第三話
次の日から星を避けた。
ピアノレッスンの日も会わないよう遅く帰宅した。
学校の廊下ですれ違う時、星は何か言いたげにこちらを見ていたが気づかないフリをした。
そんな日々を過ごす内に二年生になった。
そして転機が訪れる。
私を好きだと同じ部活の一つ上の先輩が言ってきたのだ。
最初はもちろん断った。
星が忘れられないからと。
でも先輩はそれでも良いと言った。いつかその人を忘れて僕を好きになってくれるように頑張ると。
何で私なんかをと先輩に聞く。
がむしゃらに、一途に部活をする姿に目が離せなくなった、支えたくなった。と優しい顔で教えてくれた。
そんな優しい先輩を私は身勝手にも利用することにした。
先輩の”好きだ”と言う言葉は今の私にとって都合が良かった。
先輩と一緒にいれば星を忘れることが出来るかもしれない。
そんな不純な動機で私は先輩と付き合う事となった。
先輩はとにかく優しかった。
飽きさせないようさまざまな所へデートに行き、その都度楽しませてくれ甘く囁いてもくれた。
そんな先輩に途方も無い罪悪感が湧きだした。私は先輩の素敵な所を探しては好きになる努力をした。
でも星を忘れることが出来なかった。
どんな場所へ行っても、キスをしても、想うのは星の事ばかり。
少しでも姿を見てしまえば目で追ってしまう。
これ以上先輩を利用することは出来なかった。私の所為で大事な先輩の時間を無駄にしてしまったのだ。優しい先輩に甘えすぎていた。
だから先輩の卒業式の時に正直に話した。
やはり好きな人を忘れられないと。もう偽って付き合う事は出来ないと。
すると先輩は『忘れさせる事が出来なくてごめんね。』と言って私の頭をポンっと優しく触れ去って行った。
先輩の時間を拘束してしまった私に最後まで優しかった。優し過ぎた。
恨み言を言ってくれた方が良かった。いやこれも私の我が儘だ。救われたいが為に貶して欲しかったのだ。
『もう変なのに捕まっちゃダメですよ。お元気で。』と私は笑顔でその後ろ姿を見送った。
当然泣く資格は一ミリも無い。悲劇のヒロインぶるなんて先輩に失礼過ぎる。
これからは誰もこんな私に巻き込まれ無いよう、迷惑を掛け無いよう、自分を律していこうと心に決めた。
だがその頭の片隅にはいつも星が居る。