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140字小説まとめ1

作者: 葵





スマホの容量がパンパンだった。容量を整理したいが、やる事が思うように進められず、そこまで行けない。そこで僕は、友人に相談した。三カ月後、スマホの容量にだいぶ空きができた。友人にお礼を言うと、そいつは隈のなくなった僕の顔をみて、こう言った。

「僕は、君の要領の悪さを直しただけさ」


『ようりょう』













面白半分で呪いの人形を買った。とある音楽を聞かせると、固

く閉ざしている目を開けて、人類を人形にして王国を築くために動くらしい。人形をタンスの上に飾って作業をしていると、風呂が沸いたらしい。僕は、パジャマをとるためにタンスに向かった。人形の目が開いていた。


『人形の夢と目覚め』













モノマネがうまい友達に、人生相談をした。

「もう本当に本当に辛いんだ……これから先、どうしよう……」

絞り出すように言うと、友達が急に立ち上がった。シュシュシュッと言って、手を素早く動かすと、こう言った。

「辛いことから、逃げたっていい!」

最後にピュー、と口笛を吹いた。


『モノマネ』












スウェーデン人の友達は、今日も自国の事に興味を持って欲しくて、色んな人にアピールする。うん、確かに興味を持ったよ。「Hypernervokustiskadiafragmakontravibrationer!」

って、しゃっくりする時に、くっそ長いスウェーデン語を垂れ流す君にね。


『しゃっくり、という意味らしい』













「ちょっと怖いことがあってさ」

「おん」

「この間、チャンネル変えたらたまたまア○パンマンの映画がやってて、敵に襲われて首なし状態が写し出されたんだよ」

「え〜、それで……」

「いや、本当に怖いのはここからだ。五歳になる弟がそのア○パンマンを見て……ニヤニヤ笑ってたんだよぉぉぉ!!」


『本当に怖いのは』













俺は、後ろを向いていた彼女を「わっ!!」とおどかした。驚いて飛び上がった彼女は、「寿命が一年縮んだよ!」と文句を言った。

なんだよ、たかが一年、と俺は言うが、彼女に「寿命は、宝なんだよ!」と釘をさされた。

 

その数年後、恋人は死んだ。

一年後に結婚式を挙げる予定だったのに……


『寿命は宝』














卒業証書を授与する時、クラス毎に音楽が流れる。

担任の先生が自ら選んだらしい。

「手紙」や「旅立ちの日に」など、卒業式の定番ともいえる曲だった。

次は、自分のクラス。どんな曲がかかるのだろうか、と思い、耳を傾ける。


流れたのは「大きな古時計」だった。


『どうよう』













「ダメだ、どれだけ触っても全然こっちを向いてくれない……」

「まずそれをやめたらいいんじゃないか?」

「触れなきゃ始まらないよ! 僕と京子の日々は!」

「お前いつか捕まるぞ」

「え? アルパカ触って逮捕になる法律でもできたの?」


『絶対君を振り向かせる』













「この間、カップルが電車でイチャイチャしててさ。砂糖をそこで形成してんのかってぐらいだったんだけど、めっちゃ助かったわ」

「いつもリア充爆発しろって言ってるお前が珍しいな」

「そん時、間違えてブラックコーヒー買っちゃったんだよね。よかったよ〜、ちょうど砂糖がわりになるものがあって」


『便利な代用品』














ああ、うるさい。また俺の家の前で騒ぐバカどもがいる。全く、家の前で騒いで何が楽しいんだよ。ふざけんじゃねぇぞ。こちとらテメェらのせいでおちおち寝られやしねぇ。こうなったら、俺が姿を現して追い返すしかねぇな。

おい、テメェら……

「ぎゃー! 幽霊、でたー!!」


よし、追払い成功。


『不法侵入者』














僕はあったかいものが好きだ。特に好きなものは、入れ立てのココア、毛糸で編まれたふわふわなマフラー、ちらちらと燃え上がるストーブ。それらが全て揃った上で、人を招待したらもう完璧だ。睡眠薬入りのココアを使って、マフラーで絞首して、ストーブに入れるんだ。


ああ、あったかくて心地いいなぁ


『あったかいもの』














僕は、つめたいものが大好き。冷ややかな鉄塊、夏に開けると涼しい冷凍庫、そこに氷を沢山いれて、冷徹な人間を呼んだら、もう完璧。鉄塊で人間を殴って、氷を沢山いれた冷凍庫にぶち込んで、冷やすんだ。


ああ、つめたくて気持ちいいなぁ。


『つめたいもの』













「じ、地震だ!」

「わぁ、ほんとだ。電線揺れてるね。」

「と、とりあえず危ないところから遠ざかって、頭まもももも」

「君は少し落ち着きなさい。避難方法は的確だけど」

「馬鹿野郎! てめぇは冷静すぎなんだよ! そんなんじゃ命落としちまうぞ!!」

「僕は既に、去年病気で命落としてるよ?」


『霊感少年』













お母さんは、いつも楽しそうに会話している。

俺が「何話してるの?」と聞くと、お母さんは慌てて「な、何のこと?」とごまかす。

別に隠さなくってもいいのに。


お母さんは、亡くなったお父さんと思い出話に花を咲かせてるってこと。


『霊感親子』














友人に、ODだと打ち明けられた。そんな素振り微塵もなかったのに……。

「俺でよければ、何か悩み事があるなら、話してくれ。力になれるかもしれない」

と、伝えると、友人は心底嬉しそうに笑って、「ありがとう」と言って、話始めた。

 

