銃口の先に!(ある老人の場合)
鮮やかな緑が溢れる広大な大自然……この空に浮かぶ城のどこに、これだけの質量が収められているのかと考えると、九〇年以上生きたワシでも十分に驚くものがある。
しかし、だからといってそれが今の自分に何かの影響を与えるなんてことは全くなかった。
パァーーーーン!!
さて、先程から岩場の陰に隠れる守人へ何度もけしかけてはいるも、なかなかに上手くいかない。
まぁ一応は、いくらかはかすりくらいはしてるはずだが、それだけだと悪戯に勝負が長引かせるだけで決着には程遠い。
「ふむ……やはり、最初の一発で仕留め切れなかったのがまずかったかのぉ?」
そんな言い訳をしつつも、ワシはこの状況を心底楽しんでいた。
「さて、どうやって守人を炙り出せばいいものやら……」
いっそ、今いる木の上から別の場所へ移動して……いや、それはやめておこう。変に場所を変えて狙いにくくなっても堪らんからな。
それに、移動する際に発する僅かな気配を察知されてこちらの位置が勘づかれる危険性だってありえなくもない。
「う~む。どうやらこのまま動かぬ方が得策……ん? 何じゃ、あれは?」
銃口の遥か先を覗くと、あろうことか守人は隠れていた岩場の上に立って身を固める!
「何のつもりじゃ? まるで『狙ってくれ』といわんばかりにも見えるが……?」
相手の意図がわからぬ行動に思案する。そして……
「試すか……向こうの思考が読めぬ以上は、こちら側からつついみるのが定石じゃろうて……」
パァーーーーーン!
パァーーーーーン!
パァーーーーーン……
「ふむ、三発当てて倒れぬとは……『さすがは守人』と褒め称えたいところじゃが、どうも嫌な予感がする」
ここで今一度、守人の行動について考える。
「まさかとは思うが、あやつ……己の身体を犠牲にして、こちらの位置を探ろうとしとるのか?」
もしそうならば、それは策を策ともいえぬ狂気以外でしかない。
「じゃが、その狂気を本気で実行するとしたら?」
そう想像するだけで心が震えてくる。
「……よかろう守人よ。お前の狂気に乗ってやる!」
ワシは昂る気持ちを抑えつつ、冷静に無防備になっている脇腹へ狙いを移す。
「急所ではないが、怯ませるくらいはできよう……」
引き金に指をかけ、躊躇なくを引く。すると銃口から吐き出された弾丸は目論見通りに命中!
「……よし!」
守人は血反吐を吐いて膝から崩れる守人……その刹那だった!!
「なっ、何!!」
鋭く突き刺さる殺気が、八〇〇メートル先にまで離れたワシの元まで届いたのは!!
「き、気づいた!? この距離でか!?」
数十年ぶりの背中に流れる冷たい汗が、久しく眠っていた感覚を甦らせる!!
「フハハハハハーーー!礼を言うぞ守人!! このワシを再び目覚めさせてくれたことを!!」
込み上げる歓喜の感情は、自然と笑みを溢れさせる。
「どれ……取り急ぎ返礼代わりの一発をくれてやろうぞ!」
パァーーーーーン!
しかし、その攻撃はあっさりと躱されてしまう。
「ほぉ、難なく躱すか……」
期待以上の展開を予感し、ますます笑みが溢れる!
「いいぞ……いいぞ守人よ! ワシはここにいる……だからこの命を奪いに来てみろ!!」
ワシは血沸き肉踊るなか、生涯最高の戦いへ挑む!!




