どうだ。イッショニなろう。楽にナルヨ
邪霊は、仁の体目掛け次から次へと入っていく。その勢いに右足を軸にグッと堪え全てを受け入れる。体はグラつき上半身は波打ち幾層にも体が重なり合わさって行く。怒号の喚きが連なり辺りに耳障りな反響音が響き渡る。仁はこんなにも霊を受け入れた事が無かった。賭けに出たのだ。正直体が持つかは分からない。が、やるしかない。
森の者全てがその動向を見守tり、全てを仁に託す。
あられ娘はその気配を感じたのか、山神様の祠のある方角に跪き合掌している。栄太はその姿に仁に何か起きている事を察する。そしてその横に跪き共に手を合わせ思うべき心を捧げる。
一方仁も手を合わせ陣を組み言葉を捧げる。
「山神様お力をお貸しください。晴れの矢もの支連地と火と風を灯す。思いの始め世のごとし。さあ、よろづ。この世の先。帰るが良い」
そして体内に居る邪霊の個々と次々に同化していく。
「さあ、おぬしらの思いを受けとる、わが心を受けとれ」
入ってくる気持ちは「痛く」「辛い」「理不尽な者」「金の亡者」「裏切り」「失恋」「逆恨み」「逆上」「勘違いからの自殺」「絞殺」「残虐」「いじめ」「通り魔」「無差別殺人」「事故死」「病死」「報われない気持ち」「羞恥心」どの気持ちにも、どれも共存するには負けてしまいそうな思いだ。彼等と共にいっそ死んだ方が、成仏した方が、楽なのではないだろうか?そんな気持ちすら湧き上がる。仁は頭を掻きむしり「うう」と小さく呻きをあげ膝をつく。
そんな仁に影人間達は
「どうだ。イッショニなろう。楽にナルヨ」
そう囁く。
いじめは酷いものだった。授業中に消しゴムや小さく丸めた紙が飛んでくる。後ろの席の者がカッターの尖った先をチクりと毎時間背中や腕を刺してくる。
「イタ」
と耐え切れず声に出せば
「うるさい!お前に声を出す権限はない!」
と先生が注意をする。皆は小笑する。
親は親で「これで食事は済ませなさい」とお金を置けば、子が育つ。そんな子育てをしていた。一日中誰とも話をしない。そんな日は稀ではなかった。
ある日
「頼むよ。死んでくれ」
とクラスメイトに笑顔でお願いされた。
「死ねば賭けに勝つ。な、頼む」
そう言って、目の前で手を合わせた。賭け事の商品は売店のメロンパンだった。自分の命はメロンパン。家に置かれるお金はそれよりも多いというのに。情けなすぎて笑いがこみ上げる。この世に自分がいなくても成り立つ。それなら賭け事の役にたって
「ありがとう」
なんて言ってもらおう。そう感じ、その思いのまま学校の屋上から身を投げた。
「世の中、金だよ!それさえあれば皆俺様の言う事を聞くんだよ!」
キャバクラで豪語していた。実際皆、彼に従っていた。
「この世は金だ!そして俺には金がある」
しかし、金には裏切りがついている。お金はそんな事を教えてはくれていなかった。そんな俺に隠れて女房には不倫していたんだ。それも俺の部下と!!!!
「なんだ!おめえ人の女房に手を出しやがって」
「もう。止めましょう。奥さんはちゃんと面倒みますから。ね」
「あなた、今まで有難う。邪魔だからもう死んで」
そう言って階段から突き落とされた。事故死として処理された。
「大好き」
「ああ、俺もさ」
なんていう事は、嘘だった。
「アイツ、うぜーのなんの。勝手に勘違いしてさ、付き合っても無いのに彼氏って言いふらしてさ」
そんな声が耳に入ってきた。嘘だと思った。
でも、本当だった。全て自分の妄想だと知ったのは、彼の本当の彼女が私の親友だった事だという事。毎日、彼女の話を聞いているうちに羨ましくて、それが自分なら。と妄想し思い込み過ぎて現実が分からなくなっていた。
「ねえ、もう本当に止めてくれないかな?信じられない友達もこれ以上続けられないから」
親友も去って行った。当然だ。我に返った後は恥ずかしくて道も歩けなくなった。携帯を見る事も出来なくなった。笑い声が全部自分を笑っている様でテレビも付けなくなった。
人の声が自分を噂をしているようで、それから逃げる様に電車に飛び込んだ。




