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第7話 アンナ

 カッポカッポとヒヅメをならすお馬さんに引かれながら、わたしたちを乗せた馬車は西へ西へと進んでいく。


 御者はジェイク王子だ。

 ポンコツ王子なのに、こういう庶民的なスキルは持ってるのが不思議な感じ。


 そして馬車の中にはわたしと、さっきのエルフの少女が向かい合って座っていた。


「あなたも一緒に来るの? えっと、名前はたしか――アンナだったよね?」


「助けてもらった時にちょっと話しただけだったのに、覚えていてくれたんですね! はい! これからはエルフィーナで働くことになったんです」


「あ、そうなんだ。良かった、でいいんだよね?」


 だってエルフは二等市民だ、みたいな差別意識のある人間の国にいるよりも、エルフの国で働いた方が幸せだよね、きっと。


「あの、ミレイユ様。わたしずっと謝らないといけないなって思ってたんです」

「謝りたいこと? なにかあったっけ?」


 だって、わたしとアンナは実質今日が初対面みたいなもんだよね?


「噂では、わたしを助けたせいでミレイユ様が『破邪の聖女』をクビになってしまったって。だから本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って、アンナは折り目正しく頭を下げた。

 ああっ、ほんとよくできた子だなぁ……。


 わたしは一人っ子なんだけど、こんな可愛い妹がいたらなって、ちょっと思っちゃった。


 こんないい子に、「誤解」させたままじゃいけないよね。


「あはは、ほんとの原因はそこじゃないから気にしないで。実を言うと、それはただの口実にすぎないの」


「え、そうなんですか?」


 アンナがキョトンとした顔で小首をかしげる。

 いちいち小動物みたいで可愛いなぁ、もうっ。


「そうなのよ。アンドレアスって言うわたしの婚約者を、どこぞの第二王女が好きになっちゃって、なんと、わたしの知らないところでこっそり寝取ってたの」


「ミレイユ様の婚約者を寝取ったんですか!? 王女さまなのに、そんなことするなんてひどいです!」


 アンナが、まるで自分のことであるかのように憤慨してくれる。

 久しぶりに人から優しくしてもらったけど、誰かに優しくされるってこんなに嬉しいことだったんだね……。


「まぁそれでね。2人が結託して、邪魔になったわたしを適当な理由を付けて追放したってわけ。だからアンナが気に病む必要なんてないの。安心してね。はぁ……」


 自分で自分の状況を説明しておいて、最後に思わずため息が出ちゃったわたしだった。


 アンドレアスとはあまり上手くいってなかったとはいえ、婚約者を寝取られたあげく王都を追放されたわたしって、めっちゃみじめだよね……。


 そこへ、


「ちなみになんだけど。ミレイユが『破邪の聖女』を解任されて王都を追放されるって情報は、アンナが知らせてくれたんだぞ。それでオレが、急いでエルフィーナから駆けつけたってわけだ」


 手綱を握る王子さまが、御者台から馬車の中をのぞき込みながら、声をかけてきた。


「あら、そうだったのアンナ?」


「はい。自治組合の仕事で王宮に書類を提出しに行ったときに、貴族の方が話しているのを偶然耳にしまして。これはと思って、自治組合の伝書鳩で伝えてもらうようにお願いしたんです。今、エルフィーナ王国は流行り病で大変なことになっているって聞いてましたから」


「アンナは頭がいいのね」


「そんな、わたしなんてまだまだ未熟者ですから」

 恥ずかしそうに、はにかみながら謙遜するアンナ。


「謙遜しなくてもいいわよ。アンナの機転のおかげで、わたしたちはこうやって縁を巡りあわすことができたんだから」


 王都を追放されて路頭に迷っていたわたしは、これからの衣食住を手に入れて。

 そして流行り病に苦しむエルフィーナ王国は、『破邪の聖女』を手に入れる。


 アンナの機転が、遠く離れて本来結びつくはずがなかった需要と供給を、見事に結びつけたのだ。


「そうだぞ、まだ10代なのにアンナは自治組合の事務官として、それはそれは重宝されてたんだから。もっと自信を持っていいぞ」


「なんでジェイクが微妙に自慢げなのよ。あんたはもうちょっとしっかりなさいよね、王子なんでしょ一応」


「あ、はい……」

 ジェイクがしょんぼりしながら、すごすごと前に向き直った。


 しばらくアンナと、自己紹介とか生い立ちとか最近食べた美味しいご飯とか、そういう他愛のない話をしていると、次第に外の景色が見渡す限りの広大な森に変わっていく。


 そして今や、巨大な森はわたしの視界を覆いつくすほどになっていた。


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