「誰か可愛い子、俺に紹介してくれない?」


『俺、童貞』













人身事故防止のため、人工知能が埋め込まれたアームが一駅ずつ置かれることになった。今にも死にそうな顔をした人を判断して、アームで捕らえる。ゲートより断然安く済み、これが置かれてから、人身事故がなくなった。今日もアームは、自殺者を止めるために、働いている。

おい、僕は元々この顔だ


『死相』












ある日を境に、私は皆から無視された。原因は分からない。何回呼びかけても、何回話かけても、必ず無視される。この展開、見たことあるような……

すると、坊主頭で袈裟をきたお坊さんらしき人がこちらに歩いてきた。やっぱり私は死んで――

お坊さんは、私を抱きしめた。

「私は一生貴方の味方ですよ」


『ヤンデレ展開』













「パパ! 私の服と一緒に洗濯しないで!」

「ああ、今日貴方の誕生日だったの? 忘れてた」

「若い社員がコロナが怖くて会社に行けない、と言うから、君、消毒業者に手配お願い。休日出勤ね」

部長、貴方はこんなにも苦労していたんですね。

俺は、鏡に写る大嫌いな上司の顔に哀れみの目を向けた。


『大嫌いな上司に成り代わった件』













寒くなった頭がフサフサと蘇るという噂の理髪店に行った。早速嬉々としていくも、「うざい!」と罵られて終わった。

憤慨して二度と行くものか、と腹を立てたが、手を洗おうと、洗面所の鏡の前に立った。

黒々とした艶めかしい黒髪が俺の頭に生えていた。


『育毛剤』













「綺麗な桜だね。どうやって育てたの?」

「柊木と茜、百合を埋めた場所だから、桜がここに咲いていたいよーって来たのかもしれないね」

「そんなんで咲く?」

「咲くよ。試してみる? すみれちゃん?」

そう言って、友人は赤錆びたスコップを取り出した。


『綺麗な桜になる秘訣』













「どっちのワンピースがいいかしら? ……こっちね!」

「そっちの料理美味しい? ……本当!? 一口頂戴!」

「わぁ、子犬だわ。可愛いわねぇ。……あら、貴方に向かって吠えてるわ、うふふ」

女性がとても嬉しそうに話している。

……虚空に向かって


『イマジナリー』













「さぁ、デスゲームのはじまりだ」

俺は画面の向こうにいる爆弾付き首輪をつけているプレイヤーたちに言い放ち、通信を切る。今頃必死に脱出を考えているだろう。その間にコーヒーを飲んでゆったりと……

「寝たかい?」

「うん」

「仕掛けが杜撰だったわね」

「じゃあ……新入りに手ほどきしようか」


『先輩』













ああ、やってしまった……。俺は家族を殺してしまった。理不尽に怒鳴られてついカッとなって、殴りかかってしまった。俺の足下には、冷たくなった父と母が倒れていた。

俺は、信じられない光景に顔を覆った。その瞬間、ある事に気づいた。

 

あ、これ夢の中だ。


『明晰夢』













俺は帰路を少しふらつきながら歩く。会社の集まりですっかり疲れてしまった。早く帰ってのんびりしたい……。すると、道中久しぶりに友達とばったりあった。

俺はつい嬉しくなって、友達にハグした。


気づいたら俺は留置場だった。

酒に酔って、女子高生にハグしてしまったらしい。


『酒は飲んでも呑まれるな』













いつも無愛想な担任の先生が、今日はニコニコしていた。クラスの皆は驚いた。私含め、皆先生の笑顔を見たことはなかったからだ。授業が始まってすぐに、「今日ねぇ、先生嬉しいことがあったんですよ」クラス全員、授業以上に先生の言葉に耳を傾けた。

「ベルトの穴が一個閉まったんです!」


『先生のいいこと』













「うむ……」

「どうされたのですか?」

「エイプリルフールだからといって、天気予報では雨のところを晴れ、と言った奴がいてな。真に受けたやつは土砂降りのまま帰ったらしい……」

「ギリギリ午前を過ぎているようですね」

「じゃあ、加算だな。礼を言うぞ、篁」


『判決材料』












ねぇ、聞いて! 音楽室でピアノを弾いている子がいたの! ペダルも踏んでいないのに、音楽室中に響き渡るあの子の優しい音色……ああ、また聞いてみたい! 君も聞きたい? 一緒に聞きに行こうよ! じゃあ、夜の11時に―― え? なんでそんな時間にって? 

その子はその時間にしか現れないから!


