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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

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「一年生の皆さんは、こちらに列になってお待ちください。一年生の魔法発現の儀式を担当する二年生、三年生の皆さんは各自持ち場にお願いいたします」


 大きなステージのある大講堂の中に入れば、ホウゴロウがマイクを使って、生徒達を誘導する。

 生徒会の一員として、きちんと仕事をするホウゴロウを遠目に見るカナリアに、彼は気付き、小さく手を振った。

 それに振り返せば、絡んでいる腕に力が入る。


「……これくらいは許しなさい。無視をしたら泣かれますの。あの子は、泣き虫なんですのよ」

「何も言ってません」

「態度が言ってますのよ。ほら、貴方もさっさと列に並びに行きなさい」


 クロウの腕を振り解き、カナリアがシッシッと手で払えば、今度はロビンがクロウの腕に絡みついた。

 なにそれ羨ましいと、カナリアの視線はロビンの腕に釘付けになるが、表情に出さず、二人の仲睦まじげな姿を視界に入れる。


「クロウ、ほら行こう?」

「うん……、あれ、なんかロビン顔赤い?」

「えっ?! そ、そんなことないよ?!」


 ほんのり薄紅色の頬で焦るロビンに、クロウがハッとしてクレインに視線を移す。

 カナリアの隣に立つ彼は、輝く笑顔で二人を――主にロビンを愛しそうに見つめていた。


「早く行こう、ロビン!」

「う、うんっ」


 慌てて走り去る二人を見送り、楽しそうなクレインにカナリアが声を低くした。


「私達がいながら、ロビンさんに何をしましたの? ホウゴロウのように、説教をしなければいけませんわね」

「ふふ、僕の気持ちは既に知っているでしょう? 協力してくださいよ、カナリア嬢」

「恋愛なんてものにかまけている暇が、彼女にあるのかしら。まあ、恋愛に夢中になって、堕落していってもらっても良いですけれどね」

「あー、それは困りますね。両立出来る方法を考えなければ」


 ロビンへの想いが溢れ出しているクレインは、顎に手を添え考える素振りを見せるも、頭の中はロビン一色でまともな考えなど、ひとつも浮かんでないのであろう。

 推しカプの溺愛事情を間近で見れる最高の状況に、カナリアの仲の推しカプガチ勢が狂喜乱舞するが、彼女は鬱陶しそうに舌打ちをした。


「恋だのなんだのくだらない。さっさと、貴方も持ち場に行きなさい」

「ええ、そうですね」


 今にも鼻歌を歌い出しそうなクレインを見送り、二人の邪魔を本格的にしなければいけませんわね、と思考しながらカナリアはステージ下の観覧席に向かった。

 列に並ぶクラスメイト達に視線を向ければ、彼等は今か今かと、期待に満ちたキラキラとした顔で待っている。


 ――私も三歳の頃に、お母様に発現してもらいましたけれど、懐かしいですわね。


 ぼんやりと、幼い頃の自分に重なる彼等を見つめていれば、その列の中から、慌てた顔をしたクロウが飛び出てきた。

 きょろきょろと観覧席で誰かを探すクロウに、まさか、と嫌な予感がして、渋々立ち上がれば、彼女は自分を見付けた瞬間、安心したような顔で走り出す。


「い、異常事態です、カナリア様!」

「何が起きましたの?」

「私の魔法発現を担当する先輩が、風邪を拗らせ、歌えなくなりました」

「ええ? 自己管理意識が低いですわね」

「本当にそうですよね、迷惑極まりないです。って、いや、そうなんですけども、こんなことループの中で初めてです。破廉恥野郎の時といい、何かが色々と変わってきてる気がします」


 不安そうに話すクロウに、カナリアはふむと、顎に手を添える。


 元々、自分が前世の記憶を取り戻し、クロウと友情エンドを目指し始めてから、世界の道筋は変わり始めていた。ゲームとは違う行動を、悪役と親友役がし続けているのだから、当たり前ではあるのだが。

