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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

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「なんか、すごい疲れた」

「当たり前ですわよ、ずっとあのホウゴロウに説教をし続けていたんですから」


 疲れ切った顔をしているクロウに、カナリアが呆れたように言い放つ。

 朝食の時間の全てを使って、ホウゴロウに淑女との距離感や不用意な接触等々、クロウは怒り狂いながら説教をし、終いには、ホウゴロウは椅子の上に正座して聞かされる始末であった。


「ですが、きちんとカナリア様への異常なスキンシップについての認識のズレを調整出来ました。これから彼は、カナリア様にキスもハグも、ありとあらゆるスキンシップをすることを改めるはずです」


 そんな簡単な話だったら、幼い頃から説教し続けていた私が報われませんわね、なんて他人事のようにカナリアは考えながらも、口に出せば、また面倒な事になりそうなので、何も言わずに歩き続ける。

 そんな拳を握って、満足そうに頷くクロウに、ロビンが可笑しそうに笑いながら口を開いた。


「私、クロウのあんなに白熱した姿を初めて見たよ」

「だって、紳士のすることではないじゃない」

「そうだけどぉ〜、んふふ、嫉妬し過ぎるのも気を付けなきゃだよ~」

「なっ! 嫉妬じゃない! しつこいよ、ロビン!」


 ニヤニヤしながらクロウをからかうロビンと、そんなロビンに顔を真っ赤にして怒るクロウ。

 二人を微笑ましく見つめるクレインは、優しく二人に問いかけた。


「さて、これから歌魔法の儀式ですが、お二人とも心の準備は良いですか?」

「はい! どんな魔法が発現するのか、今から楽しみです!!」

「ご心配ありがとうございます、クレイン様。私も楽しみです」


 クレインの問いかけに、にこやかに返した二人を見て、カナリアがつまらなさそうな顔をする。

 少しの悪戯心を芽生えさせたカナリアは、ジト目でロビンを見つめ、口を開いた。


「無事に発現できれば良いですけれどね。歌の技術も歌魔法には必要ですから、約一名、発現しない人が出そうですわ」

「うっ、だ、大丈夫です! 私、皆との放課後のレッスンで、前よりずっと、歌の技術は上がりましたし!……大丈夫、だよね?」

「カナリア様……、不安を煽るようなこと言わないで下さい」

「大丈夫ですよ、ロビンさん。貴女ならきっと、素敵な魔法が発現します。カナリア嬢の意地悪を真に受けないで下さいね」


 騎士二人に慰められるお姫様に、カナリアはふんっと鼻を鳴らし、前を向く。

 呆れたように隣にやってきたクロウは、眉を寄せた。


「発現するレベルには、上達してますよね」

「してますわね」

「意地が悪いです」

「それが私ですもの」


 ツーンと澄ました表情でそっぽを向いたカナリアに、クロウは溜息を吐く。

 けれど、その表情は柔らかく、彼女は眉を下げて微笑んだ。


「色々、問題はありますけど、今はロビンにどんな魔法が発現するのか、楽しみにしましょうね」

「……私は、別にどうでもいいですわよ」

「今までのループだと、いつも違った魔法だったから気になります。今回は何かな」

「……ふとした疑問ですけれど、私と同じ属性の時はありましたの?」

「火属性魔法ですか? ありましたよ。あーでも、その時のループのカナリア様は、それを異常に嫌がって、ロビンへの嫌がらせが激化してましたね」

「でしょうね。あんな音痴と同じ魔法だなんて、私のプライドが許しませんわ」 


 ――今だったら、お揃いの属性魔法になれたと、昼夜問わず火を出し続けて、にやけてしまいそうですわね。


 きっと、彼女は美しい火を見せてくれるに違いない。柔らかい火を纏うロビンは、春の木漏れ日のように優しく、温かに周りを包み込むことだろう。

 そんな亜麻色の天使を思い浮かべ、カナリアはニヤけそうになる口元を覆う。


「四元素魔法って、大体の人間が取得して、そこから派生してあらゆる魔法になるのに、理不尽だなぁって思いました」

「六分の一の確率を引くからですわよ」

「理不尽だなぁ」


 眉を下げて、クスクスと笑うクロウを、カナリアはちらりと横目で見る。

 ふと、彼女はどんな魔法を発現していたのだろうかと、疑問が頭に浮かんだ。


「貴方は何の魔法を発現しましたの?」

「えっ、私ですか?」

「貴方に聞いているのですから、当たり前でしょう」


 目を丸くして驚くクロウに、カナリアは呆れたように息を吐く。

 すると、数秒の沈黙の後、クロウは視線を落として呟いた。


「えっと……、私の魔法は水魔法ですよ」

「あら、平凡」

「それはカナリア様もでしょ! 魔力量が半端なくカナリア様は多いだけで、火属性魔法も平凡です!」


 プンプンと、頬を膨らませて怒るクロウに、カナリアは鼻で笑って、歩を進める。


「私の魔法と相性最悪ですわね」

「まあ、そうですね。相性的には私の方が強いですけど……」

「言い辛そうにしていたのは、そのせいですの?」

「へ?」

「魔法の相性で、私は不機嫌になったりしませんわ。貴方如きの水魔法で、私が負けることなんて有り得ませんし。相性最悪な魔法同士でも、使い方次第で役に立ちますもの。それに、人間的な相性と魔法の相性は、同じとは限りませんから」


