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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

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 日が落ち、図書館に灯りが灯り始めた頃、チラホラといた生徒達もいなくなり、カナリアとクロウの二人だけが熱心に本を読み続けていた。

 お互い何も話さず、ページを捲り続ける彼らの集中力は、凄まじい。夕食の時間もあとわずかだと言うのに、二人は気付いてもいないのだろう。


「おーい」


 黙々と、読み続ける二人に、誰かが声を掛ける。だが、二人には届かない。


「二人とも、食事の時間が終わりますよ」

「そうですよ、終わっちゃいますよ」


 何度も呼びかけるも、無視をされ続ける二人が、とうとう痺れを切らして、カナリアとクロウの持っている本を、上からするりと、奪い取る。

 漆黒と紅の瞳が不愉快そうに鋭く細まり、奪った張本人達に向けられれば、ロビンとクレインは困ったように眉を下げて、二人を見つめ返した。


「ここに来た当日に、夕食抜きになろうとする方達を、僕は初めて見ましたよ」

「ご飯抜きは良くないです、良くないですよ、二人とも。しっかり食べて、元気を蓄えなくちゃ!」


 ぷっくりと、頬を膨らませたロビンの可愛さにカナリアが撃ち抜かれ、本の世界から目の前のロビンへと集中の矛先が変わる。


 あの柔らかな頬を両手で挟んだら、とてつもなく気持ち良さそうですわ、なんて、同性ですら気色の悪い事を考えながら、邪な紅の変態は、さも平然を装い、大図書館の時計に目を向けた。


「……あら、もうそんな時間でしたの」

「ありがとう、ロビン、クレイン様。集中して気付きませんでした」

「二人とも、なかなか食堂に来ないから探したよ。歌魔法について予習をするなら、私も誘って欲しかったな」

「僕も誘って頂ければ、僕の知る限りの知識はお教えしましたよ。本も大切だと思いますがね」


 少し拗ねたようなロビンとクレインに、カナリアとクロウは顔を見合わせ、紅の瞳は面倒臭そうに、漆黒の瞳は優しく細まった。


「ふふっ、そうですね。二人も呼べば良かったかな?」

「そうだよ、狡いよ、二人だけで予習するなんて」

「聞き捨てなりませんわね。既に歌魔法を発現している私が、予習なんて必要だと思いまして? フォークとナイフを持ち始める前から、この国の灯りを私が作り出していますのよ?」

「ええっ、じゃあ、どうしてこんなに沢山の歌魔法の本を読んでいるんですか?」

「……クロウさんが、どーーーーしてもと言うから、クロウさんの予習に付き合ってあげただけですわ」

「……カナリア様?」


 明らかにカナリアの面前にある本の山は、クロウの山より遥かに高いのだが、話を合わせなさいと言わんばかりのジト目で睨まれれば、クロウは小さな溜息を吐く事しか出来ない。


「そうそう、カナリア様に手伝ってもらってたの。魔法がちゃんと発現するのか、ちょっと不安だったから。

 でも、カナリア様ったら、私に教えないで自分が勉強するのに集中しちゃったのよね」

「おや、困った先生ですね。生徒そっちのけで、自分が本に夢中になってしまうとは」


 クロウのささやかな反抗の言葉に、クレインが小さく笑いながら、カナリアを見やる。

 やれやれ、またですか、と、言いたげなその表情に、カナリアは不快感を露わにした。


 夜の勉強会で、教える立場のはずのカナリアが、自分の持ってきた本の世界に入り込み、授業が中断してしまうことは多々あった。

 何度も読み返してきた本だとしても、やはり、夢中になってしまうことに変わりない。

 クレインは、そんなカナリアを微笑ましく思いつつ、いつも彼女の集中が途切れるタイミングを見計らって、授業を再開させていた。

 カナリア自身も、クレインが思案している最中を見計らって、本を読んでいるのだが、集中してしまうと止まらなくなってしまう自分の悪癖は、なかなか直せはしないので、もう諦めているし、クレインにも諦めさせている。


