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続きです。
鼻がムズムズ(困り)
眠いです(zzz)
花粉症の季節ですね。
≪レッグとマーサのかまど亭≫に着いたのですが、人族の若い女は宿にまで付いて来ました。これ以上関わりたくは有りませんので、私は宿の中に入ります。しかし、若い女も私に付いて宿の中にまで入って来ます。
「あっ、レグナさんお帰りなさい」
「只今戻りました…」
いつもの様に食堂で給仕をしているジレアさんが、忙しい合間を縫って私を迎えてくれました。余計な手間を掛けさせてしまい申し訳ないですね。
「キオちゃんもお帰りなさい!」
「アウッ」
ジレアさんは仕事中の筈なのですが、キオさんを抱き上げて撫で始めました。カウンターの向こうに居るマーサさんの顔が少しずつでは有りますが、引き吊り初めています。ジレアさんは気が付いて居ないみたいです。今朝も仕事中にキオさんに構っていた事でマーサさんに怒られた筈なのですが、その事を覚えていないのでしょうか?
キオさんが目の前に居ると撫でずにはいられないのか、それとも記憶力が残念なのかは私には解りかねますが…。
ジレアさんはキオさんを撫でるのに夢中になっているのでしょうか、しかしそのジレアさんに近付いて行く存在が居ました。それは私の後を付いて来た、人族の若い女です。
「あら、シシリー久しぶり」
自分に近付いて来る存在に気が付いたジレアさんが、顔を上げると少しですが驚いた様な困った様なそんな表情をしています。私の後を付いて来た人族の若い女ですが、ジレアさんの知り合いだったみたいです。
「…うん、久しぶり」
シシリーさんの表情は優れません。相変わらずキオさんに視線が向けられています。
「…?どうしたの?」
そんなシシリーさんの表情に気が付いたジレアさんは、心配そうにシシリーさんに問い掛けます。
「この人は貴女の所のお客さん?」
しかしその優れない表情の原因に私の名前が出てくるのは、なぜでしょうか?全く心当たりが無いどころか、そもそも彼女とは初対面の筈ですが…。
「そうよ、最近色々と噂になっているあのレグナさん!」
噂?何事でしょうか?何がどうして私が噂になっているのでしょうか?謎すぎて、理解が追い付きません。
「済みません、私の噂とは何の事でしょうか?」
「いえ、それは…その…あ、ははは…」
「えーと、ですね…」
私が気になるのでジレアさんとシシリーさんに問い掛けますが、誤魔化されると言いますか言葉を濁されてしまいます。何か有ったのでしょうか?
「わっ私は仕事に戻りますっ」
「私も門限が有るので家に帰らなければ…!」
そう言ってジレアさんは私にキオさんを手渡すと慌てた様に給仕の仕事に戻っていき、シシリーさんもキオさんの顔を一度見てから彼女も慌てた様に≪レッグとマーサのかまど亭≫から出ていきました。
何とも慌ただしい事ですね。あんなに慌てて出ていって、転んで怪我などしなければ良いのですが…。ですが私が人族の事を心配をするとは、人族の中で生活していく事に慣れて来ているという事でしょうか?それとも私の感覚が人族に近付いているのでしょうか?