『夜の音楽室』













先輩は、素朴で大人しいけれど、優しくて気立てが良い。彼氏がいてもおかしくないな、と思うのに、つまらない、と言われ、いつも別れてしまうらしい。

先輩は「私とは合わなかったのよ」と笑顔に哀愁を漂わせる。すると後日、先輩は結婚した。

うん、先輩は、お嫁さんが似合うよ。

……私のお嫁さんに


『私の大好きなお嫁さん』













迷子になった……。成人で迷子はキツイよ……。仕方ない、誰かに道教えてもらおう。一人うろついている男性に道を尋ねた。

「ああ、僕も迷ってるんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ……幸せになる道がどこにあるか分からなくて……」

……その人には腕の良い知り合いのカウンセラーを紹介した。


『迷子』













今日は詩の朗読会に来た。お淑やかな女性が一人登壇して、冊子を開く。どんな詩なんだろう……

「俺は彼女を傷つけた、最低な悪魔だ。この胸に潜む悪魔と生きていかなければならないなんて、虫唾が走る……」

俺は背筋が凍った。

待って! それ元カノと別れた時にSNSであげたポエム!


『黒歴史ポエム朗読会』













「ねぇねぇ! アゴピって良いと思わない?」

「えぇ……私は嫌かな……」

「そうなの? 一緒にやるのも嫌?」

「できれば遠慮したい……顎は」

「そっか〜。じゃあ、自分でやっちゃお! できたら一番に見せるね!」

「う、うん」

後日、顎にピースサインを添えた、友達のキメ顔写真を見せられた。


『アゴピ』













「お客さん、今日はどちらまで?」

「……」

「何もないんですか?……じゃあ、少しドライブしましょうか」

「……!?」

「本当はダメなんですが、今日は特別です。……疲れたら、少し休んだ方がいいですよ」

タクシーの運転手が疲れている人だと勘違いしてる。俺は、過労死した幽霊なのに。


『生きてる時に会いたかった』













俺は、毎日とある奴と競争している。いつもあいつが勝って、俺が負ける。だが、今日こそは勝つ!……よし、あいつがスタート地点まで来た! 走れ!……結局、俺は勝てなかった。悔しがる俺に、あいつは淡々と言い放つ。


「まもなく電車が止まります。危険ですので、黄色い線の内側にお下がり下さい」


『絶対に勝てない競争』













「今日のお肉、美味しいね。これ、どこの?」

「宮城さん……貴方の愛人と同じ名前でしょ?」

「え、ま、まさか……」

「ふふっ、そのまさかよ」

「お、お前何してるんだよ!! こんなの犯罪だぞ!!」

「貴方が犯罪者でしょ、やっと白状してくれたわね。……あ、私も白状しとくと、その肉は牛よ」


『浮気の問いただし』













おじいちゃんがおばあちゃんと暮らしていた家で安らかに息を引き取った。家族は、皆泣いていた。でも、僕は泣けなかった。おじいちゃんがどこかにいる気がしたから。僕はふと縁側に出ると、二頭の黒い蝶が戯れながら飛んでいた。その時、僕は確信した。

あれはおじいちゃんとおばあちゃんだ。


『生まれ変わり』













「はははっ! 見ろよ、人間が百鬼夜行の真似事をしてるぜ! この猫又様と一緒に驚かしに行こうぜ、一つ目!」

「……僕はいいよ」

「えっ、なんでだよ?」

「……僕には見えない」

「はぁ? でかい目ん玉一つこさえといて何言ってんだよ」

「……僕は医者の太郎だよ、幻覚持ち患者の五十六さん」


『妖怪は人間』













「お姫様抱っこ……」

小声で言ったつもりが聞こえたらしく、歩いていた人が私の方を見た。

「あ、驚いたよね。宴会でつぶれちゃってさ、この子」

「……ご、ごめんなさい! 失礼なことを……!」

「気にしてないよ」

人の良い笑顔を浮かべて、軽く会釈して去っていった。

「かっこいいお姉様だ……」


『イケメン』













君のその誰も彼もを魅了する笑顔は、俺には向いてくれなかった。彼女は人見知りだったから。だから、俺は何度も会って、話して、仲良くなるように努めた。結果はうまくいった。俺と会ったら必ず笑顔を見せてくれるし、話したらずっと笑顔でいてくれる。

俺は愛おしくなって、彼女の首を抱きしめた。


『俺に向けた笑顔』














「ごめんね、ロバート……」

「何も話すな! 今手当てするから!」

「もう、ダメよ……私は……」

「クリス……クリスーーー!!」

俺は、血だらけで冷たくなったクリスを抱きしめた。

クリス……俺の最愛な人を、失ってしまった……。

 

「……っていう感じのストーリーどうですかね!」

「ボツ」


『ありすぎる展開』














車の教習所の廊下で、女性が泣いていた。試験に落ちたのだろうか。俺は検定員なので、こんな場面は幾度となく見ている。俺は気づかぬふりをして通り過ぎようとしたが、女性に声をかけられた。

無視するわけにもいかないので、振り向くとその場で凍りついた。


「やっと会えたわ……夫を殺した貴方に」


『別の事情』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『どうよう』が面白かったです。 卒業式でその曲にしたのは、担任の先生の趣味ですかね。 『黒歴史ポエム朗読会』 かわいそうですね。 『別の事情』も好きです。 これから検定員さんはどうなる…
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