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続きです。
少しずつ暖かくなって来ましたね。
人族の少ない場所でキオさんを地面へと下ろします。その間もキオさんの視線は、串焼きに注目しています。そして若い女はそんなキオさんを見ています。
私は肩掛けの鞄から皿を一枚出すふりをして、吸収していた皿を一枚現します。その皿に買ってきた串焼きを四本置きました。それを見たキオさんは私を見上げて来ます。尻尾は極限まで早く振られて、口元の涎も決壊寸前です。
「クー(ご主人、食べる、良い?)」
「どうぞ、食べて下さい」
私がそう声を掛けるとキオさんは勢い良く串焼きにかぶり付きました。肉を串から外してあげた方が良かったでしょうか?しかし、キオさんが勢い良く食べているので、今は手を出さない方が良いでしょうね。
「…貴方は、おチビさんの言葉が解るの?」
視線はキオさんに向いたままですが、若い女は私に話し掛けて来ました。私達に何か用事でも有るのでしょうか?そして何故私達の事を知ろうとしているのでしょうか?
「言葉ですか?」
「だって貴方とおチビさんを見ていると、会話しているように見えたから…」
正直に言ってしまうと面倒な事になりかねませんね、ここは誤魔化す事にしましょう。この若い女は私かキオさんに興味が有るのか解りませんが、少し面倒ですね。
「そうですね…キオさんから伝わって来る雰囲気でしょうか?それで何を言っているのか、予測?している様な感じですか?」
「…雰囲気や予測って?てっきり貴方達の間で会話が成立しているのだと思っていたのに…」
この若い女は何が気になっているかと思えば、そう言う事でしたか。キオさんには私の身体の一部が食べられた事により、私の分身?分体?の一部になってしまいました。そしてそれからはキオさんの言葉が解るようになり、キオさんも私の言葉が解るみたいで、会話が?出来る様になりましたが…何故なのでしょうね?私も理解していませんので、その事を説明する事は出来ないでしょう。
「そうなんですか?最低限の意思の疎通が出来ていますので、私達は別に困ってはいませんが」
「この子が従魔で貴方と会話が出来ているのかとも思ったのだけれど、この子が魔獣には見えないし…それも違うのよね?」
従魔ですか…それは良い事を聞きました。キオさんを従魔という事にしておけば、何かと都合が良いかも知れませんね。今後のために、この事は記憶に留めておきましょう。
「従魔ですか…キオさんは狼の子供ですよ、狼も従魔に出来るのでしょうか?」
「えっ、子犬と思っていたのに狼なの!」
またこのやり取りですか…。これで何度目なのでしょうか?これは早急に何か手を打たなくては、これから先も同じ事を繰り返す予感がしてなりません。
「そうですよ、キオさんは子狼です」
「何で狼が町の中に居るのですか?」
面倒ですね。人族では嘘も方便と言うらしいですから、誤魔化してしまっても良いでしょう。本当の事などとても言う事は出来ませんし、もし言ったとして信じる者が居るのでしょうか?きっと私の頭がおかしい変人扱いされるのが落ちなのでは無いでしょうか。
「…さあ、何故でしょうね?居たからとしか言いようが有りませんが…」
「居たからって、そんな無責任な事が有りますか!」
中々しつこいですね。私の事などどうでも良いのでは無いでしょうか。彼女が私の事を聞いたからと言って何の得になるのでしょうか?
「私に言われましても、私が町に入れた訳では有りませんので…」
「見たところ魔獣では無いみたいですし…狼と言うより…私には子犬にしか見えません」
彼女は私に何を求めているのでしょうね?そしてキオさんにも…。キオさんが串焼きに齧り付いているのを、熱心に見守っています。子狼の食事を見る事など無いとは思いますが、しかしそれ程見ていて楽しい物でしょうか?
しかし、こんな事をしている場合では有りません。私の分の串焼きが冷めてしまいます。
先ずは鳥の串焼きを一口齧ります。皮はパリッとしていますが、肉は程よい弾力が有り肉汁が口の中に広がります。味付けはされていませんが、咀嚼すると脂と肉汁が混ざり合い鳥本来の味?旨味を堪能出来ます。キオさんが選んだ店ですが、匂いで店を見分けるとは魔獣の鼻は素晴らしい嗅覚を持っていますね。それとも野生の本能的な何かなのでしょうか?