 そんなカナリアの生徒第一号は、全てを知っているような顔で見てくるものだから、全く事実と異なる事に納得している顔にカナリアは余計に腹が立ってしまった。


「歌魔法については、私だってまだ知らないことは多いのですわ。知識はあって困るものでもないですし、そもそも自分の属性の魔法くらいしか、殆どの人間は知らないでしょう」

「うーん、まあ、それはそうですね。僕も光魔法については詳しいですが、四元素は教科書程度の知識ですし、僕の魔法の対極となる闇魔法については、あまり理解出来ていませんから」

「……闇魔法って、悪いことに使いやすい魔法の種別ですっけ」


 ロビンが首を傾げながら聞けば、クレインは顎に手を添え眉を下げる。


「うーん、一概にそうとは言えませんが、主に攻撃性の高い魔法を闇魔法と呼んではいますね。

 古代に起きた魔法戦争の時に、活躍したと書かれていた本を読んだことはありますが、時代と共に闇魔法も必要性が無くなったからか、闇の力が衰えて、そこまで危険な魔法は無くなったとか」

「あっ、そうなんですね!」

「ですが、今も犯罪者の中には洗脳や呪いの闇魔法で投獄されてる者達がいますわ。彼らの力は、光属性の魔法で解くことが可能ですけれど、危険なことには変わりありませんわね。

 そのせいで、闇魔法への偏見の目は未だにありますし」


 カナリアが本を戻しながら言い放てば、ロビンが不安そうな顔で俯く。

 そして、小さく呟いた。


「もし、私が闇魔法を発現してしまったら、皆にもっと嫌われちゃうのかな……」


 三人の視線がロビンへと向けられる。

 そして、一斉に口を開いた。


「そんなことない! 闇魔法も使い方次第だし、良くも悪くも使い手次第なのは全部の魔法に言えることだから!」

「そうですよ、クロウさんの言う通りです。僕の魔法だって、使い方次第で人の老化を進めさせたり、自己治癒力を低下させることになったりもしますから!」

「というか、ロビンさんが闇魔法を手に入れたとしても、使いこなせないでしょうし、貴女の評価がこれ以上下がることなんてないでしょう」

「……カナリア様、言い方」


 ふんっと、鼻を鳴らして、本を戻し続けるカナリアに、クロウが呆れたように溜息を吐けば、ロビンが堪らず笑い出した。


「ふ、ふふふっ! 確かに、私が闇魔法を発現しても、どうやって使うのか分からないです!」

「ええ、そうでしょうとも。しょうもないことを考えている暇があるなら、歌の練習でもして、明日の儀式の準備をした方が有意義ですわ」

「ねえ、本当に、カナリア様。その言い方が誤解を招くんですよ。悪すぎる言葉の使い方の良い例です」

「事実を言ったまでですわよ」


 励ましさえも、悪口にしか聞こえないカナリアに、クロウは、眉を下げながら、ロビンにつられて笑う。

 和気あいあいとし始めた三人娘に、クレインが優しく微笑み、「さあ、早く食事をしに行きましょう」と、本を急いで片し、四人は大図書館を出た。

 大きな格子窓からは、満天の星空と三日月が見え、夜も更けていたことがよく分かる。

 今更、お腹の奥がきゅうっと鳴り始め、空腹を伝えられたカナリアは、前を歩く笑顔のロビンと同じもの食べようと、画策しながら、窓の外を眺めた。


「そういえば、話は戻りますが、ロビンさんの家系は闇魔法の方がいらっしゃるんですか?」

「えっ? えーと、多分いないと思います」

「それならば、ロビンさんに闇魔法が発現する可能性は無いに等しいですよ。

 魔法の属性は、遺伝が殆んどですから」

「あっ、そういえばそうでしたね! でも、動物と仲良くなる魔法ってどの属性なんだろ」

「僕と同じ光属性ですかね」

「わっ、それなら嬉しいです!」


 推しカプのいちゃつき最高ですわね、と堪能した後に、カナリアがふと気付く。

 そして、バッと勢いよくクロウへと視線を向ければ、彼女もまた、何かに気付いたようにカナリアを見ていた。

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