15
食事を終え、クレインとロビンと別れたカナリアとクロウは、廊下で視線を交わらせる。
そして、カナリアが先に口を開いた。
「クロウさん、この後よろしくて? 私の部屋に行きますわよ」
「えっ、いや、また図書館に行きましょう。本もありますし」
「食事の時間が終わりましたら、図書館は閉じられますのよ。入口に書いてありましたわ」
「……そうでしたっけ」
「さあ、行きますわよ。貴方も何か気付いたようですし、謎が解明出来るかもしれませんわ!」
ふんふんっと、鼻を鳴らし、目を煌めかせたカナリアに、クロウは気まずげに溜息を吐いて、その後ろをとぼとぼと歩く。
とてつもなく遅く歩くクロウにカナリアは気付き、眉間に皺を寄せて、その手を掴んだ。
「何してますのよ、クロウさん!
早くしなければ、就寝時間になってしまいますわよ!」
「ちょっ、軽々しく手を繋がないでください!」
「はあ?! 貴方、散々、軽々しく私の腕を組んできたくせに、手くらいで何を言いますの?!」
「私は良いんですっ!!」
「意味が分かりませんわ! 早く行きますわよ!」
さっさと謎解明の話し合いをしたくて、ウズウズしているカナリアは、喚くクロウを無視して、足早に自室へと向かう。
そんな手を引っ張られているクロウの白い頬に赤みが差している事など、何一つ気付かないカナリアに、クロウは悔しそうに唇を噛んだ。
「私、気付きましたの。魔法は遺伝的要素が強いもの。そうなりますと、あの路地裏の民は全員祖が同じ一族だったのではと」
「……その可能性は高いですね」
立ったまま熱弁するカナリアを、ソファに座るクロウが見上げながら頷く。
げっそりとした顔をしながらも、カナリアの話を熱心に聞くクロウは、静かに言葉を続けた。
「路地裏の民が無魔法の一族と仮定して、何故王族が隠しているのか、この謎に結局行き着きますよね」
「そうですわね。無魔法の人間を増やさない為に隔離して、他の属性魔法の人間と交わらせないようにしているのか、とも考えられますけれど、それにしてはやり過ぎですわ」
「無魔法ならば、遺伝的には魔法を持ってる遺伝子の方が優先されると思いますしね。魔法を持ってる子供が生まれるだけで、何も問題はないはずです」
「ええ、それなのに人権侵害も甚だしい。無魔法の人間だけ、衣食住、結婚の自由まで制限されるなんて、何か隔離しなければならない理由があるとしか思えませんわね」
お互いの疑問点を言い合い、少しずつ謎の解明に近付いていくことが出来ている感覚に、カナリアはある種の爽快感を感じた。
未だに、何も見付け出せてはいない状況だが、クロウとの話し合いは、驚くほど有意義で、話がトントン拍子に進んでいく。
「……王族、は何か知っているんですかね」
「言いたいことは分かりますわ。ただ、貴方の両親がしたように、子供にはまだ隠されている可能性がありますわよ」
「でも、私みたいに隠し事を知っている可能性もありますよね」
少しの沈黙。
お互いに何をしなければいけないのか、分かっている。
視線を合わせ、二人が同時に口を開いた。
「「私があのバカから聞き出します」」
「……本気ですか、カナリア様」
「貴方こそ、本気で言ってますの」
真剣な表情の二人が、またもう一度同時に口を開く。
「「それならば、譲ります」」
お互いの考えていることが同じすぎて、二人は静かに溜息を吐いた。
そして、クロウが覚悟を決めた顔でカナリアを見つめた。
「……私が聞き出しますよ、カナリア様」
「いえ、私がしますわよ」
「お互いとっても嫌ですよね、この役回り。でも、カナリア様はあの馬鹿王子と顔を合わせれば、喧嘩しちゃうじゃないですか」
「そうですけれど、私の方が接点のない貴方より聞き出しやすいと思いますの」