 魔法の相性と人間関係を重ねる相性診断的なものは、巷でよく流行っている。

 ある種の迷信的に、魔法の相性が最悪ならば、様々な人間関係も最悪だと、囁かれていた。

 だが、水魔法を火魔法で熱して、ミスト状にする魔法を使い、サウナ経営をしている夫婦や、相反する魔法使い達を集め、様々な機械を作る企業もある。

 眉唾物の話で、そんなものをクロウが信じている訳では無いだろうが、先程の気まずそうな顔が、カナリアは気になってしまった。


 人を気遣い、慰めることなどしてこなかった孤高の少女の言葉は、冷たく聞こえはするものの、そんなことに慣れたクロウには、その優しさが胸をきゅうっと締め付ける。


「初めの頃は、そんな事、絶対言わないのに」

「は? 急に何ですの」

「自分で気付いてない所が、なんか、もう。私の魔法とか、絶対興味持たなかったし」

「ボソボソと、気色悪いですわよ」


 心底嫌そうな顔をして言い放つカナリアに、クロウがじっと、大きな漆黒の瞳に彼女を映す。

 そして、おずおずと、口を開いた。


「…………あの、腕、組んでいいですか」

「なんですのよ、急に。昨日は聞きもせず、無理矢理してきたでしょう」


 眉間に皺を寄せて、今更何を、と言う顔をしたカナリアに、クロウの手がわなわなと震え始める。


 前ならば、即答で嫌ですわよ、と言い放たれていたはずだ。

 けれど、彼女は拒否もせず、したければすればいい、といった態度。

 これには、今までの苦労が報われたようで、クロウは得も言われぬ感情に、心を打ち震わせる。

 するりと、彼女の腕に自分の腕を滑り込ませれば、カナリアは面倒臭そうに溜息を吐きつつも、振り払わず、共に歩き続けてくれた。


「……カナリア様、私以外にこうやって触らせるの、駄目ですからね。あっ、ロビンなら良いけど」

「はあ? 本当は貴方だって嫌ですわよ。ホウゴロウに説教していたけれど、ベタベタしているのは貴方の方でしょう」

「まあ、そうですね。でも、ロビンとは普通にしていることですし。……友達なら、してもいいですから」 


 頬に触れる柔らかな黒髪と、自身の腕を包み込む細い腕。

 これにカナリア自身も、嫌悪感なんて微塵も感じないのだから、もうどうしようもない。


 友人なんていらないのは、変わらないけれど。


 同じ前世の記憶を持ち、自分を受け入れ、知ってくれようとしている存在がいることに、カナリアは無意識に安心してしまっている。


「貴方って、実はすごくしつこいですわよね」

「今さらですか、カナリア様。しつこくなかったから、五回もロビンを好きになってません」

「ああ……確かに」


 げんなり顔で頷いたカナリアに、クロウが笑う。

 そんないちゃつく二人を、後ろから眺めてたクレインとロビンは、視線を合わせ、微笑んだ。


「カナリア様、あと少しで私達と友達になってくれそうですね」

「どうですかねぇ、頑固ですから」

「でも、あんなにクロウに気を許してますよ。あと一押しな気がします! ……それにしても、いいなぁ、羨ましい。私も腕組んでみたいなぁ」

「ふふ、ロビンさんはカナリア嬢のことが、本当に好きですね」

「雲の上にいた憧れの人ですからねっ!」


 キラキラとした瞳で頷くロビンに、クレインがニコニコと笑いながら、口を開いた。


「そうですよね。でも少し、妬けますね」

「えっ?!」

「カナリア嬢の代わりに、僕じゃだめですか? 腕を組むの」

「えっ、いや、あのっ……それは、ちょっと」


 顔を真っ赤にして、視線を逸らしたロビンに、クレインが満足そうに目を細める。

 しどろもどろな彼女に、こちらもあと一押しかな、と、クレインは胸を高鳴らせた。


「おや、まだ早かったですかね。もう少し、時間をかけますか」

「クレイン様、からかってますね!」


 そんな推しカプの戯れを、クロウのせいで見逃しているカナリアは、きっと、これに気付けば、後悔の嵐に包まれるだろう。

 けれど今は、この三人の笑い声が聞こえる居心地の良い時間に、身を任せたくなった。










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