序章 深淵の記憶
「神様…っ…お願いします……!何でもするから、どうか……っ!」
子供がボロボロと涙を流しながら誰かに縋り付きながら叫んでいる。
コレは、いったい誰なのだろうか。顔が真っ黒に染まっていて、誰なのか判断することは出来ない。
子供が縋り付いていた誰かが、口を開き何かを呟く。しかし、それを聞き取ることは出来なかった。恐らく、名前を呼ばれたのだろう、子供が顔を上げて誰かを見つめる。誰かはそっと子供の頬に触れて何かを囁いた。
そして、誰かは。
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「うわああああああ!?」
部屋全体に響く声を出しながら、勢い良く飛び起きる。身体は汗で濡れており、目から涙が出て止まらない。
「いったい、何だ…?」
妙にリアルな夢だった。実際に体験したかのようで、気持ちが悪い。
何故こんな夢を見てしまったのか。全く記憶にない出来事の筈だが、夢というものは記憶の集まりと聞く。もしかしたらどこかで見聞きしたのだろうか。しかし、いくら考えても答えは出てこない。
「……考えるの、やめよう。」
きっと気にすることはないだろう。所詮夢は夢だし、考えるのはやめた方がいいと判断し、再び眠りの体勢に入る。外はまだ月が昇っているし、まだ眠れるだろう。
明日は忙しいので、しっかり休まなければいけない。そして、もう一度眠りにつく。
……ここでもし、もう少しこの記憶について考えていたら。きっとこれからの物語はかわっていたのだろうか。
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同時刻。
同じ夢を見るものが二人いた。
その内の一人は―――、
「……―――。」
ポツリ、と何かを呟く。ボロボロと涙が零れ落ちるのは同じであるが、先程の人とは違い、驚くことはなく、ただただ涙を流しているだけ。涙が止まるまで何をするでもなく、ただ、物思いにふけていた。
「あと、すこしだ。もうすこしで―――。」
ぎゅっと手を強く握り、月を見上げる。まるで待ち人がそこに居るかのように呟いた。
そして、もう一人は―――、
ボロボロと涙を流しながら、やりきれない思いを抱き、怒りをあらわにした。
溜まりに溜まったその苛立ちを、近くにあった机にぶつけ、壊してしまう。他のものにも当たるのではないかと思ったが、怒りは先程の一回で発散されたのか、まるで感情が抜け落ちたかのように無表情だった。
「……舞台は整った。もう、止められない。」
ぎゅっと胸をつかみ、月を見上げ呟く。夢を見た事で、より一層決意を固めたようだ。そう、全ては自分のために。
「……―――。」
誰かを呼ぶ。呼んだのは一体誰なのか。
物語を紡ぐための歯車は揃った。そして、廻りはじめたのだ。平和を壊す物語の歯車が―――。
初めまして。
まだまださわりの部分の部分なので何もわからないと思います。
次回から本編に入ろうと思いますので、興味を持たれたら続きを読んでいただけたらなと思います。
一週間に一度の投稿ペースになると思います。
よろしくお願いします。




