大きな鳥かごに閉じ込められている、もう一人のひまり
「ねぇ、学校で私に何の話したの?」
「え、何って今日の事、ダメだった?」
アビトは下から覗き込みながら顔を見る。
(それで、あの子挙動不審だった訳ね。全く寝てる間に隙もないわね。)
「とりあえず学校では話しかけないで」
「えーーなんで、もっと話したいのに」
ひまりはスッと立ちあがる。
「じゃ、これでサヨナラね」
「それは、ないだろ。お前が俺を選んだんだからな」
「それなら、また別の人を見つけるまでよ」
「わかった。もう、学校で夜の事は言わない。それならいいだろ、少しくらいは話をしても」
「いいわ、とってもいい子」
「褒美くれる?昨日の・・」
「分かった。・・じゃあ、ここでキスをして・・」
瞳は虚ろで引き込まれる、アビトはひまりの頬に手を当てキスをする。とろける甘いキスの中で意識が遠のく・・
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昨晩アビトはひまりを見つけた。ひまりの前には男性の行列が出来ていた。何やら相性の合うキスの相手を探しているという。最初、アビトはひまりだと気が付かなかった。興味本位で見ている時にひまりだと気が付いた。
「あいつ、何してんの!!」
止めに入るも、行列を乱すな!後ろに並べ!と止む無く列に並ぶ羽目となる。ひまりは誰とも構わず、人目も気にせずキスを続ける。キスを体験したものは骨抜きにどんどん倒れていく。快感の表情だ。
・・どうなってんだ。異様な光景に街も異様な目線で釘付けとなる。とうとう、アビトの番が来た。
「おい、ひまり、お前なにしてんだ。やめろよ・・」
その声も届かず、ひまりはアビトの頬にそっと手をあて呟く。
「ねぇ、キスして・・」
吸い込まれる様な瞳と唇に気が付けば、アビトはひまりにキスをしていた。
すると、アビトの脳裏に光が輝く、そして声が聞こえる。
(やっと、みつけた)
目を開けると、ひまりはニコッと笑って
「見つけた。行こう」
と手を引いて走り始めた。並んでいる男性陣が喚いているのが聞こえる。アビトにはひまりの姿が背中に羽が生えた天使に見えていた。
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キスをしている時、周りの時間は止まる。
ひまりの意識の中だろうか?ふわふわとした温かい世界が広がっている。ひまりが手を引いてあの子を助けてほしいの。と指を差す。そこには大きな鳥かごに閉じ込められている、もう一人のひまりがいる。近くに行こうとするが、足元に川が流れている。踏み込んだ瞬間ハッと目が覚めた。どうやら、朝が来たらしい。
「はぁ」
吐息が漏れる。ちょっと混乱しているのが分かる。どうやって帰ってきたのかも覚えていない。本当は夢なのか?いいや、と首を振る。そして唇を触る。あのキスは本物だとわかる。思い出すだけでキュンと胸が震えるほどのキスだ。アビトにとって初めてのキスだった。
国宝級のイケメンだといわれ、隠れたファンクラブ存在もある。(知ってるけどな!)そのお陰で抜け駆け禁止と誰も寄ってくるものもいない。(それも知ってるけどな!!)お陰で彼女が出来るはずもなく。そんな純な男子高校生にあのキスが初体験になるとは残酷までに忘れられないものになってしまった。
アビトの心はひまり一色に染まっていた。それなのに、学校のひまりは素朴でちょっとガサツっぽい本当は別人なのか?演技にしては上手すぎないか?とも疑う。でも、学校で会話をするなと言ったひまりはやっぱりひまりだった。
「うーーーーーん」
頭を掻きむしる。
「はぁ、考えても無駄か、それにしてもあの鳥かごのひまりは・・・」