「あーーん!もう!この鍵どうやったら壊せるのよ!!」
「魂ってどういうこと?あたし死んだの?」
「今は仮死状態ですよ。きっと」
「でも、もう一人のあたしは行動していたわよ」
「いつものひまりさんの事ですよね」
ピアスは首を傾げながら呟く
「・・不思議ですよね。そのひまりさんは川を渡れないんですよ」
「そうなの?あんな浅い川なのに」
「はい、ですから、この前は代わりに男性の方がいらしてました」
「ちょっと、まって・・もしかして、あの川・・」
渡り切った川を眺める。冷や汗がドッと吹き出る。
「もしかしたら・・三途の川じゃね?」
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「頼んだわよ」
コクリとアビトは頷く。そしてひまりの唇を求める。るアビトは中毒性のあるキスに唇を熱く感じ翻弄されながら眠るように体をだらんとさせる。ひまりは、その体を介助しながら、表情をジッと見つめている。
「上手く渡って頂戴ね」
その時、・・ドックン・・ひまりの心臓が強く音を立てる。視界が狭く暗くなる。血の気が引いていく
(あ、あの子・・ひまり。。川を渡ったってしまったのね)
目が覚めると真っ白な天井と心配そうに覗き込むアビトと目が合う。
「ここは・・・」
「病院」
「ずっと昏睡状態が続いていたんだよ。目を覚まさないかと思った‥本当に良かった」
アビトの瞳に薄っすら涙が光る。ひまりは気分が優れない、きっとあの子はまだ川を渡ったまま
確認するようにアビトに尋ねる
「で、どうなっていたの?」
アビトは曇った顔をしながら口を開く
「ひまりが、ひまりが居たんだ。ひまりは川を渡っていた。俺に気が付いて手を振っていた。そして「来るな」って「帰れ」って叫んでいた」
「それで、どうしたの」
「それでも君に言われた通り、川を渡ろうとしたんだ。そうしたら急に黒服の男が出てきて「ダメだ」って手を引かれたと思ったら・・戻っていた、そしたら君が倒れていたんだ」
「・・・・・・・」
(と、言うことはメイは失敗したのね・・)
「・・ね、アビトお願い」
ひまりは、アビトの頬に手をあて呟く
「お願い、キスして」
「・・・・・」
アビトは拒むように目を反らす。
「どうしたの、何、考えているの」
「キスしたら、君はどこへ行くの?あそこにいたひまりは君じゃない。アイツと・・ひまりと入れ替わるのか?」
「だとしたら?」
「俺は・・君と一緒にいたいんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あーーん!もう!この鍵どうやったら壊せるのよ!!」
「ですから、先程も申し上げましたが、鍵を探していただかないと・・」
「探しに行きたいけど、ココから出られないし、もしかしたら、あたし死んでるんでしょ」
(アビト大丈夫かな?アイツも死にそうなのか?三途の川渡ろうとしていたし)
川は増水していた。きっと今、誰がきても渡れないだろう。
(タイミングってあるよね~そんな奴は日頃の行いがいいんだよな。え?アビトは日頃の行いいい?イヤ、そうとは思えん、ま、助かったならいいか・・って、あたしはどうなるんだろう)
鍵は当たり前のようにビクともしない。鍵穴の周りには天使が描かれていた。
(なんて、残酷な天使なの!こんな可愛い子を閉じ込めるなんて。それにしても、ちょっと疲れたな)
かごを背もたれに休憩する。
「ね、ピアス。ピアスも死んでるの?」
「いいえ、昏睡状態が続いています」
「ふーーん、大変ね。じゃあ、このかごが開いたら、目が覚めるのね」
「はい。でも望んでいる人は恐らくいませんけど」
「え?なんで」
「だって、わたし悪魔ですから」
「へぇ、悪魔、へ?あ、あくまぁぁああああ?」
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「ひまり!」
病室のドアの前にメイが立っている。ひまりに駆け寄りギュッと抱きしめる
「会いたかったぁ」
「私もよ」
そう言ってギュッと握り返す。メイは離れるのが名残惜しい気持ちを抑えながら「報告」と
「彼、彼氏ができたの。入って」
そう言って、招き入れる。その姿を見たアビトは思わず立ちあがる。
「あ、あなたは・・」
確かにあの時の男、なぜココに?それもメイの彼氏だと
ひまりは棒立ちするアビトを引っ張り耳元で囁く
「ね、私と彼がキスするのみたい?」
それを聞いたアビトは二人の顔を交互に見合い。引き寄せられるようにひまりにキスをする。
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目を開くとアビトの顔がある。あたし、あたしがアビトとキスをしている!ドンっと突き放す。
「キャーーー、な、何してんの!!」
その様子をみた男が病室からスッと姿を消す。メイはショックのあまり地面に座り込んでいる。
「戻ったのか、ひまり」
「あ、あんたね・・」
ファーストキスが・・ショックの余りに言葉が続かない。アビトはひまりの頭をポンポンと叩いて
「お大事に」
病室を出ていく。