第6話 初戦闘
戦闘です
とりあえず、街に向かいながら考えようと俺はダンジョンの道に従い、森から出ようとしていた。意外と道は固まっていて歩きやすい。
「ダンジョンってこんな感じなのかな?」
そう考えていると、風にのって血の匂いが漂ってきた。
「ッ!?」
近い。それによく耳を澄ますと、金属を打ち合っているような音が聞こえてきた。俺はそこへ向け駆け始めた。段々と音が強くなっていき、____見えた。
そこには、まるで熊の突然変異のような化物が居た。___あれが、魔物。
本能的に恐怖を感じ、一瞬足が止まる。…が、それに対峙するパーティーを見て俺はまた駆け出した。
パーティーのメンバーは全員女性。四人のうち三人はところどころに傷があり、立っていられるのが不思議だった。後ろにいる魔法使いのような女性が杖を掲げながら何かを唱えている。そのたびに前にいる三人の傷が癒えていることから、回復魔法であることが伺える。が、魔法使いも疲労が溜まっていたのかフラフラと体が揺れている。あれじゃあ、ジリ貧だ。
俺は、駆けながら魔力でできた鍵盤を展開し、大声で叫ぶ。
「そこのパーティー!!!!!」
魔物も驚いたのか、その場に居た全員の動きが止まる。そのうちの魔法使いに向けて、自分のステータス画面をいじり、メッセージを送る。
「俺をパーティーのメンバーに入れろー!!!」
一番早く状況を理解したのはあの魔法使いだった。すぐに承認し、俺に視線を飛ばす。俺は鍵盤に手を伸ばし____歌い奏で始める。
その瞬間固まっていた者たちが全員動き始めた。だが、さっきまでとは違った。冒険者の動きが速くなっていた。それだけでなく、魔物に対するダメージも心無しか上がっている気がする。魔法使いの回復速度もさっきとは比べ物にならないくらい速い。
___『旅人の知恵』パーティーメンバーの全ステータスを上昇させる。効果時間は歌い終えるまでの、4分30秒。デメリットは歌い終えてからはパーティーメンバー全員のMPがゼロになる。かなりの、博打技だ。
「状況を教えてくれ!!」
俺は歌うのを中断し、魔法使いの少女に言葉を放つ。
「!!だいたい見てのとおりよ。私達は5人あの魔物は私達よりも格上。逃げられないから、悪あがきとして戦っていた。うち一人は助けを求めるために街へ行った。で、ボロボロになって、あんたが来た」
「わかった。まず謝る。この曲は全ステータスを上げるが、代価として残りのMPを全て持っていく。逃げるか、戦うかを今すぐ決めてくれ」
「!?……わかった。撤退する!」
「了解!あいつに魔法をかけたい。全員を撤退させてくれ!」
「わかったわ!」
そう言うと、魔法使いは他のメンバーに全力で逃げることと、マナポーションを飲むように話をする。その間に俺は歌いながら次の曲を選択する。
「準備完了!曲を変える!3,2,1…今だ!」
その瞬間俺はマナポーションを飲み、曲を歌い始める。それと同時に冒険者たちは身を翻し逃走する。
音楽があたりに拡散し、魔物の巨体が前のめりに崩れ落ちる。
___『旅人の子守唄』対象をしばらくの間眠らせる技だ。だが、ちょっとした衝撃で起きてしまうため、戦闘には向かない。
魔物が眠ったことを確認した瞬間俺も身を翻し彼女たちを追いかけた。
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「ここまで逃げれば大丈夫じゃない?」
「ええ。そうね。んで?あんたは誰なの?」
俺らはそれから20分以上走り続け、今はダンジョンから抜け、ちょっとした平原になっているところで休みをとっている。
「あー。えっと、……ま、いっか。俺の名前はトウヤ。見てのとおり旅人だ。彼方此方旅をして回っていてな、路銀を稼ぐためにあそこに入っていたんだ」
「冒険者登録は?」
とりあえず適当に嘘を吐く。が、冒険者登録?そんなものがあるのか?と俺が思わず思案顔になってしまうと、魔法使いは疑うような表情をして俺の方を見てきた。
「冒険者を知らない?あの見たことのない魔法といい君は一体何者なの?」
「全て教える義理はないだろ?それより、俺だけ名乗ってあんたらが名乗らないのは失礼じゃないのか?」
「……そうだな。とりあえず私から名乗ろうかしら。私の名前はサーシャ。職業は”魔術師”よ。一応このDランクパーティー『森の狩人』のリーダーを勤めているわ」
そう、魔法使い___サーシャは自己紹介をする。
「僕の名前はコリン。職業は”盗賊”だよ」
「…私はアンリ。職業は”騎士”よ」
「私はリリー。職業は”魔法剣士”。よろしくねトウヤ!」
そう言うと、四人は一斉に俺の方を見て、
「「「「あなたの職業はなに?」」」」
と、声を揃えて聞いてきた。と言っても職業なんて持ってないんだけどな。
「何も。俺は職業は持っていないぞ?」
「ええええ!?それなのに、あんな不思議な魔法を使えるの?」
「俺は、あの魔法以外知らないけどな。だからもし、お前の魔法を教えてくれるのであれば、俺のも教えるが?取得できるかわからないけどな」
「え?ほんと?」
「サーシャ落ち着け。まだそいつは、味方と決まった訳じゃないんだぞ」
乗り気であったサーシャであったが、後ろからアンリに叩かれストップする。警戒するのはいいことだが____
「助けに入った俺に言うセリフか?」
少し呆れのこもった声で俺はアンリを見る。味方になるための行動だっただろうと目で伝える。その様子の俺に、アンリは少しひるんだようだった。
「血の匂いと金属を打ち合っているような音が聞こえてして慌ててきたんだ。それに、あんたたちを殺しても、俺にメリットなんて何一つない。ただ、あんたたちを見殺しにしたくなくて戦闘に参加したんだ」
良かれと思ってやったのに、評価されないことって多々ありますよね。