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続きです。
宜しくお願い致します。
「申し訳有りませんが覚えていません。自分のあまりの無力さや無念であの時何をしたのか、何を考えていて、何を思っていたのか全く記憶に有りません…ですがあまりの絶望で自棄になっていたのは…なんと無くですが…覚えてはいます…」
そうかも知れません。人としてそして何より女としての在り方、尊厳を盗賊達に徹底的に踏みにじられたのですから、自棄になっても可怪しくは有りません。心が壊れなかっただけでも、彼女の内に在る強さやリョークさんへの想いを感じられます。これが彼女の内に秘められた物なのかも知れません。
「そうですかそしてその時に、貴女とリョークさんの身体と魂を生け贄にして、私を召喚した事も覚えてはいないと?」
これは隠す必要は無いでしょう。私を召喚するために何を生け贄として捧げたのかを…。
「…はい、申し訳有りませんが覚えていません」
ポーリーさんから表情が無くなり、顔色も青ざめてしまいました。いくら絶望したからと言ってよりにもよって悪魔を召喚し、そして生け贄として捧げた物の大きさを今になって後悔したのでしょう。リョークさんも同様に表情が無くなり、顔色が青ざめています。
「解りました、別に貴方方を責めている訳では有りませんので、そこまで気にしなくても大丈夫です。しかし貴方方を生き返らせたと言うのには少々語弊が有りますね」
そうです、正確には生き返られた訳では有りません。肉体から離れた魂を、肉体に戻しただけなのですから…思い付きで取った行動だったのですが、何故それで再び肉体が動き出したのかは全くの予想外で想定外でした。肉体から離れていく魂を見た時に、再び魂を肉体に戻したらどうなるのか?…と言う、もしかしたらと思って行った、全くの思い付きでしたのだから。
結果として生き返えらせてしまったと言うのが正しいのですが…。
何の根拠も無かったのですが、僅かですが可能性は有るかも知れないとは思っていましたが…だったと思います?
「?」
私が言った事の意味は解らないでしょう。私自身が理解していない事を、人に理解させようと説明する事は出来ませんし、説明のしようも有りません。ですので、説明をする気は有りませんし出来ません。
「語弊とは?生き返らせたのでは無いのなら、今の俺達は一体何になると言うのか?」
それが一番気になるのでしょうか?生き返った事で再び愛する者と会えたとか抱き締める事が出来るとか、人族ではそちらを優先しそうですが?生き返った事の方が気になるとは…どう説明したらよいのでしょうかね…。
「貴方達の魂を肉体に返したことで一時的に生き返らせた状態と言うのが一番近いですね。ですので、魂を肉体から出してしまえば肉体はまた死んでしまいます。そうですね…仮の生…仮初めの生とでも言えば良いですかね…」
例えば、こう言うのが一番近いのでしょうか?私の知識ではこの例えくらいしか思い付きませんし、考えられません。
「…仮の生?」
そう、例えるのならこれが一番近いのではないでしょうか?一度死んだ者の肉体から離れてしまった魂を再び肉体へと戻し、死ぬ前と同じ状況へと戻すのですからそう言う事になるのでは?
その際、魂や肉体を私が吸収する事で私の一部になるのですが、再び魂と肉体を具現化した時には肉体の損傷も何故か無くなっていますので、魂を肉体に戻すだけで以前の様に活動出来るのですから私にも彼等にも都合が良いのではと思わずにはいられません。
魂の損傷の有無に付きましては良く解りませんので、この際割愛させて頂きます。
「そうです、それが一番解り易いのでは無いでしょうか?」
私の見解と言いますか、考えですか?ではこう言う事で良いのでは無いでしょうか?これらの事は今後検証していく予定ですので、今のところはこれくらいしか言えません。
「仮って…それなら、あんたは俺達を自由に生き返らせたり死なせたり出来るって言う事か?」
中々面倒な事を考える人族ですね。折角生き返らせた存在を、また死なせてしまうとは時間と労力の無駄なのでは無いでしょうか?その様な時間が有るのなら、他にも色々と検証してみたい事が有りますのでそちらに時間を使いたいですね。
「それは可能ですがするつもりは無いと言うのが正しいのかも知れません。ただ一つ言える事は、余程の事情が無い限り一度生き返らせた貴方達を、私の勝手でそう簡単に再び死なるつもりは有りませんのでご心配には及びません」
これは全くの本心です。信じるも信じないも、彼等の勝手でですし自由です。
「それを信じろと?」
話が先に進みませんね…私の説明力や知識や語彙の不足で彼等を信用させる事が出来ていないみたいですから、納得も出来ないのでしょう。私自身、自分の言葉が曖昧な物に感じているのですから仕方が無いのでしょうね。
「信じるも信じないもそれは貴方達の自由ですので、その辺りの解釈につきましては貴方達にお任せします」
そうです、私の言葉を信じるも信じないも、彼等に任せるのが良いのでしょうね。私は彼等を利用出来れば良いのですから、信用されなくても特に問題は無いと思います。私の命令を強制させる事が出来ればの話にはなりますが…。
「あんたはもしかして神か悪魔なのか?」
神か悪魔かとは…先程説明した筈なのですが…したと思いますが!…しましたよね!あまりの衝撃的な事実に、私の言葉を聞き逃したのか、それとも彼等の理解の範疇を越えているのか…どちらなのでしょうか?それともどちらもなのでしょうか?
「先程も言いましたが、私はポーリーさんが盗賊に殺される間際に、ポーリーさんの願いによって召喚された悪魔です。神とよ呼ばれる存在に会った事が有りませんので、存在しているのかしていないのかは私には解りません」
神には会った事の無いのでその存在が実在するのかは解りませんが、悪魔が存在する事は私自身が存在しているので、これが証明になるのではないのでしょうか?私の何が悪魔の証明になるのかは解りかねますが…。
「…本当に悪魔は存在したのか…」
本当にとは…目の前に居るのが悪魔です。私が保証します。私が悪魔で有る証明は出来るかどうかは解りませんが。
それなら、私の者や物を吸収する能力を見せるのが良いのかも知れませんね。吸収した肉体と魂を具現化させて、肉体に魂を戻して見せるのも良いのかも知れませんね。
「その様ですね。悪魔界と言えば良いのかは解りませんが、私程度の存在の悪魔でしたら、それこそ数えるのが時間の無駄だと思える程度には存在しています。それこそ掃いて捨てる程と言うのが当てはまる程度には…。上位の悪魔は見た事が有りませんので解りませんが…。そして先程も言いましたが私は神を見た事も会った事もは有りませんので、神が存在するのかは解りませんが…ですが人族の町には神殿など神を奉る場が造られていますので、存在しているのかも知れませんね」
私の発言にリォークさんもポーリーさんも唖然としています。悪魔が実在する事を知った事だけでも、盗賊に殺された事や仮初めとは言え生き返った事よりも遥かに衝撃的だったのでしょうか?それとも神が実在するかどうか解らない事が衝撃的だったのでしょうか?
私には人族の考え方や思いが解りません神の存在を否定とまでは言いませんが私が神の存在を解らないと言った事に、もしかすると今まで信じて居た物を否定されたと思ったのかも知れませんね。人族で言う信仰でしたか?彼等の信仰を否定する様な形になったのかも知れませんね。彼等の心の拠り所ですか?神を信じ信仰する事で彼等の人生が幸福にそして死後に安寧が訪れる?などの教義や教えが有るみたいですね。
悪魔の私には、自分を信じる?自分の思うように?するしか人族の中で生きる術が有りませんので良く解らない考え方ですね。人族の中で生活していればいずれ私にも理解できるのでしょうか?