「……!」
「……?」
人族の若い女が何かを言っていますが、今はそんな事よりも串焼きです。鳥の串焼きを一本食べ終えると、次に兎の魔獣の串焼きです。この串焼きも肉汁と脂とのバランスが絶妙で、鳥の串焼きと比べると淡白ですが一噛み毎に程好い弾力が有り噛み応えが有ります。
「……!」
「……?」
その様に私とキオさんは串焼きに夢中になっていたのですが、全てを食べ終えて気が付くと再び人族の輪の中に私達は囲まれてしまっていました。老若男女問わずなのですが若い女が多いように思われます。何か有ったのでしょうか?
「皆さんどうかされましたか?」
聞いてから気が付いたのですが、この場にいるほぼ全ての人族達の視線の先にはキオさんが居ます。ほぼ全てなのですが一部の人族は私を見ています。私の行動が何故か彼らの注目を集める様な事でもしたのか、疑問ですね。
私が人族達の視線を気にしても仕方が有りませんので、話掛けられないので有れば相手をする必要も有りませんね。
「アウッ(ご主人、これ、捨てる、良い?)」
それはキオさんも同じだったようで、キオさんも人族の視線を気にはしていないみたいです。食べ終わった串焼きの串を載せた皿を押しながら、ゆっくりとですが器用に歩いています。
「そうですね、私が捨てましょう」
私は皿と串を手に取ると、皿は肩掛けの鞄に仕舞うふりをして再度吸収します。食べ終わった串は確か串焼きの屋台の近くに、ゴミ箱?が有ったような気がしましたのでゴミ箱を探すために人族の輪から抜け出します。私達が通ろうとして近付くと、人族達は避けてくれましたので悪い人族達では無いのでしょう。視線は相変わらず私とキオさんに向けられてはいますが。
私は串焼きの屋台の近くに置いて有ったゴミ箱に、串焼きの串を捨てると私達が泊まっている宿屋≪レッグとマーサのかまど亭≫へと歩き出しました。しかし人族の若い女だけは私達に付いて来ています。
「何か私達にご用ですか?私達は宿屋に戻るのですが」
「先程の私の話を聞いていましたか?」
そう言えば私が串焼きを食べている時にも何か言っていましたね。私は串焼きを食べる事に集中していましたので、敢えて聞き流していましたが。
「先程の話…ですか?」
「覚えていないのですか?」
覚えているも何も、私は食事中でしたので聞いていなかったと言うのが正しいのですが。
「はい、全く。余りの串焼きの美味しさに、夢中になっていましたので」
「はあ、もう一度言いますけど、この可愛らしいおチビさんとはどの様に出会ったのですか?」
どの様に出会ったと言われても、返答に困りますね。素直に森で狩った獲物と言う訳にも行きませんし、そもそも彼女は一体何の目的で私に近付いて来ているのでしょうか?こう言っては語弊が有るかも解りませんが、私などどこにでも居る普通では無いかも知れませんが新人探索者でしか有りません。私に興味を持っても、何かしらの利益が有るとは思えませんが。果てして何が目的なのやら…。
「先程も言ったと思いますが、町の中で偶然出会ったのですが」
「それは先程も聞きました…」
彼女の方から聞いて来ましたので素直に答えたのですが、微妙に会話が成立していない気がしています。
「では、どこで出会ったのですか?おチビさんには他に兄弟はいましたか?」
どういう意味なのでしょうか?他に兄弟が居たかとか?確かにキオさんには兄弟が居ますが、それは森の奥での話です。キオさんの兄弟達狼の魔獣がこの様な町中に居る筈が有りません。もしそんな事が有れば、町の中はきっと大混乱でしょう。彼女の求める答えが私には理解出来ません。
私には宿に戻ってからの予定が有るのですが、彼女はいつになったら私達を解放してくれるのでしょうね…。
クシュンッ…。
でも、花粉の季節は辛いですね。




