもう少し強めにいくぞえよ!」
今度は倍以上の威力で同じ魔法を撃ちまくる!!
「ぞえ!ぞえ!ぞえーーー!!」
「「ぐわあああああぁぁぁぁーーーー!!」」
まさに阿鼻叫喚となる謁見の間。だが、私は差程も気にすることなく攻撃を続ける!
――――やがて、どれくらい撃ち込んだろうか。大量の土埃だか砂埃だかが舞い上がり過ぎて、視界一面が全く機能しなくなってしまった。
「ごほっ、ごほっ……さ、さすがに、やり過ぎたぞえか?」
若干の反省をしつつ、軽い風魔法で辺りの埃を吹き飛ばす。すると……
「ふぅ~、どれどれ……ぞえ!?」
視界が晴れて現れた黒髪の少女……彼女は驚くべきことにカスリ傷一つなく、代わりに私の放った雷の矢は全て地面に突き刺さっていた!
しかも、彼女自身がまったくその場から動いてないというオマケ付きでだ!!
「バ、バカな……あ、あれだけの数を防いだ……ぞえか!?」
さすがにこれだけの光景を目の当たりにしては、彼女の力を認めざる得ない。
「ねぇ、オネエサマ? もう、これでオシマイですか?」
やれやれ、物足りなさそうな顔をしてくれるね。こっちはそれなりに熱くなっていたというのにさ……
私は少女の底知れぬ実力に複雑な想いを抱きつつも、心に浮かんだ事実をそのまま告げる。
「まいったぞえ。アンタの力は本物ぞえ」と……