取り敢えず宿に戻って来ましたので、一度部屋に入ってから食堂へと出直した方が良いでしょうね。
「それでは後程夕食を頂きに来ます」
「あいよ、今日は良い肉が手に入ったから、おチビさんにはご馳走を用意しているよ!」
私が食堂を後にしようとすると、マーサさんからその様に言われました。マーサさんの言葉を聞いたキオさんから落ち着きが無くなり、忙しなく尻尾を振りだしました。鼻息も荒く、口元から今にも涎が垂れて来そうです。
「アウッアウッ(ご主人、メシ、メシ!)」
「解りましたから少し落ち着いて下さい」
つい先程串焼きを食べたばかりとは思えません。…私も串焼きを食べましたが、人族では間食扱いですので別腹と言う認識でしたがキオさんもそうなのでしょうか?それともただ食い意地が張っているだけなのでしょうか?私もキオさんの事を言えませんが…。
今晩も≪レッグとマーサのかまど亭≫で美味しい夕食を頂きました。キオさん用に仕入れたと言われる肉ですが、牛の魔獣の肉でした。牛の魔獣の生肉を美味しそうにそして急いで食べているキオさんを見ていると、私も食べたくなってしまいましたので追加で料理を頼みました。
私用に出てきたのは牛の魔獣肉のステーキでした。焼いた牛の魔獣の肉を一口大に切り分けられています。肉の表面は焼き目が付くようにこんがりと焼かれていますが、肉の中心部には赤みが残っています。
基本的に人族には肉や魚を生で食べる事はありませんが、獣人族では料理によっては肉や魚を生で食べる料理や調理法が有るそうですが、今私の前に置かれた牛の魔獣肉のステーキは表面が焼かれていますので、生と言う認識では無いそうです。
このステーキを一切れ口に入れると焼かれた肉の温もりと、微かにですが爽やかな香りを感じました。そして咀嚼するために一噛みすると、肉汁と脂が滲み出て来て焼く際に味付けで使用された塩胡椒と混ざり合い、脂分をくどく感じさせません。噛む度に肉汁と脂と塩胡椒と肉が混ざり合い、気が付くと肉が溶けたように私の口の中から無くなっていました。
「アウッ、アウッ(ご主人、焼いた、肉、旨そう)」
このステーキを私が追加して食べていたのですが、その事にキオさんが気付いて私を見上げてきます。キオさん用に作られた大盛りの生肉を平らげてしまったみたいで、私が食べているステーキにも興味を持ったみたいです。先程食べた串焼きは味付けがされていない肉本来の味を楽しめる物でしたが、このステーキには塩と胡椒で味付けをされていますがキオさんが興味を持ったみたいですので食べても大丈夫なのでしょう。
キオさんの食事は生肉だけでは無く、私や他のお客様と同様に肉と野菜が煮込まれたシチューの様な物も付けられています。このシチューも味付けがされていますので、塩と胡椒くらいでしたら大丈夫なのでしょう。私はステーキを一切れキオさんのお皿に置いてみました。するとキオさんは一瞬でステーキを口に入れると、素早く咀嚼を始めました。
「そんなに慌てて食べなくても、だれも取りはしませんよ」
「ガウッ(肉、旨い、旨い、肉)」
ステーキを一切れ平らげたキオさんは再び私を見上げて来ます。
「ガウッ(肉、旨い、旨い、肉)」
「仕方有りませんね」
私はステーキをもう一人分追加すると、私が食べていたステーキを全てキオさんのお皿に移しました。
「これで全部です、これ以上は私の食べる分が無くなってしまいますので…」
するとキオさんは皿に移されたステーキを、一枚ずつゆっくりと味わっています。そして追加したステーキを、私もゆっくりと味わいました。キオさんには私の食べかけをあげたので、私の方が数切れ多くステーキを食べた事は内緒で良いでしょう。
今日は何時も以上にとても美味しい夕食でした。牛の魔獣の肉と言う事でしたが、森の中では牛の魔獣とは出会ってはいません。もしかすると森以外にも魔獣や魔物が生息する場所が有るのかもしれません。調べる必要が有りますね。
それよりもですが、もし牛の魔獣と出会う事が有るのなら是非とも吸収したいですね。こんなにも美味しい肉ですので、私の吸収する能力で吸収してしまえばいつでも好きなだけ牛の魔獣の肉が食べられますね。
しかし、美味しい食べ物とは危険な物ですね。何故か私の目的が、牛の魔獣を吸収する事に変わってしまいそうです。
そして私の後に付いて来た人族の若い女のシシリーさんですが、彼女はジレアさんの友人でこのティエネの町の商会の娘だという事です。そしてシシリーさんの親や親族で経営している商会と言うのが、まさに今日、私が荷物配達の依頼を受けた商会でした。もしかするとまた商会からの依頼を受ける可能性も有りますので、今後はシシリーさんへの対応を改めなければいけないかもしれませんね。
そして美味しい夕食を堪能した私達は、今日も夜の森に行きますので部屋に戻って出掛ける準備をしないといけません。
可能なら、牛の魔獣と出会いたいですね。
宜しくお願い致します。