「接点なんて、これから作ればいいんです。……それに、馬鹿王子といつも一緒の破廉恥野郎もいますし」
「貴方、ホウゴロウのこと毛嫌いし過ぎでは? 次会う時に不用意に淑女に触ることはマナー違反だと、再度注意しますから、そこまで警戒しなくてもよくてよ」
そう言い放ったカナリアに、本気で言ってるのかとでも言いたげな顔で、クロウは眉間に皺を寄せた。
そして、カナリアから視線を背けて、苛立たしげに拳を握る。
「幼馴染だとしても、カナリア様は警戒心が無さすぎると思います。私言いましたよね、今までのループと違って、あの人のカナリア様への態度が違いすぎるって。
絶対にホウゴロウは、カナリア様のこと好きです」
「……好きは好きでしょう。ですが、そういった類いではないはずですわよ」
言い切るカナリアに、とうとうクロウが立ち上がる。
カナリアに全く届いていない自分の言葉に、何か言いようのないモヤモヤとした感情が渦巻き、クロウは苛立ちとショックで声を荒げた。
「何でそう言い切れるんですか?! カナリア様は男性への警戒心が無さすぎる!!」
「そんなことありませんわよっ! 私ほど警戒心のある人間はいませんわ!」
「無い! 絶対に無い! クレイン様とも最近距離が近いし、あの馬鹿とアホの幼馴染とだってっ! 三人の世界作っちゃって!!」
「クロウ・ゴッドスピード!!」
荒ぶるクロウに、カナリアが一喝する。
ハッとしたクロウが、苦々しげに口を閉じて、ソファに座り込む。
そんな彼女を見下ろして、カナリアは額に手を当てた。
「……クロウさん、ここに来てから貴方は変ですわよ」
「すみません……」
「私と貴方はただの邪魔者仲間。それ以上でも以下でもありませんわ」
「私は友達になった、と、思ってます」
うるうるとした瞳で見つめながら言ったクロウに、カナリアがグッと、反論の言葉を飲み込む。
これ以上何かを言って彼女の地雷を踏む必要はないし、傷付ける言葉を言う意味も無い。
カナリアは一呼吸して、言葉を間違えないように気を付けながら、静かにクロウへと伝えた。
「……勝手に思いたければ、思って下さって結構。ですが、友人に対してならば、やはり貴方の言葉は行き過ぎですわよ。私の交友関係に口出しするのは、余計なお世話ですわ」
「……はい」
驚くほどに落ち込み、しゅんっとして俯くクロウに、カナリアの気まずさが限界を超えかける。
どうにかして、この気まずい空間から逃げ出したいカナリアは、何とか言葉を探して、亜麻色の髪の乙女を思い出した。
「今までのループのロビンさんは、大変でしたわね。こんな嫉妬深い親友がいたのですから、攻略対象との恋愛はさぞ苦労したことでしょう」
「え?」
「貴方、邪魔したこともあったと仰ってたでしょう? ロビンさんにもこういったことを言っていたのではなくて?」
面倒でしたでしょうね〜、なんてクスクス笑ってみるカナリアに、クロウがポカンとした顔を向ける。
想像していた顔と全く違う顔をしたクロウに、カナリアが首を傾げてみれば、彼女は顎に手を添え考え始めた。
「どうしましたの、クロウさん」
「邪魔、してたけど、ロビンに言ったことなかったです。こう、会う頻度を抑えさせようとしたり、そういうことばっかりしてて……私は、ロビンの事、好きだけど……」
「クロウさん?」
ブツブツと呟き始めたクロウに、カナリアが訝しげに覗き込む。
バチリと、至近距離で飛び込んできた紅の瞳に、漆黒の瞳が大きく見開かれた。と、同時に、顔を背けられる。
「……うそでしょ」
「なんですの、本当に。クロウさん、顔が赤いけれど熱でもあるんじゃなくて」
「熱のせいに、出来れば良かったです」
「はい?」
クロウが上を見上げて、両手で顔を覆う。
何が起きているのか分からない、ちんぷんかんぷんなカナリアは、その奇天烈な行動を呆気に取られながら見つめた。




