002 宇宙も飛べるはず
前回のあらすじ
幼馴染四人がカラオケボックスで生まれ変わるとかなんとか言ってたら全員気絶したっていう
目が覚めた。なんでか知らんが寝ていたみたいだ。
どうも頭がスッキリしないし、妙な違和感がある。
なんだか気持ち悪いので、現在の状況確認をしよう。セルフで。
Q:オレは誰だ?
A:都築巌眞、27歳独身。
Q:ここはどこだ? なぜここにいる?
A:地元のカラオケボックス。同級生の結婚式が済んで、ダチ4人組で残念会をしていた。
Q:それは誰だ?
A:オレ、半田茂虎、柳葉瀬呂、笠崎斬佐の4人。
Q:じゃあ、5人目のこいつは誰だ?
A:・・・・・・店員さんかな?
そいつはスリーピースのスーツを着込み、ニコニコといい笑顔で話しかけてきた。
「お目覚めのようだね。」
「あ、ども。店員さんですか? ひょっとして時間過ぎてました?
あぁスイマセン、なんか俺たち全員寝ちまってたみたいで。すぐ起こしますから。」
そそくさと3人を起こして回る。やー、これ怒られるかな? 延長料金かかる?
「いや、そういう訳ではないんだけれど。あ、でも起こしてくれるならこちらも助かります。」
なんだろう?
何の用事かはわからないが、とりあえず怒られるわけではなさそうだ。
ツレ3人を起こして、店員さんに話を振る。
「それで、一体なんの用なんです?」
「わざわざありがとうございます。
私はアクロス。あなたたちが住む地球とは異なる世界、ロコ=トルアの転移管理官を拝命しております。このたびはあなたたちを迎えに来ました。」
「・・・は?」
あまりの発言に固まる俺たち。
こいつはいきなり何を言い出すんだ?
服装も身のこなしも真面目そうに見えるのに、中二病全開とか残念な感じ?
こういう扱いに困る相手は、たいてい茂虎が対応してくれる。
俺たち4人の中では真面目なリーダー担当。頼れる男だぜ。
「店員さん。済まないが、いったい何のことやらサッパリだ。
この店では時間いっぱいのことをそう表現するのかな?」
茂虎が冷静に言葉を重ねる。
普通に考えればそうだろうし、それ以外は無いと思う。なのになぜか鼓動が高まる。
もしこれで、『違う』なんてことがあったら・・・
「いいえ、違いますよ。」
違うなんてことがあったら、それじゃまるで・・・
「端的に申しまして、あなたたちには異世界に転移していただきます。」
まるで憧れの異世界転生じゃないかっ!!!
内心ガッツポーズをするオレ。
だが、ツレの茂虎、瀬呂、斬佐の3人はアクロスさんの発言が信じられずに、あーでもないこーでもないと言いあっていた。
どこにも着地点の見えない議論に、アクロスさんも業を煮やしたのだろう。
両手で場を制しながら割り込んでくる。
「皆さま、よろしいでしょうか?
にわかに信じられないのも無理はありません。ですので、この部屋の外をご覧ください。
・・・見えますか?
ここは転移の説明用に私が準備した空間。
先ほどまで皆さんがいらした場所を再現したものです。
とはいえ、内部構造の複雑な部分までは再現しておりませんが。」
なるほど。言われて違和感のひとつに気が付いた。
ここ、静かすぎるんだ。
ここがカラオケボックスなら、普通は部屋のカラオケ機から音が出るし、そうでなくても隣や廊下からも音楽が流れてくる。エアコンや換気扇の動作音もあるだろう。
それが、あるはずの雑音が一切ない。
まるで世界から俺たちだけが切り離されたように静かなのだ。
というか、アクロスの説明によると正にそういうことになってるわけだが。
違和感の正体がわかってスッキリした頭で、一部がガラス張りになったドアから外を覗く。
そこは廊下なんてなくスッキリしており、床も天井も、空も大地も何もない。遥か彼方に小さく光る星々。
うん。これはアレだ。
端的に言って、ドアの外は宇宙でした。
これではツレ3人も受け入れざるを得ないだろう。
・・・うん、受け入れたな。
アレは『もうどうでもいい』って諦め顔に似ているけど違うはず。
長年つるんだ俺だからわかる。
皆、覚悟はできたようだな。