この恋は一筋縄ではいかない
「あのね……、明河。私、明河のことが好き。私と、付き合ってください……!」
「…は?嘘だよな……?あの日和が俺のことなんて好きになる訳ないよな……」
「嘘じゃないよ!本当に私は明河が好きだよ!」
「……ふざけんなよ……」
「…え?」
「結局日和も…俺の顔だけ見て告白してくる他の女と同じなのかよ!日和だけは俺のことをちゃんと親友として……恋愛対象じゃなくて、ありのままのを俺を見てくれてると思ってたのに…!」
「え!?ちょっと待って!そんなことないよ、私は明河が好きなの!性格も声も可愛いとこもかっこいいとこも……」
「もういい。もうやめてくれ!日和のことだけは信じてたんだよ…!」
「明河……」
「もう俺に近づかないでくれ」
「………………」
……気がつけば、私はいつも、三年前の出来事を思い出してしまう。
中学二年生の時、私は、幼稚園の頃から仲が良かった幼馴染みの織原明河に、物心ついた時から感じていた恋心を打ち明けてしまった。
私は明河のことをかっこいいとは思っていたけれど、それ以上に、不器用だけど優しいところや、誰にでも感謝と謝罪ができる謙虚な人柄が好きだった。それは今でも同じ。だけれど明河は学校一、いや、たぶん県内一の所謂イケメンだった。小学校高学年の頃から、都会に行けば芸能事務所にスカウトされ、街を歩けば女の子に騒がれ、年齢を問わずたくさんの女の子に告白されるのが通常運転な日々を送っていた。
私はたくさんの女の子に告白される明河を見て、いつか明河が私以外の人の彼女になってしまうのではないかと心配になって。焦りから明河に告白したら、私のことを親友だと思ってくれていた明河を裏切ってしまった。私は、女の子は自分の外見しか見ていないと悲しんでいた明河を傷つけてしまった。
これからもずっと続いていくと思っていた友情を壊してしまった。
それから明河は芸能事務所からのスカウトで事務所に入り、今も国宝級イケメン俳優、明河涼として広告からから映画まで、幅広く大活躍している。それこそ、元幼馴染みの一般人の私とは比べ物にならないほどに。
だけど私は、テレビに映る明河がずっと前から、よく眉毛を圧迫していることを知っている。そして、眉毛を圧迫するのは、明河が何かを深く後悔しているときにする癖であることも知っている。
告白したことは今でも後悔してもしたりない。でも、後悔だけするなんて私じゃない。
「七番、北宮日和さん。奥の部屋へどうぞ」
「……七番、北宮日和です。よろしくお願いします」
ここは、新人女優発掘オーディション最終選考会場。
私は、明河に会うために、今度こそ明河に誤解無しで私の本当の気持ちを知ってもらうために、この場所に来るために、死ぬほど努力をしてきた。そこまでしても、私は明河に会いたかった。
できることは全部した。だから。……どうか、合格できますように。明河に会えますように。
オーディションから数日。私の家に一通の手紙が届いたとき、私は心配と期待の圧力で死ぬかと思った。
恐る恐る中の紙を見る。
「………………!!!」
信じられない。
あれほど夢見て、妄想して、期待していたこの瞬間を、私は手に入れた。
手紙の内容は、準グランプリに選ばれた、と言う文章だった。
ただただ、嬉しい。それ以外の言葉は脳内になかった。
このオーディションは、大手事務所主催の国内最大の新人発掘オーディションで、十代の無所属の女性なら誰でも応募できる。グランプリ一名、準グランプリ二名は事務所に所属することができる上に、合格特典として人気若手芸能人と受賞記念ドラマに出演できる。もちろん賞金も魅力的だが、女子の憧れは記念ドラマである。なんと人気若手芸能人や有名監督に直々に演技を指導してもらえるなんて、そうそう出来ることじゃない。ネット配信されるそのドラマは毎年再生数一億回を超え、受賞するだけで世界的に有名になれる。
「どれどれ……ドラマは……んんんっ!?」
ゲスト出演者の中にあった名前を見て、流石に自分の目を疑った。
「えっえっええええええ!?」
自分の叫び声の大きさに気づかないほど、私は動転していた。
紙には、明河涼と書いてある。そう、明河涼。織原明河。
私は、授賞式と受賞パーティーとドラマ撮影で、早速明河に会うことになった。