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第23話 急転

 『破邪の結界ver.エルフィーナ』の放つ青き清浄なる光の輝きが、次第に収まり薄くなっていく。


 そして青い光はいつしか完全に消えてなくなった。


 もちろん失敗したわけじゃあない。

 『破邪の結界』が、術式起動フェイズから安定稼働フェイズへと移行したからだ。


「よしよし、いい子ね。バッチリ安定してるわ。これであと数日もすればヴァルスはほぼ収束すると思うわよ」


 一部の手の施しようのない末期重症者をのぞけば、ここからはひたすら回復に向かっていくはずだ。


 あとはもうしばらくの間、最後の我慢の時を過ごせばいいだけだ。


「ミレイユ様。今日はもの凄いものを見せていただき、ありがとうございました」


「ふふふん、結界の立ち上げなんてまずお目にかかれないんだからね? 一生に一度の機会と思って、しっかりと心に刻んでおきなさいな」


「はい、一生の思い出にします!」


 なーんて偉そうに言ってるわたしだけど、結界の起動に立ち会ったのは実はわたしもこれが初めてだったりする。


 だってセラフィム王国には、大昔にできた『破邪の結界』が既にあって。


 だからわたしのお役目と言えば、あらたに結界を作ることじゃなくて、経年劣化で次から次へと出てくる結界のほころびや調子の悪いところを、ひたすら修正したり調整することだったから。


 もちろん知識として、結界の製作方法や起動のさせ方を文献で読んだりしたことはあったんだけど。


 でもでも、いやーほんと綺麗だったわね。

 苦労した甲斐があって、いいもの見れたわ。


 つまりなんていうかその、アンナにいい格好したかったのよ!


 わたしに憧れの目を向けてくれているアンナに、「ふふん、どうよ?」ってドヤ顔したかったの!


 それくらいは、いいでしょ別に!?


「ああ、あとジェイクにも自慢してあげないとね。せっかくの一生に一度の機会だったのに、見れなくて残念だったわねって。さぞ悔しがるでしょうよ」


「ほどほどにしてあげてくださいね? ミレイユ様は、ジェイク様が好きだからって、ジェイク様にだけは気を許して何でもかんでも言っちゃってますし」


「は? わたしがジェイクを好き? なに言ってるのよアンナ? あはは、ないない」


「あ、ご自分では気付いてらっしゃらないんですね……心を許して甘えてる感じがバレバレですよ?」


「え、何か言った?」

「いいえ、なんでもありません?」


「そう?」

「はい!」


 そんな感じで、しばらくアンナと2人で結界発動の余韻に浸っていると、


「……? なにかしら、さっきからえらく外が慌ただしいわね? もう日が変わる時間だって言うのに」


 人が行き交う足音や焦ったような声が、ここ水晶室まで聞こえてきたのだ。


「なにかあったんでしょうか? 私ちょっと見てきますね」


 アンナが言って、


「それならわたしも一緒に行くわ。もう『破邪の結界ver.エルフィーナ』は完成したしね」


 わたしがアンナと一緒に、水晶室の外に出ようとした時だった――。


 コンコンコン!


 ()いた気持ちを隠しきれないようにドアが素早くノックされて、わたしが返事をすると近衛兵が一人、駆け込むように入ってきたんだ。


「ミレイユ様! ジェイク王子が、ジェイク王子が意識不明の重体にございます!」


「な、なんですって!?」

「ジェイク様が!? でもなんで――」


「ヴァルスを発症したと思われます」


「ヴァルスを!? なんでよ!? 結界はさっきもう起動したっていうのに!」


 結界作成の全工程を振りかえってみるけど、うん、ミスはなかったはずだ。


 実際、『破邪の結界ver.エルフィーナ』は非の打ちどころのないほど完ぺきに起動していたわけで。


 なのになんで――?


「あのミレイユ様、もしかしてなんですけど。ジェイク様が図形の謎を解き明かした後に、今日はもう疲れたから休むと言っておられたんです。その時にはもう、ジェイク様は発症しておられたのではないでしょうか――?」


「ぁ――っ!」


 そう言えばあの時、ジェイクは少し体調が悪そうだった。

 小さく(せき)もしていた。


 過労や風邪の症状とそっくりで、ついつい見逃しがちなヴァルスの初期症状だ――!


「ミレイユ様――」

 アンナが真剣な表情でわたしの目を見つめてくる。


「ええ、急いでジェイクのところに行くわよ! 近衛兵さん、ジェイクのところまですぐに案内して!」


「はっ、かしこまりました。どうぞこちらへ!」


 にわかには信じられない報告を受けたわたしは、アンナを連れて急ぎジェイクの元へと向かった――!


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