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第52話 ~アンドレアス&ヴェロニカSIDE~ 3(4)

 セラフィム王国の玉座の間で、


「聖女ミレイユを追放したのは、他でもないアンドレアス殿です。経緯が経緯ですし彼に近い者では聖女ミレイユも思うところがあるでしょう。アンドレアス殿はヴァルス禍にかかりっきりということもありますので、代わりに自分がエルフィーナ王国に参りましょう」


 デルマイユ侯爵が、玉座に座るセラフィム王に進言した。


「おお、そなた自ら行ってくれると言うのかデルマイユ。やはりそなたは頼りになるな。そなたの力で、どうにか聖女ミレイユを説得して連れ帰って欲しい」


「もちろんでございます。ですがそのためには、我が国も過去の過ちを正さねばなりませぬ。聖女ミレイユも簡単には『はい、わかりました』とはならぬでしょうから」


「アンドレアスと、我が娘ヴェロニカのことか……」


 セラフィム王はそう言うと、目を閉じてしばし黙考した。

 

「無礼を承知で申し上げます」


「構わぬ、申せ」


「では2点申し上げます。まず、アンドレアス伯爵の元ではこの国はもう持ちませぬ。先ほどご覧になった会議の議事録から、その無策ぶりは火を見るよりも明らかかと」


「……うむ」

 セラフィム王は、その言葉を噛みしめるようにうなずいた。


「2つ目に、聖女ミレイユが帰還するための条件次第では、王にも相応のご覚悟をいただきたく思う所存です」


「覚悟、か……。そうだな、元はと言えば、余がヴェロニカをことさらに甘やかしすぎたことが全ての元凶よ。国とそこに生きる多くの民のためには、もはやその振る舞い、余も見てみぬふりはできぬであろうな」


「我が子を想う心中、お察しいたします。ですが王にはヴェロニカ様だけでなく、聡明な第一王女様もおられるではありませんか」


 デルマイユ侯爵は、今の発言は少々踏み込み過ぎたかと思った。


 だが第一王女が聡明かつ理知的で優れた人物であることは、誰もが認める紛れもない事実なのだ。


 セラフィム王国の未来を考えれば、ここでヴェロニカ第二王女の権力も地位も何もかもを、徹底的に廃しておく必要があった。


 あのどうしようもない愚物が万が一にでも女王になれば、セラフィム王国は亡びるかもしれない。


 そしてそれはセラフィム王自身も、内心では気づいているはずだ。


 セラフィム王はしばらく考え込んだ後、言った。


「……分かった。デルマイユにエルフィーナ王国との交渉および締結の全権を一任する。何をいくら譲歩してもかまわぬ。余の名代として、一刻も早く聖女ミレイユを連れ帰ってくるのだ」


「かしこまりてございます」


「ヴェロニカとアンドレアスについては余が手を回しておく故、交渉の材料としていかようにも使うがよい」


「はっ。王のご英断に感謝いたしまする」



 ◆


 翌日。


「なっ! デルマイユ侯爵がエルフィーナへの使者になっただと!? しかもセラフィム王より全権を与えられた特命大使になって、既にエルフィーナ王国へ出立しただと!? そんな馬鹿なことが──」


 配下の貴族から伝えられた報告に、執務室にいたアンドレアスは驚き過ぎて正気を失いそうになっていた。


「セラフィム王はボクの草案に見向きもせずに、デルマイユ侯爵の案を取り入れたというのか――」


 それはつまるところ、アンドレアスがセラフィム王に見限られたということに他ならなかった。


 アンドレアスを取り巻く状況は、既に最悪の中の最悪に陥っていた。


 しかしアンドレアスが途方に暮れる間もなく、執務室のドアが乱雑に開けられると近衛兵がわらわらと入室してきたのだ。


「ノックもせずにいったい何事だ! ここを誰の部屋だと思っている!」


「アンドレアス伯爵ですな? 王命により、これより貴殿を国家反逆罪で拘束いたします」


「ボクが国家反逆罪だと……? くっ、これは何かの間違いだ!」


「間違いではありません」


「くっ、そうだヴェロニカに、ヴェロニカ王女にあわせてくれ!」


「残念ながらそれはできかねます」


「なんだと貴様!」


「なぜならヴェロニカ王女も既に、拘束されているからです」


「なっ、そんなまさか……ヴェロニカが拘束だと……?」


「貴殿が抵抗されなければ、こちらも貴族としての敬意をもって扱いましょう。しかし抵抗したその瞬間から、貴殿はすべての権利を失った逆賊の徒となります」


「て、抵抗は……しない……」


 まさに天国から地獄へ――。


 中流以下の貴族が務める近衛兵を相手に、失意と屈辱にまみれながら小さな声で絞り出すように言ったアンドレアスに、しかし更なる不幸が襲いかかる。


「けほっ、こほっ! ごほっ、げほ――っ!」


 急激に不快感が身体を襲ってきたかと思うと、激しいせきが止まらなくなったのだ――!


 ここ1週間ほど調子が悪く、それでもなんとか事態を打開しようと睡眠時間を削りに削って、ヴァルス対策にあたっていたのだが――。


「アンドレアス様? どうされたのですか? アンドレアス様? アンドレアス様!」


 配下の貴族の必死の呼びかけにも、しかしアンドレアスは言葉を返すことはできないでいた。


 もうこの時点ですでに、意識がなかったからだ。


 ヴァルスの急激な重症化だった。


 そのわずか半日後。


 アンドレアスは意識が戻らぬまま、逆賊の汚名を背負って惨めに亡くなった。


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