 けれど、大まかな運命は変わりはしなかった。各種イベントも細々と起きてはいた。


 明確に変わり始めたのは、ロビンが路地裏に関与する行動を始めてから。

 そして、レイヴンという名の登場人物が、ロビンに関わってからだ。

 そこから、運命の歯車の動きに異常が生じ始めた。


「私的には、貴方の所にいる護衛が、ロビンさんに接触してから変わってきている気がしますわ」

「えっ、レイヴンのことですか?」

「ええ、……もしかして、彼は何かの重要なキャラクターなのかもしれませんわね。前世の私は、彼を知りませんでしたけれど」

「……まあ、重要、ではあるような、ないような」


 歯切れの悪いクロウに、カナリアが首を傾げれば、ホウゴロウの声が拡声機から放たれる。


「これより、歌魔法発現の儀式を執り行います。最初の生徒から順に、歌魔法を発現していってください」


 カナリアとクロウが顔を見合わせる。

 そして、クロウがカナリアの両腕をガシッと掴んだ。


「そうです、それよりも私の魔法発現の儀式をカナリア様がしてください! 時間がもう無いんです!」

「はい? 何故、私がそんな面倒なことをしなければなりませんの。生徒会の誰かが手伝ってくれますわよ」

「残ってるのが、バカ王子と破廉恥野郎だけなんですっ! あの人達に手伝ってもらうくらいなら、私は死にます!!」

「何を馬鹿なことを言ってますのよ! ……全く、仕方ありませんわね」

「ありがとうございます、カナリア様!」


 心底安心した顔でカナリアの手を握ったクロウは、何番目に発現するのか、カナリアに伝えた後、列へと戻っていった。

 そして、カナリアは溜息を吐きつつも、発現の儀式を執り行う為に、持ち場へと移動する。


「おい、なんでお前がここにいる」

「ここにいる理由なんて一つしかないでしょう。馬鹿は全て伝えないと分かりませんのかしら?」

「はあ?! 帰れブっん、むぐぐ!!」

「ねえ、煩いホーク。今から大事な儀式するから、喧嘩しないで。ちょっと、黙って」


 口を塞がれたホークが、ホウゴロウの手を拳で殴るも、何一つ効いてないホウゴロウは、王子を無視して、幼馴染へと視線を向けた。


「カナリア、発現の手伝いするの? 偉いね」

「急遽、病欠の馬鹿が出て、クロウさんに相手がいなくなりましたから」

「……あの子か」


 気まずそうな顔で呟いたホウゴロウに、カナリアが目を丸くする。

 自分とホーク以外、人に対して興味を持たないホウゴロウが、初めて自分達以外の人間に苦手意識を持った。

 あれだけ説教をされれば、苦手になるだろうと普通は思うが、ホウゴロウは本当に幼馴染達以外に興味が無く、何を言われ、されても、感情を動かすことは全くなかったのだ。


 ――これも、世界の変化の一部かしら。

 ロビンちゃんとの好感度イベントは、彼の感情が動いていく様を見れる胸キュンルートでしたけれど、クロウさんとのコレは、ただただ、この子が可哀想ですわね。


「……ボクが代わろうか」

「いえ、クロウさんに頼まれたのは私ですから」

「そっか……、カナリア、気を付けてね」


 突然の注意に、カナリアが眉を寄せる。

 口を塞がれているホークも、不思議そうな顔をしてホウゴロウを見上げれば、彼は真剣な表情で言葉を続けた。


「あの子、たまに声がふたつになる」

「……はい? 何言ってますの?」

「聞こえる、たまに。話してる最中、違う声」

「ホウゴロウ、お前の取り柄は耳の良さなのに、訳分からん事を言うな」

「本当に聞こえる。ボク、あの子やだ。もう一つの声、すごい悪口言ってくる」


 シュンっとして、ホークの手を握ったホウゴロウに、ホークは眉を寄せ、カナリアは困ったように首を傾げる。

 驚きのホラー体験の告白に、二人は顔を見合わせ、ホークは彼の肩を叩き、カナリアは宥めるように声をかけた。


「ホウゴロウ、クロウさんはそんなに悪い人じゃありませんわ。それに、淑女との距離感を間違えたのは貴方なのだから、それさえ正せば、もう悪口は聞こえなくなるはずですわよ」

「本当に?」

「ええ、きっと。再三、私が注意したのに聞かないから、変なホラー体験をしますのよ」

「ホラー体験じゃないよ。あの子が、変なの」

「こら、貴方も悪いんですのよ」

「ごめんなさい」


 ビシッと、ホウゴロウの頭を軽く手刀で叩けば、頬を膨らませたホウゴロウが謝る。

 そして、彼はカナリアの手を取り、その手を回転させて自分の頭を撫でさせた。


「ホウゴロウ、手を離しなさい」

「まだ、これはベタベタしてないはずだから、……ひっ!」

「ホウゴロウ?」


 ゴロゴロと喉を鳴らしていたホウゴロウが、一瞬でカナリアの手を離す。

 耳を塞いでしゃがみ込む彼に、ホークとカナリアが見下ろせば、彼は涙目で口を開いた。


「また、怒られた……っ、この声、怖い!」

「……この後、街の病院連れて行くか」

「その方が良いみたいですわね」


 何も聞こえない二人と怯える一人。

 その離れた場所で、漆黒の瞳に怒りを纏った人間が、低く舌打ちしたのを、誰も知らない。

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