おい、こら、あんたに言ってんのよ。あんた、アビトと何してんの!
アビトは倒されたままの姿勢で考えた。あいつ本当にひまりなのか?いや、どっちが本当のアイツなんだ?
一方、ひまりの方は
「ちょ、ちょいと、あんた、寝てないで出てきなさい!」
大声で怒鳴っている。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「おい、こら、あんたに言ってんのよ。あんた、アビトと何してんの!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
代わりにお母さんが
「ひまり、大丈夫?何かあったの?」
「大丈夫!独り言!!!!」
「あ、そうなの。それならいいのかな?」
「いいの!心配しないで!」
お母さんは、思春期なんだろうと、心配しながらも放っておくことにした。
(そうだ、心で話せばいいんでしょ、おーーーーーーーーーーーーーーーーい起きろ!起きろ!起きろ!)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(おーーーーーーーーーい。起きろ、起きろ、おきろってば!!)
(もう、何よ。煩いわね)
(あ、起きたわね。ちょっと、あんたアビトと何してんのよ。まさか、まさかだけど、キ、キッスなんて・・)
(したわよ)
(はい、終わった。あたしの青春)
(大袈裟ね。キスなんて何でもないわよ)
(何言っての、ファーストキス覚えてませんってなに?そんな一生に一度の問題!勝手に何してんの)
もう、泣きたいやら、悲しいやら、恥ずかしいのやら感情の一人パンデミックが起きている。
(ちょっと、待って、あなたがキスした訳じゃないのよ。私がキスをしたの、と、なればあなたはキスの未経験者ってこと。それでどうかしら?)
(あ、そうか。ってそうなっていいの?)
(そうよ。そうなれば問題ないわ)
(そっか。問題ないか。って、問題大ありよ!)
(そんな事より、アビト何か言ってなかった?)
(そんな事?!!!)
この子勝手すぎるでしょ!
(いいから、何か言ってたんでしょ)
(あーなんか、誰か助けるとか、川とか)
(川?川があったの?)
(川があって渡れない、みたいなこと言ってたと思う)
(ふ~ん。なるほど、そういうことね)
(何?ね、なんの話しているの?わかりやすく教えてよ)
その時、電話が鳴る。メイからの電話だ。
(ほら、早く出なさい、あの子でしょ。じゃあね)
(あ、ちょっと・・)
止める暇もなく電話は鳴り続けている。
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その夜、アビトはいつもの場所に足を運ぶが、ひまりは来なかった。
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メイはおめかししていた。今日はひまりと一緒に出掛けるからだ。メイはひまりが好きだった。それは友達以上の恋心だった。メイは男子には興味が無かった。それはひまりに一目惚れしてしまったからだ。
「早く着いちゃった。えへへ」
メイの可愛さは人目を引いた。そこへ二人の男の子が声を掛けてきた。
「ね、君一人?」
「ひとりじゃない」
「え、誰かくるの?お友達?なら、俺らと一緒に出掛けない?」
「・・・」
メイが無視をしても、可愛いだけで、余計に離れようとしない。その時
「ちょっと、あたしの友達になにしてんの」
「ひまり。この人たちしつこいの」
「ね、俺らと一緒に・・あれ?君、もしかして、あの時の夜の子じゃん?」
「え?あたしの事知っているの?」
「そうだよな、ほら、キスの子だろ」
「キスの子?」
「ちょっと、変な事言わないでください!ひまり行こう」
「あ、あ、うん」
「ちょっと待ってよ」
と呼び止める声に重なって「やめとけ、夜の男がいる」と聞こえた。
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「変な人たち、イヤになっちゃうね」
と、いいながらどさくさ紛れ手を繋ぐことに成功しメイは嬉しくて仕方ない。
(キスの子って何?)
嫌な予感がする。あの子が何かをしたのでは?と不安になる。それに・・と周りを見回す。夜の男って誰?アビト?
「どうしたの?元気ないよ」
「なんでもないよ。ね、どこ行こうか」
兎に角、この不安に駆られる感情から逃げたかった。