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第48話 悪鬼羅刹

 エルフィーナ王国の入国管理局は、セラフィム王国からの移住を求めるエルフたちでごった返していた。


「すごい人数ね……全部で200人以上いるんじゃないかしら」


「大規模なキャラバンを作って、集団でやって来たって話なんだよ」


「確かにこれだけ大規模だと、人員を増やさないと手が回らないかも……でもなんでなのかしらね?」


 いくらセラフィム王国でエルフが二等市民扱いされているとはいえ、それまでの生活基盤を完全に捨ててエルフィーナ王国に移住するというのは、かなり勇気のいる決断をしないといけないはずだ。


「その件に関しまして、現在までのところ分かっている状況を報告させていただきたく思います」


 そう言って、入国管理局の職員さんが説明を始めたんだけど、その内容にわたしは――だけでなく、ジェイクもアンナも随行スタッフも、みなが驚きを禁じ得なかった。


 というのもその内容が、


「セラフィム王国で、流行り病が発生しているだと!?」

 ――ということだったからだ。


「しかも症状を見る限り、ヴァルスだなんて……」


「エルフィーナ王国での流行とそう時期がズレてないからな。ヴァルスで間違いないだろう」

 ジェイクが神妙な面持ちで言った。


 確かにエルフィーナ王国とセラフィム王国は隣りの国だ。


 『迷いの森』があるせいで行き来は多くないとはいえ、ヴァルスの感染力の高さを考えればありえない話じゃない――。


 もちろん、セラフィム王国の『破邪の結界』が正常に機能してさえいれば、問題ないはずだけど――、


「ヴァルスにしろなんにしろ、流行り病がおこってるとなると、わたしを追放した後ヴェロニカ王女は何もしなかったんだわ……」


「ヴェロニカ王女っていうと、たしか第二王女でミレイユを追い出した後に自分が『破邪の聖女』になったんだっけ?」


「ええ。思い返すのも腹立たしいわね……あのアマ……」


「ミレイユ様ミレイユ様、地獄の悪鬼羅刹(あっきらせつ)裸足(はだし)で逃げ出しそうな、おっかない顔になってますよ」


 アンナが小声でそっと耳打ちしてくれた。


 おっと、いけない。


 わたしが王都を放り出される瞬間をわざわざ見学に来ていたヴェロニカ王女の、勝ち誇ったムカつく見下し顔を久しぶりに思い出しちゃって、怒りがカム着火インフェルノでたぎっちゃってたわ……!


「こ、こほん。おそらくだけど、セラフィム王国の『破邪の結界』は止まっているか、ほぼ機能していないに違いないわね」


 そもそも『破邪の聖女』としての能力を持たないヴェロニカ王女は、結界にアクセスすることすらできないのだから。


 わたしの言葉に、


「そんな……」


 アンナが絶句した。


「まったくだから言ったじゃないの、あのバカ王女……」


 ここ何十年も流行り病が起こらなかったのは歴代の『破邪の聖女』が結界の維持に腐心してきたからだって。


 しかも問題はもう1つあって。


「国からの医療費補助が無くなったことで、初期症状での受診率が下がってしまい、その間に一気に王都中に蔓延(まんえん)したのか――」


「セラフィム王国は財政再建中だったわ。だからって、よりにもよって一番削っちゃいけないところを削ったのね」


 王侯貴族の散財という本来削らなければならない出費を削らずに、言うことを聞かせやすい庶民への補助から削ったのだ。


 『破邪の聖女』であるわたしがいなくなって『破邪の結界』が機能を失っていたところに、強引な財政再建による医療費補助のカットが行われた。


 そこにヴァルスが入り込んだんだ――!


「話は分かった。すぐに実務スタッフを大幅増員するとともに、入管に医者を数名常駐させるように手配しよう。おそらくこれからも移住希望者は増えるだろうし、その中には症状の重い者もいるはずだから」


「まぁエルフィーナ王国に入りさえすれば、『破邪の結界ver.エルフィーナ』があるから快方にはむかうでしょうけどね」


「ああ、おかげで症状が和らぐまでのタイムラグさえどうにかすればいいんだから、本当にミレイユ様様(さまさま)だよ。改めて、ありがとうなミレイユ」


「どういたしまして」



 こうして視察はつつがなく終了した。

 だから不安があるとすれば、ただ1つ。


「セラフィム王国は今、いったいどうなってるんだろう――」


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