大切な人へ(ある夫の場合)
「ぶはぁ!」
気がつけばオレは、大量の血を吐き出して仰向けに倒れていた。
「い、一体何が起きて……つぅ! こ、この痛み……がああああああーーーー!!」
まるで身体の真ん中に穴でも空いたような激痛に苦悶しながらも、オレは自身がこうなった理由を探っていた。
「た、確か……魔王を倒す剣を手に入れるために番人と戦って……そ、そうだ! あの魔法……最後に放ったあの魔法で勝負を決め切れなかったからか……!」
明らかになる敗北の理由に、オレは自身の詰めの甘さを実感する。
「まったく、勝負を急いだ挙げ句にこのザマとは……間抜けもいいところだ」
そういえば昔、師匠から言われたことがあたっな。
『お前の魔法は優秀だが、自身の魔力量を省みずに勝負を急ぐ癖があるぞえ。だから威力がデカい上級魔法魔を使う際は、くれぐれも慎重に考えて行動するぞえ!』と……
要約すると『魔法は良く考えて使いなさい』という子供でも理解出来る単純な教えだったはずだ。
「なのにオレは、そんな単純な教えさえ守れなかったのか……」
しかしだ。オレはどうして勝負を急いんだ? 最初の方は師匠の教えを忠実に守って上手くやっていたはずなのに?
悩みかけるが、答えはアッサリと見つかる。
ああ、オレは焦っていたんだな。剣を手に入れて早く愛する妻の元に帰りたい……そんな逸る気持ちが勝負を急せたんだ。
「まったく愛する者への想いが敗因になるなんて、どれだけロマンチックなんだよ……ハハハ」
思わず笑いが込み上げるなか、ぼやける視界へ意識を戻す。
「さて……」
見上げた先には、オレを貫いたであろう槍を手にした番人の姿があった。
「ああ、いよいよか……」
そう覚悟を決めた時だ。
「まったく無様ね……」
突如、少女からそんな言葉が発せられた。
「ぶ、無様……だと……?」
敗者へ鞭打つ言動に嫌悪感を抱くも、今さら何かを言うのも無意味。だから代わりに……
「な、なぁ番人よ……さ、最後に少しだけ時間をくれないか?」
「命乞い?」
「いや、“大切な人”のために祈りを捧げたいんた……なぁに、大した手間は取らせ……ないからさ」
このささやかな願いに、番人は意外にも頷く。
「助かる……死に逝く者の望みを聞いてくれて……」
礼を言うと、震える手を胸の上に組んでから瞼を閉じる……すると、暗闇の中には妻の笑った顔が浮かんでいた。
「…………」
そこいるはずもない妻へ向かって心から祈る。
「帰れなくてすまない。そして、出来ることならオレがいなくても幸せになって欲しい」
ひとしきり祈り終えて再び目を開く。
「……て、手間、かけせて悪かったな……番人よ……さぁ、殺ってくれ」
「…………」
この時、番人の表情が僅かに曇った。
「ど、どうした番人よ? 別に躊躇してる訳でもあるまい?」
番人は不機嫌に答える。
「……“番人”という呼ばれ方は好きじゃないわ」
「そうななか? な、なら……何て呼べばいいんだ?」
「守人……そう呼んでくれたらいいわ」
まさか、この期に及んで呼び方を指定されるとは思わなかったが……まあいい。
「……了解した。では、剣の守人よ……よろしく頼む」
「ええ、承知したわ」
オレは守人の槍が振り上げられると同時に、再び目をつぶる。
妻へ祈りを捧げながら――――




