私が私を支配する方法。
「ね、あれひまりじゃない?」
メイが指さす方に確かにひまりらしき姿が見える。服装からして、あのひまりに見える。
「ひまりーーーー」
メイが大きく手振る。ひまりは、声に反応した様に見えたが、2,3歩進むと立ち止まり、くるりと方向を変え、道を戻る。明らかに拒絶の反応だ。
「まって、ねぇ、」
後を追いかけようとするメイの手首を掴み、アビトは首を横に振る。
「もう少しだけ、待ってみよう。な、」
「えーーーなんで。アビトもひまりの事、待っていたんでしょ」
「ああ、待っていたけど」
去っていくひまりの背中が、どうにも「今は、放っておいて」と訴えているような気がしてならなかった。
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ひまりは、メイの声にドキドキしていた。いつもの明るいメイだった。
メイと接点があったのは、あのひまりの方。
「はぁーーなんだろう。このドキドキは」
自分だけの感情になったのが、久しぶりなので、感情のコントロールが下手になった。
あんなに誰とでもキスをしてきたのに。歩く際にすれ違う、見知らぬ人の吐息も、触れる事も大袈裟までに毛嫌いしてしまう。
あのひまりが眠りにつく時、時々人間界に戻れることが分かった。
その時に、他人とキスをすると長時間入れ替われることが出来る。そう教えてくれたのも、ピアスだった。その他に、キスをした相手の意識を支配出来る事も教わった。それをすると、ピアスはとても喜んだ。
「ありがとう。お陰でお食事ができるのよ」
よく、意味は分からなかったが、ピアスが空腹にならずに済むなら。と協力した。
ピアスは、
「私がココから出れたら、あなたも元の世界で普通の生活が過ごせるのに・・あの男に騙されたのね。可哀そうに・・」
あの男も色々な世界を行き来するが「ココには来れないの。だから、この世界は安全なのよ」とも言った。
あのひまりは、自由にのびのびとしていた。意識の共有は彼女には出来ない様だった。
彼女の感情は、私には伝わっていた。いい子なんだとも思った。センスの悪さを覗いては。
キスをすることで、支配できる人間が増え、そのことで、あのひまりを抑えて、行動できる時間が広がっていった。彼女の意識や眠る時間に関係なく、こちらの気分で体の入れ替わりが出来るようになってきた。このまま上手くいけば私が私の体を支配出来る。そんな日も近い。そう感じていた。
そんな、ある晩
「ね、君。俺ともキスしてくんない?」
噂を聞きつけた、ちょっとチャラい感じの男が、ナイフをちらつかせながら近づいてきた。その時の私には何も怖いものは無かった。刺されても入れ替れば、痛みなんて無いに等しい。でも、こんな奴を支配する事に何の興味もなかった。が、断り、事が大袈裟になる方が面倒だと思い。
「そんなものは締まって・・こっちに来て」
男の手を引く。
「おい、じらすなよ」
「そうねぇ、ココならいいわ。ねぇ、私にキスをして・・」
頬に手をやると、男は直ぐに虚ろになり、唇を奪ってきた。キスをする。私にとってはいつもと変わらない、なんて事のないキス。が気が付くと目の前に男は倒れていた。
キスをして、人が倒れたのは初めての事だった。何が起こったのか?動揺していると、ピアスの声が頭に響く
(ひまり。ひまり。聞こえる?)
(え?ピアスなの?)
(聞こえたのね。良かった。戻ってきて)
(でも、この男どうすればいい)
(そいつが、ココに来ているの。使えるかも。だから戻ってきて)
(う、うん。でも、あの子と入れ替われない。まって、家に帰って入れ変わるわ)
私は家路に急いだ。




