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001 もうLOVEなんてしない

まっとうな物語はこれが初です。お手柔らかに。

 時代が変わろうとしている、なんて言ったら大げさかな?


 もうすぐ平成が終わって、令和が始まるだろ?

 元号が変わるだなんて、オレたち生まれて初めての出来事じゃん? 親とか職場の先輩が言ってたけどさ、昭和から平成に改元した時は、日本中が自粛ムードでどんよりしてて、とても時代の変化を楽しむなんて空気じゃなかったんだって。あん? 知ってるって? そりゃ済まないね。

 そういやあれは何年生の頃だっけ? やれ世紀末だー、ノストラダムスだーなんて騒いでたじゃん? 1999年の7の月がどうとか、2000年はミレニアムで2001年が21世紀だとかで、あのときは一気に変わるって風でもなかったよな。

 それが今回は1日でどーんと新しい時代に突入するわけだ。なんだか不思議だよな。


 ぐい、とココアを飲み干す。こいつは歌いすぎで荒れた喉に沁みるね。

 今日はみんなそれぞれ車で来ているから、アルコールはなしだ。


 「何だよ巌眞(がんま)。君らしくないな。まるでこの世から太陽が無くなってしまったみたいじゃないか。」


 向かいに座る柳葉(やなは)瀬呂(せろ)が言葉を返す。オレはわかってるから、みたいな生暖かい目で。ちょっとキザったらしい言葉なのに、不思議と瀬呂には似合うんだよな。

 その隣の半田(はんだ)茂虎(しげとら)が真顔で言葉を継ぐ。


 「む、いかんな。それでは巌眞の心は氷河期ではないか。これは早急に暖を取る手段を構築せねばなるまい。うむ。特に寝床を温めてくれる手段をだな・・・。」


 真面目に心配するふりをしてふざけてるのは、この4人の時ならいつものことか。しかしこいつ、昔っから下世話なことをいう時に、必ずメガネが光るの何なんだろうな?

 ジト目を返し、言い返してやろうかと思う矢先、肩をポンポンと叩かれた。俺の横に座る笠崎(かさざき)斬佐(ざんざ)が、グッと握った拳を突き出してくる。


 「・・・ん!」


 「斬佐、そりゃあ『オレたちがついてるから大丈夫だ、心配すんな』ってか? ありがとよ。持つべきものは親友だな。・・・うん。親友だよ。・・・オンナじゃなくてさ!!!」


 慰められたってのに、思わず叫んじまった。無口で真っすぐな斬佐の優しさが、なんだか余計に辛かった。いっそ瀬呂や茂虎みたいに茶化してくれた方が・・・あぁそうか。二人もあれで気を遣ってくれてるんだな。


 「・・・これ。次、巌眞。」


 友情パワーにちょっとジーンとしてたら。斬佐がカラオケのリモコンを差し出してきた。あー、そうだった。オレの番か。


 「ふふふ、順番も忘れて自分の世界に入り込んでたもんねぇ。巌眞、次も失恋ソングにするのかい?」


 「む、瀬呂、そう言ってやるなよ。というか今日は巌眞に限らず、4人とも失恋ソングばかりじゃないか。」


 「ふふふ、同病相憐れむってヤツかな。あの頃のボクらは皆、本口(もとぐち)さんに好意を寄せていたからね。ボクだって祝福半分、寂しさ半分さ。」


 「・・・今は、(ほり)さんだな。」


 3人とも甘酸っぱい顔をしてるな。そして多分オレも。


 本口ナナは小さいころから成績優秀、正義感も強く、毎年学級委員長に任じられるほど人望も厚かった。凛として気高い高嶺の花。それが本口ナナ。

 同学年の男子に『初恋の相手は』なんてインタビューしたら半数以上が彼女の名前を上げるんじゃないかな。下手すりゃ女子の初恋相手1位もありうる。

 いじめや悪戯、不正を許さない彼女がしょっちゅう突っかかっていたのが(ほり)秀人(ひでと)。そう、彼女が今日、結婚式を挙げた相手。


 「・・・なぁ。なんで秀人なんだろうな。」


 思わず口をついた。女々しい。我ながらなんて女々しい言葉だ。

 真面目が高じて婦警にまでなった本口さんとは違い、自由奔放な秀人。普通ならありえない組み合わせだろう。それでもオレたちは本心ではそれを受け入れていた。理屈じゃなく心で納得しちまったから。

 オレのひたすら女々しい質問に、茂虎が答える。


 「巌眞、わかってるだろう? 秀人以外に誰ひとり彼女のあんな表情を引き出したことはないんだから。」


 そう。結婚式の本口さんはとても幸せそうだった。秀人に甘え、彼を頼っていた。オレたちの知る、清く正しく美しい本口さんではなく、ただの可愛らしい女性の顔だった。


 オレが、いやオレたち4人がこうやってカラオケボックスで管を巻いているのは、かつての憧れた人を奪われた哀しみのためではない。どちらかというと、秀人に男としての度量の差を見せつけられたようでヘコんでいるのだ。本口さんにちゃんと恋をしていたわけでもないのに、みんなで失恋ソングを歌って哀れな自分に浸っているんだ。ホント情けないよな。


 でもさ。だからこそ。


 「そうだよな。わからないと、受け止めないといけないよな。オレたち男としてまだまだなんだってさ。だからさ、オレは変わるぜ。新しい時代に、新しいオレに生まれ変わる。」


 すっくと立ちあがり宣言を続ける。


「やってやる。やってやるよ。なぁ、お前らはどうするんだ? このままでいいのか? 生まれ変わるのか?」


 それはなにをどう変えるのか、などと聞いてはいけない。こういうのはノリと勢いが大事なんだ。世の中、ノリと勢いでなんとかなるモンだし、それでダメなら気合いと根性でなんとかなるさ。

 

 「・・・自分も、変わる。」


 気合いと根性に親和性の高い斬佐が続けて立ち上がる。これで4名中2名。すでに多数決での負けは無くなったが、自主性を重んじる俺は残り二人の心に委ねる。そこ、目線が怖いとか言わないように。


 「ふふふ、面白そうだ。ボクも新時代に合わせて生まれ変わるとしよう。」


 そう言って瀬呂も立ち上がる。ここで引かれたらいたたまれない空気になるところだった。茶番に付き合ってもらってる自覚はあるぞ。ありがとな。


 「む、そういうことならばワタシも新時代生まれ変わり同盟に名を連ねようではないか。して、具体的には何をどうするのだ?」


 おい茂虎、賛同はありがたいが、具体的なのは言わない約束だろうが。

 4人で顔を見合わせて噴き出す。


 なぁ、オレたち最高だよな?




 意識が飛んだのは、このあとすぐだった。


名前だけで分かる人には分かりますよね。

ホーリーヒデットさんの奥さんがモトグッチナナとか。

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